東京23区では、新築戸建て住宅の価格が9000万円を超える水準まで上昇しています。
東京カンテイによると、2026年7月の東京23区における新築小規模戸建て住宅の平均希望売り出し価格は9321万円でした。
住宅価格がここまで高くなると、多くの購入者にとって最大の問題になるのが住宅ローンです。
9000万円の住宅を買うには、年収がいくら必要なのでしょうか。
この問いに一つの正解はありません。
自己資金がどれくらいあるのか。
住宅ローン金利はいくらなのか。
返済期間を何年にするのか。
他に借金があるのか。
共働きなのか。
こうした条件によって借入可能額は大きく変わります。
ただし、住宅ローンには「借りられる金額」と「無理なく返せる金額」という二つの基準があります。
高額住宅を購入する時代ほど、この違いを理解することが重要です。
9000万円の住宅を買うから9000万円借りるとは限らない
まず住宅価格と住宅ローン借入額は同じではありません。
例えば9000万円の住宅でも、自己資金として2000万円を出せば、住宅ローンは7000万円です。
一方、自己資金がほとんどなければ9000万円近い借入れが必要になります。
さらに住宅購入では物件価格以外にも費用がかかります。
登記費用
住宅ローン関連費用
火災保険料
不動産取得税
仲介手数料が必要な場合の手数料
などです。
したがって住宅購入を考える場合には、物件価格だけではなく、自己資金と諸費用を含めた全体の資金計画を考える必要があります。
住宅ローン審査では返済負担率を見る
金融機関が住宅ローンの審査をするときに重要になる指標の一つが返済負担率です。
返済負担率とは、年収に対して年間のローン返済額がどの程度を占めるかを示す割合です。
例えば年収1000万円で、年間の住宅ローン返済額が300万円なら、単純な返済負担率は30%です。
年収1500万円で年間返済額が300万円なら20%です。
同じ住宅ローンでも年収が高いほど返済負担率は低くなります。
金融機関はこの数字だけで審査するわけではありませんが、返済能力を判断する重要な材料になります。
9000万円を借りると毎月いくら返すのか
例えば9000万円を35年間、元利均等返済で借りるとします。
金利が年1%なら、毎月の返済額はおおむね25万円台です。
年2%なら、おおむね30万円前後になります。
年3%になれば、さらに返済額は増えます。
毎月30万円なら年間返済額は約360万円です。
この年間360万円を年収別に単純比較すると、
年収1000万円なら36%
年収1200万円なら30%
年収1500万円なら24%
年収1800万円なら20%
程度になります。
もちろん実際の審査では税込年収、他の借入れ、金利条件などによって違います。
それでも9000万円という借入れが家計に与える大きさはイメージできます。
年収だけでは返済余力は分からない
住宅ローンについてよくある誤解が、「年収が高ければ高額住宅を買っても問題ない」という考え方です。
実際には同じ年収でも家計はまったく違います。
例えば年収1500万円の世帯でも、
子どもがいない世帯
子どもが3人いる世帯
では教育費が大きく違います。
自動車を所有しているかどうか。
私立学校へ通わせるか。
親への援助があるか。
老後資金をどの程度準備するか。
こうした支出によって住宅ローンへ回せる金額は変わります。
住宅ローン審査に通ることと、家計に余裕を持って返済できることは別問題です。
住宅価格の年収倍率という見方もある
高額住宅を考える場合には、住宅価格が年収の何倍なのかという見方もあります。
例えば世帯年収1000万円で9000万円の住宅を購入すれば、住宅価格は年収の9倍です。
世帯年収1500万円なら6倍です。
世帯年収1800万円なら5倍です。
年収倍率が高くなるほど、住宅購入が家計に与える影響は大きくなります。
ただし年収倍率も絶対的な基準ではありません。
自己資金が多ければ借入額は少なくなりますし、金利が低ければ返済負担も軽くなります。
それでも住宅価格が年収に対してどれだけ大きいかを見る簡単な目安になります。
共働き世帯では借入可能額が増える
東京で9000万円を超える住宅が売買される背景の一つとして、共働き世帯の存在があります。
夫婦双方に安定した収入があれば、世帯年収は大きくなります。
例えば、
夫の年収900万円
妻の年収700万円
なら、世帯年収は1600万円です。
一人の年収だけでは難しい住宅でも、二人の収入を前提にすれば購入可能額が増える場合があります。
そこで使われる方法の一つが収入合算です。
さらに夫婦それぞれが住宅ローンを借りるペアローンという方法もあります。
高額なマンションや戸建ての増加と、共働き世帯の住宅ローン利用は密接に関係しています。
ペアローンなら借入可能額を増やせる
ペアローンでは、夫婦それぞれが住宅ローン契約を結びます。
例えば9000万円の住宅ローンを、
夫5000万円
妻4000万円
と分けて借りるような形です。
夫婦それぞれの収入をもとに審査されるため、一人で9000万円を借りるより借入可能額を増やせる場合があります。
