東京では住宅価格の上昇が続き、1人分の収入だけでは購入が難しい物件が増えています。
東京23区では新築戸建ての平均希望売り出し価格が9000万円を超え、マンションでは1億円を超える物件も珍しくありません。
こうした高額住宅を購入する際に、共働き世帯で利用されることが増えているのが「ペアローン」です。
ペアローンを利用すると、夫婦それぞれが住宅ローンを借りるため、1人で借りる場合よりも借入可能額を増やしやすくなります。
一方で、二つの住宅ローンを同時に抱える仕組みでもあります。
住宅価格が高くなればなるほど便利な制度に見えますが、離婚、死亡、収入減少などが起きた場合には複雑な問題が生じる可能性があります。
ペアローンは単なる「夫婦で借りる住宅ローン」ではありません。
仕組みとリスクを理解したうえで利用することが重要です。
ペアローンとは何か
ペアローンとは、夫婦など二人がそれぞれ住宅ローン契約を結び、一つの住宅を共同で購入する方法です。
例えば9000万円の住宅を購入するとします。
夫が5000万円。
妻が4000万円。
このように、それぞれが別々に住宅ローンを借ります。
住宅ローン契約は二つです。
夫には夫の住宅ローンがあります。
妻には妻の住宅ローンがあります。
二人の借入額を合計することで、9000万円の住宅購入資金を用意します。
共働き世帯が増え、住宅価格も高騰する中で、高額住宅を購入するための代表的な方法の一つになっています。
一人で借りるより借入可能額を増やしやすい
ペアローンの大きな特徴は、夫婦それぞれの収入を住宅ローン審査に活用できることです。
例えば夫の年収が800万円だったとします。
夫一人の収入だけでは、希望する住宅に必要な金額を借りられない可能性があります。
しかし妻にも年収700万円の収入があれば、世帯全体では1500万円です。
夫婦それぞれが住宅ローンを組めば、二人の返済能力を活用できます。
その結果、一人では購入できなかった9000万円や1億円程度の住宅も購入できる可能性が出てきます。
現在の東京の高額住宅市場では、共働き世帯の購買力が住宅価格を支える要素の一つになっています。
収入合算とは何が違うのか
夫婦の収入を住宅ローンに利用する方法には、ペアローン以外に収入合算があります。
両者は似ていますが仕組みが違います。
収入合算では、一般に一人が主たる債務者となり、もう一人の収入を合わせて住宅ローン審査を受けます。
住宅ローン契約そのものは基本的に一つです。
一方、ペアローンでは夫婦それぞれが住宅ローン契約を結びます。
つまり、
収入合算は一つのローン
ペアローンは二つのローン
という違いがあります。
この違いは住宅ローン控除や団体信用生命保険、手数料などにも影響します。
住宅の持分も夫婦で分ける
ペアローンを利用する場合には、住宅の所有権も夫婦で分けるのが一般的です。
例えば住宅価格9000万円について、
夫が5000万円負担
妻が4000万円負担
するなら、資金負担に応じた持分を設定することが基本になります。
不動産登記では、夫と妻がそれぞれ一定割合の共有持分を持ちます。
ここで重要なのは、実際の資金負担と登記上の持分を適切に対応させることです。
例えば夫がほとんどの購入資金を負担しているにもかかわらず、持分を半分ずつにすると、夫から妻への贈与と判断される可能性があります。
ペアローンでは借入額だけでなく、不動産の持分設定も重要になります。
夫婦それぞれ住宅ローン控除を利用できる可能性がある
ペアローンのメリットの一つが住宅ローン控除です。
一定の要件を満たせば、夫婦それぞれが自分の住宅ローン残高に応じて住宅ローン控除を利用できます。
一人だけで住宅ローンを借りる場合、控除を利用できるのは基本的にその借入人です。
ペアローンなら二人がそれぞれ借入人になるため、それぞれについて制度の適用を検討できます。
共働きで夫婦とも一定の所得税や住民税を負担している世帯では、税制上のメリットが生じる場合があります。
ただし住宅ローン控除には入居時期や住宅性能、床面積、所得などさまざまな要件があります。
ペアローンを組めば必ず夫婦二人とも最大限の控除を受けられるわけではありません。
二人とも団体信用生命保険に入る場合がある
住宅ローンでは一般に、団体信用生命保険が重要になります。
団体信用生命保険とは、住宅ローンの債務者が死亡した場合などに保険金によって住宅ローン残高が返済される仕組みです。
ペアローンでは夫婦それぞれが別々の住宅ローンを借りているため、それぞれのローンについて団体信用生命保険に加入する形が一般的です。
ここで注意したいのは、一方が死亡しても、もう一方の住宅ローンまで必ず消えるわけではないことです。
例えば夫5000万円、妻4000万円のペアローンだったとします。
夫が死亡して夫の住宅ローンが団体信用生命保険によって完済されても、妻の4000万円の住宅ローンは原則として残ります。
住宅ローンが全部なくなると誤解しないことが重要です。
ペアローンは二人の収入を長期間必要とする
ペアローンの最大のリスクは、高額な住宅を二人の収入によって支える点にあります。
例えば夫婦合計で年収1600万円あったとしても、その収入が35年間続く保証はありません。
出産。
育児。
転職。
病気。
介護。
勤務時間の短縮。
こうした出来事によって、一方の収入が減る可能性があります。
