米国株は、ニューヨーク証券取引所やナスダックの通常の取引時間だけで売買されているわけではありません。
通常取引が始まる前にはプレマーケット、終了した後にはアフターマーケットと呼ばれる時間外取引があります。
日本の投資家にとって、この時間外取引は特に重要です。米国と日本には大きな時差があるため、米国市場の取引時間が拡大するほど、日本から米国株を売買できる時間帯も広がるからです。
さらに米国では取引時間を大幅に延長し、実質的な23時間取引へ移行する動きが進んでいます。
これまでのプレマーケットとアフターマーケットはどういう仕組みなのか。そして23時間取引になると何が変わるのでしょうか。
米国株の通常取引とは何か
米国株の中心となるのは、ニューヨーク証券取引所やナスダックで行われる通常取引です。
通常取引時間は米東部時間の午前9時30分から午後4時までです。
日本時間では、米国が夏時間の期間なら午後10時30分から翌日の午前5時まで、冬時間なら午後11時30分から翌日の午前6時までとなります。
そのため、日本の会社員が米国株をリアルタイムで取引しようとすると、夜遅くまで起きている必要があります。
しかし実際の米国株取引は、この通常取引時間だけで完結しているわけではありません。
通常取引の前後にも市場が存在しています。
プレマーケットとは何か
通常取引が始まる前の時間外取引をプレマーケットと呼びます。
米国企業のニュースや経済指標などは、通常取引が始まる前に発表されることがあります。
例えば企業が決算を発表したとします。
市場予想を大きく上回る利益を発表すれば、通常取引開始前から買い注文が集まり、プレマーケットで株価が上昇することがあります。
反対に業績見通しが悪化すれば、通常取引が始まる前から株価が大きく下落することもあります。
つまりプレマーケットには、通常取引が始まるまで待たずに新しい情報を株価へ反映させる役割があります。
日本の投資家が朝起きて米国株のニュースを見ると、「時間外で5%上昇」といった表示を目にすることがあります。
この時間外価格の一つがプレマーケットで形成された価格です。
アフターマーケットとは何か
通常取引が終了した後に行われる時間外取引がアフターマーケットです。
アフターアワーズ取引とも呼ばれます。
米国企業では通常取引終了後に決算を発表する企業が多くあります。
通常取引終了時点では100ドルだった株が、決算発表後のアフターマーケットで110ドルになることもあります。
この場合、通常取引の終値は100ドルでも、実際にはその後の市場で110ドル前後まで評価が変化していることになります。
翌日の通常取引が始まると、その時間外取引で形成された価格を参考にしながら売買が始まります。
そのためアフターマーケットは、翌日の通常取引の価格形成を先取りする市場としても重要です。
通常取引との違いは何か
プレマーケットやアフターマーケットでも株式を売買できますが、通常取引とまったく同じ市場環境ではありません。
大きな違いは参加者の数です。
通常取引時間には個人投資家だけでなく、機関投資家、ヘッジファンド、年金基金など世界中の市場参加者が大量の注文を出します。
そのため多くの銘柄では厚い売買が成立します。
一方、時間外取引では参加者や注文が少なくなりやすくなります。
売りたい人と買いたい人が少なければ、売値と買値の差も大きくなることがあります。
100ドル前後で取引されている株でも、通常取引なら売値と買値が非常に近いのに、時間外ではその差が大きくなる場合があります。
時間外でも売買できるからといって、通常取引と同じ条件で取引できるとは限らないのです。
なぜ時間外取引が必要なのか
株価を動かす情報は、取引所の通常取引時間に合わせて発生するわけではありません。
企業決算、企業買収、経営者の交代、政府の政策、経済指標、地政学的な出来事など、世界では24時間さまざまなニュースが発生します。
通常取引時間しか株式を売買できなければ、重大なニュースが発生しても市場が開くまで取引できません。
時間外取引があれば、新しい情報をより早く価格へ反映できます。
特に世界中から投資家が参加する米国市場では、米国以外の地域の時間帯でも売買したいという需要があります。
米国株が世界的な金融商品になったことで、取引時間を米国の昼間だけに限定する合理性が小さくなってきたともいえます。
電子取引の発達が時間外取引を広げた
株式取引が長時間化できる背景には、電子取引の発達があります。
かつて株式市場では、人を介した取引が大きな役割を果たしていました。
しかし現在では、注文の受付から売買成立まで多くの処理が電子化されています。