また一定の条件を満たせば、夫婦それぞれが住宅ローン控除を利用できる可能性があります。
一方で、二人の収入が長期間続くことを前提に高額住宅を購入することになる点には注意が必要です。
育児や介護などで一方の収入が減れば、返済負担が急に重くなる可能性があります。
共働きを前提にしすぎるリスクがある
住宅価格が高くなるほど、夫婦二人の収入を最大限利用して住宅を購入するケースが増えます。
しかし35年の住宅ローン期間中には、さまざまな変化が起こります。
出産。
育児休業。
転職。
病気。
介護。
離婚。
退職。
こうした出来事によって世帯収入が変化する可能性があります。
現在の世帯年収だけを基準に借入限度額まで住宅ローンを組むと、収入が下がったときに家計が厳しくなります。
高額住宅ほど「二人とも今の収入を35年間維持できる」という前提を置かないことが重要です。
金利が1%違うだけでも負担は変わる
9000万円という大きな住宅ローンでは、金利の影響も非常に大きくなります。
借入額が小さければ金利差の影響も限定的ですが、借入額が9000万円になると1%の違いでも長期間では大きな差になります。
特に変動金利型住宅ローンでは、将来金利が上昇する可能性があります。
契約時の金利だけを前提に家計を組むのは注意が必要です。
例えば現在の返済額なら余裕があっても、将来金利が上昇して返済負担が増えた場合でも対応できるかを考えておく必要があります。
住宅ローンでは「今払えるか」だけではなく「金利が上がっても払えるか」を確認することが重要です。
住宅ローン以外の住宅費もある
9000万円の住宅を購入した場合、毎月の住宅費は住宅ローンだけではありません。
戸建てなら、
固定資産税
都市計画税
火災保険
地震保険
将来の修繕費
などがあります。
マンションならこれに加えて、
管理費
修繕積立金
駐車場代
などが必要になる場合があります。
例えば住宅ローン返済が月30万円でも、その他の住宅関連費を合わせれば実質的な住居費はさらに大きくなります。
返済負担率を見るときにも、住宅ローンだけで判断しないことが重要です。
借りられる上限まで借りる必要はない
金融機関から「9000万円まで融資できます」と言われれば、それが安全に返済できる金額のように感じるかもしれません。
しかし金融機関が判断するのは主に融資を返済できる可能性です。
購入者の人生全体の家計を設計してくれるわけではありません。
住宅ローンを多く借りれば、その分だけ他のことに使えるお金は減ります。
教育費。
老後資金。
旅行。
自動車。
投資。
日常生活。
住宅にお金を使いすぎれば、他の支出を削る必要があります。
「借りられる額」と「借りたい額」を分けて考えることが重要です。
頭金を増やせば返済負担は軽くなる
高額住宅では自己資金の役割も大きくなります。
9000万円の住宅を9000万円借りる場合と、2000万円の自己資金を投入して7000万円借りる場合では、毎月の返済額は大きく違います。
借入額を減らせば金利上昇の影響も小さくできます。
ただし頭金を出しすぎて手元資金がなくなるのも問題です。
住宅購入後には家具や家電の購入、引っ越し、修繕など予想外の支出が発生することがあります。
生活防衛資金を残したうえで、どの程度を頭金にするか考える必要があります。
9000万円住宅では老後まで考える
35歳で35年ローンを組めば、完済時は70歳です。
45歳なら80歳になります。
住宅価格が高くなるほど返済期間を長くして毎月の返済額を抑えたくなりますが、その場合は老後までローンが残る可能性があります。
退職後の収入が現役時代より減少するのであれば、返済負担は相対的に大きくなります。
繰り上げ返済をするのか。
退職金を使うのか。
何歳まで働くのか。
こうした老後の資金計画と住宅ローンは切り離せません。
高額住宅ほど購入時だけでなく完済時点まで見る必要があります。
結論
9000万円の住宅ローンを借りるために必要な年収は、一律に決めることはできません。
金利、返済期間、自己資金、他の借入れ、家族構成、共働きかどうかなどによって大きく変わります。
ただし9000万円を35年間借りれば、金利水準によっては毎月30万円前後、あるいはそれ以上の返済になる可能性があります。
そこに固定資産税や保険、修繕費なども加わります。
共働き世帯では収入合算やペアローンによって高額住宅を購入しやすくなります。
一方、それは二人の収入が長期間続くことを前提に大きな借金を抱えることでもあります。
東京23区で9000万円、1億円という住宅が珍しくなくなっている現在、住宅ローンで最も重要なのは「いくら借りられるか」ではありません。
収入が減ったときでも返せるか。
金利が上がっても返せるか。
教育費や老後資金を確保できるか。
これらを含めて「いくらなら無理なく返せるか」を考えることです。
億戸建て時代には、住宅価格だけでなく家計全体を長期で見る力がこれまで以上に重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「新築戸建て9000万円台続く 7月東京23区 マンション高騰で需要増」