二人の年収を最大限利用して借入限度額近くまで住宅ローンを組んでいると、一方の収入が減っただけで家計が急に苦しくなることがあります。
現在払えるかだけではなく、一人の収入が減った場合でも対応できるかを考える必要があります。
育児休業や時短勤務も考えておく
特に若い共働き世帯では、住宅購入後に出産や育児を予定していることがあります。
その場合には、育児休業や時短勤務によって一時的に収入が減少する可能性があります。
住宅ローンは毎月一定額の返済が続きます。
保育料や教育費など新しい支出も増えます。
購入時に夫婦二人がフルタイムで働いている状態だけを前提にすると、子育て期の家計負担を過小評価する可能性があります。
ペアローンを利用する場合には、将来の働き方まで含めて資金計画を考えることが重要です。
離婚すると住宅ローンが複雑になる
ペアローンで特に難しい問題が離婚です。
夫婦が離婚したからといって、住宅ローン契約が自動的に消えるわけではありません。
例えば夫婦それぞれが住宅ローンを借り、住宅を共有している場合、
誰が住宅に住み続けるのか
住宅を売却するのか
残った住宅ローンを誰が負担するのか
共有持分をどうするのか
といった問題を整理する必要があります。
一方が家を出ても、自分名義の住宅ローンが残っていれば返済義務は続きます。
住宅を売却しても売却価格より住宅ローン残高のほうが多ければ、ローンを完済できない可能性もあります。
高額なペアローンほど離婚時の処理は複雑になります。
住宅価格が下落すると売りにくくなることがある
住宅ローン残高より住宅の売却価格が低い状態を一般にオーバーローンと呼ぶことがあります。
例えば夫婦で9000万円借りて住宅を購入し、数年後のローン残高が8000万円だったとします。
その住宅が7000万円でしか売れない場合、売却代金だけでは住宅ローンを完済できません。
不足する1000万円を別途用意する必要があります。
ペアローンでは二人の生活関係が変わったときに住宅を売却する必要が生じることがあります。
そのため購入時から将来の売却可能性も考えて物件を選ぶことが重要になります。
二つのローンなので諸費用も増えることがある
ペアローンは住宅ローン契約が二つになります。
そのため金融機関によっては、それぞれについて事務手数料や契約関係費用などが必要になります。
一人で一つのローンを借りる場合と比べて、手続きも増えます。
住宅ローン控除などのメリットだけでなく、契約が二つになることで生じるコストも確認しておく必要があります。
単純に「二人で借りれば得」とは限りません。
ペアローンで借りられる額と返せる額は違う
夫婦二人の年収を使えば、住宅ローンの借入可能額は大きくなります。
しかし借入可能額が増えることは、その金額を借りても安全だという意味ではありません。
金融機関の審査では現在の所得などから返済能力を判断します。
一方、家計では教育費、老後資金、生活費、旅行、投資などさまざまな支出があります。
住宅費を増やせば、それだけ他の選択肢は減ります。
特に9000万円や1億円規模の住宅では、数千万円単位の負債を夫婦それぞれが抱えることになります。
借入可能額を住宅予算にするのではなく、家計から逆算して住宅予算を決める視点が必要です。
高額住宅ほどペアローンへの依存度が高くなる
住宅価格が5000万円なら、一人の収入で住宅ローンを組める家庭も多くあります。
しかし9000万円、1億円、1億2000万円と住宅価格が上がるほど、一人で借りられる世帯は限定されます。
そこで共働き世帯の二人の所得を利用するペアローンの重要性が高まります。
これは逆に考えると、住宅価格が一人の所得から離れていることを意味します。
住宅価格上昇を共働き世帯の所得が支え、さらにペアローンによって購入可能額が増えることで高額住宅への需要が維持されるという側面もあります。
東京の住宅価格を考えるうえで、ペアローンは単なる金融商品ではなく住宅市場を支える仕組みの一つともいえます。
結論
ペアローンとは、夫婦など二人がそれぞれ住宅ローンを借り、一つの住宅を共同で購入する仕組みです。
夫婦それぞれの収入を活用できるため、一人で住宅ローンを借りる場合より借入可能額を増やしやすくなります。
一定の条件を満たせば、夫婦それぞれが住宅ローン控除を利用できる可能性があることもメリットです。
一方で住宅ローン契約は二つになります。
一方が死亡しても、もう一方のローンが残ることがあります。
出産や育児、転職などで一方の収入が減れば、返済負担が重くなる可能性があります。
離婚すれば共有住宅と二つの住宅ローンをどう処理するかという難しい問題も生じます。
東京で9000万円や1億円の住宅が増える中、ペアローンは高額住宅を購入するための有力な手段になっています。
しかしペアローンによって「買える住宅」が広がることと、「無理なく持ち続けられる住宅」が広がることは同じではありません。
夫婦二人の現在の年収を最大限利用するのではなく、どちらかの収入が減った場合でも生活を維持できるか。
35年という長い時間の中で家族の状況が変わっても返済を続けられるか。
ペアローンでは、借入可能額以上にこの視点が重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「新築戸建て9000万円台続く 7月東京23区 マンション高騰で需要増」