米国株の取引時間が拡大し、日本時間の昼間でもリアルタイムで売買できる時代が近づいています。
投資家にとって売買できる時間が長くなることは便利ですが、注意しなければならない点もあります。
それが流動性です。
同じ銘柄であっても、通常取引時間と夜間では市場に参加している投資家の数や注文量が異なります。その結果、売値と買値の差であるスプレッドが広がり、少ない注文でも株価が大きく動くことがあります。
23時間取引が可能になっても、23時間すべてが同じ市場環境になるわけではありません。
米国株の夜間取引を利用するうえでは、流動性とスプレッドの仕組みを理解することが重要になります。
流動性とは何か
流動性とは、株式などの金融商品を希望する価格に近い水準で、どれだけ容易に売買できるかを表す考え方です。
売りたい人と買いたい人が多数存在し、大量の注文が出ている市場は流動性が高いといえます。
反対に注文が少なく、売買相手を見つけにくい市場は流動性が低いといえます。
例えば100ドル前後で取引されている株について、
100ドルで買いたい人が大量にいる
100ドルで売りたい人も大量にいる
という状態なら、大きな注文を出しても100ドル付近で売買しやすくなります。
これが流動性の高い状態です。
一方、買い注文や売り注文が少なければ、希望する価格で売買できるとは限りません。
100ドルで売りたいのに、買いたい人が98ドルにしかいなければ、すぐに売るためには98ドルまで価格を下げなければならない可能性があります。
売値と買値の差がスプレッド
株式市場では、売り手と買い手がそれぞれ希望する価格を提示しています。
この売値と買値の差をスプレッドといいます。
例えば、
最も高い買い注文が99ドル90セント
最も安い売り注文が100ドル
だったとします。
この場合のスプレッドは10セントです。
買いたい人が多く、売りたい人も多い銘柄では、売値と買値が接近しやすくなります。
そのためスプレッドも小さくなります。
ところが市場参加者が少なくなると状況が変わります。
最も高い買い注文が99ドル
最も安い売り注文が101ドル
となれば、スプレッドは2ドルに広がります。
同じ株でも、市場の流動性によって実際に売買できる条件が大きく変わるのです。
なぜ夜間は流動性が低くなりやすいのか
米国株の通常取引時間には、世界中の投資家が参加しています。
個人投資家だけではありません。
機関投資家、年金基金、投資信託、ヘッジファンドなどが大量の注文を出しています。
そのため主要銘柄では非常に多くの売買注文が集まります。
一方、夜間取引では市場参加者が少なくなる時間帯があります。
米国の投資家が寝ている時間帯であれば、通常取引時間ほど多くの注文が集まらない可能性があります。
23時間取引になったからといって、世界中の投資家が23時間ずっと取引するわけではありません。
市場が開いている時間と、投資家が活発に売買する時間は別なのです。
注文が少ないと株価が動きやすくなる
流動性が低い市場では、一つの注文が株価へ与える影響が大きくなります。
例えば売り注文が、
100ドルで100株
101ドルで200株
102ドルで300株
しか出ていなかったとします。
ここへ500株をすぐに買いたいという注文が入ると、100ドルの売り注文だけでは足りません。
101ドル、さらに102ドルの売り注文まで買わなければ500株を確保できません。
その結果、一つの買い注文だけで株価が100ドルから102ドルまで動くことがあります。
通常取引時間に大量の売り注文が並んでいれば、同じ500株の注文でもほとんど価格が動かないかもしれません。
市場に並んでいる注文の厚さが、株価の安定性に大きく関係しているのです。
決算発表では値動きがさらに大きくなる
時間外取引で特に注意したいのが企業の決算発表です。
米国企業では、通常取引終了後に決算を発表する企業が少なくありません。
市場予想を大幅に上回る決算が発表されれば、時間外取引で買い注文が殺到することがあります。
反対に業績見通しが市場予想を下回れば、売り注文が一気に増えることがあります。
ところが通常取引時間より市場参加者が少ないため、注文の偏りを吸収しにくくなります。
その結果、株価が短時間で大幅に上昇したり下落したりすることがあります。
翌日の通常取引が始まり、市場参加者が増えると、時間外についた価格から大きく戻ることもあります。