コンピューターシステムが注文を照合するため、人が取引所に集まっていなくても売買を成立させることができます。
インターネット証券の普及によって、個人投資家も世界中から注文を出せるようになりました。
市場が電子化されるほど、取引時間を特定の国の営業時間に合わせる必要性は薄れていきます。
23時間取引との関係
これまでの米国株市場では、
通常取引
プレマーケット
アフターマーケット
という三つの時間帯を組み合わせることで、実質的に長時間の取引が行われてきました。
これをさらに拡大するのが23時間取引です。
予定されている仕組みでは、1日1時間程度のメンテナンス時間を除き、ほぼ一日中米国株を売買できるようになります。
プレマーケットとアフターマーケットという通常取引を挟んだ時間外取引から、より連続的な市場へ近づいていくことになります。
日本の投資家にとって特に大きいのは、日本時間の昼間にも米国株をリアルタイムで売買できるようになることです。
これまで日本株を取引する時間と米国株を取引する時間は大きく分かれていました。
その境界が薄くなります。
日本株と米国株を同じ時間に選べる
例えば日本時間の午前10時に投資資金100万円を持っているとします。
これまではリアルタイムで売買するなら、基本的に日本株が中心でした。
しかし米国株の23時間取引が普及すると、同じ午前10時に日本株と米国株を比較できるようになります。
日本の半導体企業へ投資するのか。
米国の半導体企業へ投資するのか。
日本のIT企業へ投資するのか。
米国の巨大テック企業へ投資するのか。
投資家は市場が開く時間を待つのではなく、その場で資金を振り向けられるようになります。
取引時間の壁によって分かれていた日本市場と米国市場が、投資家のスマートフォンの中では一つの市場に近づいていくことになります。
23時間ずっと同じ流動性があるわけではない
ただし重要な注意点があります。
23時間取引が実現しても、23時間すべての時間帯で同じ量の売買が行われるとは限りません。
現在の通常取引時間には大量の投資家が参加しています。
一方、日本の昼間に相当する米国の深夜時間帯では、市場参加者が少なくなる可能性があります。
参加者が少なければ売買が成立しにくくなり、売値と買値の差であるスプレッドも広がりやすくなります。
少ない注文によって株価が大きく動く可能性もあります。
したがって、
23時間取引できる
ことと、
23時間いつでも同じ条件で取引できる
ことは同じではありません。
取引時間が長くなるほど、投資家には時間帯ごとの市場特性を理解することが求められます。
米国株は世界の時間で動く市場になる
米国株の取引時間拡大には、米国市場そのものの性格の変化も表れています。
ニューヨーク証券取引所やナスダックに上場している企業へ投資しているのは、米国人だけではありません。
日本、欧州、中国、シンガポールなど世界各地の投資家が参加しています。
それにもかかわらず、主要な取引時間が米国時間を中心に設定されていることは、海外投資家にとって不便でもありました。
23時間取引が定着すれば、アジアの投資家はアジア時間に、欧州の投資家は欧州時間に米国株を売買できます。
米国株市場が「米国の株式市場」であると同時に、「世界中の投資家が利用する世界市場」としての性格をさらに強めることになります。
結論
米国株の時間外取引には、通常取引前のプレマーケットと通常取引後のアフターマーケットがあります。
企業決算や経済指標など、通常取引時間外に発生した情報を株価へ早く反映できることが大きな役割です。
一方、時間外取引は通常取引より参加者が少なくなりやすく、流動性の低下やスプレッドの拡大、株価変動の大きさには注意が必要です。
そして米国株市場は、こうした時間外取引をさらに拡大し、実質的な23時間取引へ向かっています。
日本の投資家にとって最大の変化は、米国株を夜に取引するという従来の常識がなくなることです。
日本株と米国株を日本の昼間に同時に比較し、その場で投資先を選べるようになります。
プレマーケットとアフターマーケットの拡大の先にある23時間取引は、単なる営業時間の延長ではありません。
世界の株式市場から時間の壁が一つずつ消えていく動きと考えることができます。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「米国株を日本の昼間も売買 ネット証券5社、23時間取引に対応」
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「米国株の23時間取引 テック株への関心高く」