時間外の株価が、そのまま翌日の通常取引の価格になるとは限りません。
成行注文には特に注意が必要
流動性が低い時間帯では、注文方法も重要になります。
特に注意したいのが成行注文です。
成行注文は価格を指定せず、その時点で売買可能な価格で取引を成立させる注文です。
流動性が十分にある市場なら、現在の株価に近い水準で成立する可能性が高くなります。
しかし注文が少ない時間帯では、予想していた価格から大きく離れた価格で成立する可能性があります。
そのため時間外取引では、証券会社や取引サービスによって利用できる注文方法に違いがあります。
投資家としては「現在値」だけを見るのではなく、どの価格にどれだけの注文が存在するのかを意識する必要があります。
株価と実際に売買できる価格は同じではない
株式投資では画面に表示されている株価だけを見てしまいがちです。
しかし特に流動性が低い市場では、表示されている株価と実際に売買できる価格が大きく異なることがあります。
例えば画面上の直近価格が100ドルでも、
買い注文は98ドル
売り注文は102ドル
という状態なら、100ドルで自由に売買できるわけではありません。
すぐに買おうとすれば102ドル、すぐに売ろうとすれば98ドルとなる可能性があります。
この差が投資家にとって事実上の取引コストになります。
売買手数料が安くても、スプレッドが大きければ実質的な負担は大きくなるのです。
23時間取引で時間帯の重要性が高まる
23時間取引が始まると、米国株を売買できる時間は大幅に広がります。
日本時間の昼間にも売買できるようになれば、日本の投資家にとって利便性は大きく向上します。
しかし、どの時間帯で取引しても条件が同じになるわけではありません。
米国の通常取引時間
プレマーケット
アフターマーケット
米国の深夜時間帯
では、市場参加者や注文量が異なる可能性があります。
今後は「どの銘柄を買うか」だけでなく、「どの時間帯に買うか」も重要になってきます。
個人投資家が注意すべきこと
23時間取引では、いつでも株を売買できるという利便性が強調されがちです。
しかし個人投資家にとって重要なのは、取引できるかどうかではなく、どのような条件で取引できるかです。
特に確認したいのは、
市場の流動性
売値と買値の差
注文量
値動きの大きさ
利用できる注文方法
です。
また、急なニュースで株価が大きく動いているからといって、慌てて売買する必要があるとは限りません。
市場参加者が少ない時間帯の価格は、一時的に大きく振れている可能性があります。
通常取引が始まって流動性が回復すると、価格が大きく変化する場合もあります。
いつでも取引できることと取引すべきことは違う
23時間取引の登場によって、株式市場は為替市場や暗号資産市場のように、時間の制約が小さい市場へ近づいていきます。
しかし市場が開いているからといって、常に取引する必要があるわけではありません。
むしろ取引可能時間が長くなるほど、投資家自身が取引する時間を選ぶ必要があります。
長期投資を目的としている人なら、流動性が十分にある時間帯を選び、落ち着いて売買するという考え方もあります。
投資環境が便利になるほど、その便利さをどこまで利用するかという判断が重要になります。
結論
米国株の夜間取引で値動きが大きくなりやすい最大の理由は、通常取引時間に比べて流動性が低くなりやすいことです。
市場参加者や注文が少なくなると、売値と買値の差であるスプレッドが広がり、少ない注文でも株価が大きく動く可能性があります。
特に企業決算や重要なニュースが発表された直後には、買い注文や売り注文が一方向へ集中し、大幅な価格変動が起こることがあります。
23時間取引によって、日本の投資家は昼間でも米国株を売買できるようになります。
しかし「23時間取引できる」ことは「23時間いつでも同じ条件で取引できる」ことを意味しません。
取引時間の自由が広がるからこそ、流動性やスプレッドを確認し、どの時間帯で売買するのかを判断する知識がこれまで以上に重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「米国株を日本の昼間も売買 ネット証券5社、23時間取引に対応」
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「米国株の23時間取引 テック株への関心高く」