円安と国債安はどこまで続くのか 海外投資家が警戒する日本市場の構造変化編

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円相場と日本国債が大きく揺れています。

日米による協調為替介入が実施され、政府は食料品の消費税減税を決定しました。通常であれば円高や家計支援につながる政策として受け止められそうですが、海外の大手運用会社からは、円にも日本国債にもなお下落余地があるとの慎重な見方が出ています。

なぜでしょうか。

背景には、日本経済が長く続いたデフレと超低金利の世界から、インフレと金利のある世界へ移行しているという大きな構造変化があります。

さらに積極財政、日銀の金融政策、国債需給、日米金利差が複雑に絡み合っています。

海外投資家が日本市場をどのように見ているのかを整理すると、これからの円と国債を考えるうえで重要なポイントが見えてきます。

日本国債はなぜ売られているのか

債券価格と金利は反対方向に動きます。

日本国債が売られて価格が下落すると、国債利回りは上昇します。

海外投資家が日本国債に慎重になっている最大の理由の一つが、日本でインフレが定着しつつあることです。

かつての日本では物価がほとんど上昇しませんでした。そのため低い利回りの国債でも、実質的な資産価値を維持しやすい環境にありました。

ところが現在は状況が違います。

物価が上昇し、賃金も上がっています。しかも賃上げは大企業だけでなく中小企業にも広がりつつあります。

インフレ率が高くなれば、固定された利息しか受け取れない債券の魅力は低下します。

その結果、投資家はより高い利回りを要求するようになります。

日本国債の金利上昇は、単なる一時的な市場の混乱ではなく、日本経済の構造変化を反映している可能性があります。

長期金利3.3パーセントという見方は何を意味するのか

仏カルミニャックの債券運用担当者は、日本の長期金利の適正水準を3.3パーセント程度とみています。

非常に興味深い考え方です。

長期金利は大まかに考えると、

実質的な経済成長率

期待インフレ率

財政や需給などに対する上乗せ金利

によって形成されます。

例えば積極的な財政政策によって日本の潜在成長率が1パーセント程度まで高まり、長期的な期待インフレ率が2パーセント程度になると考えれば、それだけで名目金利は3パーセント程度になります。

そこに財政政策の不確実性や国債需給に対するプレミアムが加われば、3パーセントを超える金利も不自然ではないという考え方です。

日本では長期間にわたり長期金利がほぼゼロという状態が続きました。

その感覚からすると3パーセント台は非常に高く見えます。

しかしインフレ率や経済成長率から逆算すると、必ずしも異常な水準とは限らないというのが海外投資家の見方です。

日銀の国債買い入れ減額が市場を変えている

もう一つ重要なのが日銀の存在です。

日本国債市場では長年、日銀が圧倒的な買い手でした。

大規模な金融緩和によって大量の国債を購入し、金利上昇を抑えてきたからです。

しかし金融政策の正常化に伴って、日銀は国債買い入れを減らしています。

つまり、日本国債市場から最大級の買い手が徐々に後退しています。

買い手が減れば、国債価格を維持するためには民間投資家が購入しなければなりません。

そのためには、投資家にとって十分魅力的な金利が必要になります。

日銀が国債市場を支える時代から、市場参加者が国債価格を決める時代へ移りつつあるともいえます。

10年国債を売って30年国債を買う理由

興味深いのは、海外投資家が日本国債をすべて弱気で見ているわけではないことです。

カルミニャックは10年国債をショートする一方、30年国債を買っています。

一見すると矛盾しているように見えます。

しかし理由があります。

10年程度の国債金利には、これからの日銀の利上げやインフレ上昇が十分に織り込まれていない可能性があります。

そのため、さらに金利が上昇し、債券価格が下落すると考えています。

一方、30年国債などの超長期債では、すでに積極財政や将来の財政不安をかなり織り込んで金利が上昇しています。

つまり、

10年国債はまだ割高

30年国債はすでにかなり売られている

と判断しているわけです。

同じ日本国債でも、年限によって投資判断が大きく異なることが分かります。

食料品の消費税減税が国債市場に与える影響

政府が決定した食料品の消費税減税も重要です。

家計にとっては負担軽減になりますが、国債市場から見ると別の側面があります。

減税すれば政府の税収が減ります。

その穴を歳出削減などで埋めなければ、財政赤字が拡大する可能性があります。

さらに減税によって家計の可処分所得が増えれば、消費が押し上げられます。

景気にはプラスですが、需要が強くなればインフレ圧力が高まる可能性があります。

つまり消費税減税には、

財政赤字を拡大させる可能性

国内需要を押し上げる効果

インフレを高める可能性

という三つの側面があります。

いずれも国債金利を押し上げる方向に作用する可能性があります。

円は割安なのになぜ上昇しないのか

円相場についても興味深い状況が続いています。

購買力平価などからみれば、円は歴史的にかなり割安な水準にあるとの見方があります。

それでも円安が簡単には修正されません。

理由の一つが金利差です。

投資家からすると、低い金利の円を保有するより、高い金利を得られる通貨を保有した方が有利です。

そのため日本の金利が相対的に低い状態では、円を売って海外資産を保有する動きが起こりやすくなります。

円が割安だから必ず円高になるわけではありません。

為替市場では割安か割高かだけではなく、金利差や資金の流れが非常に重要になります。

協調為替介入だけでは円安を止められないのか

今回の日米協調介入には大きな意味があります。

日本単独ではなく米国も関与することで、市場に対する心理的な効果は強くなります。

しかし海外投資家の多くは、介入だけで長期的な円高トレンドを作ることには慎重です。

為替介入は市場の需給を一時的に変えることはできます。

しかし経済の基礎的な条件そのものを変えるわけではありません。

円高を持続させるためには、

日銀による金融政策正常化

日米金利差の縮小

日本への国内外からの投資拡大

財政政策への信認

などが必要になります。

為替介入は円安の流れを止める時間を稼ぐことはできても、その間にファンダメンタルズが変化しなければ再び円安圧力が強まる可能性があります。

円高になると日銀が利上げしにくくなるという逆説

ここには興味深い逆説もあります。

為替介入によって円高になれば、輸入物価の上昇圧力が弱まります。

エネルギーや食料などの輸入価格が低下すれば、国内のインフレ率も下がりやすくなります。

すると日銀は急いで利上げする必要がなくなる可能性があります。

ところが利上げが遅れれば、日米金利差が縮小しにくくなります。

その結果、再び円安圧力が強まる可能性があります。

つまり、

介入による円高

輸入インフレ低下

日銀の利上げペース鈍化

金利差縮小の遅れ

再び円安圧力

という循環が起こる可能性があります。

為替介入と金融政策の関係は単純ではありません。

GPIFが日本国債を買えば金利は下がるのか

市場ではGPIFが国内債券への投資を拡大するのではないかとの思惑もあります。

世界最大級の機関投資家であるGPIFが日本国債を大量に購入すれば、国債需給は改善します。

短期的には国債価格の上昇と金利低下につながる可能性があります。

ただし問題は投資合理性です。

GPIFは年金資産を長期的に運用する必要があります。

国内回帰という政策的な理由だけで、日本国債を大量に購入することが合理的なのかという問題があります。

海外債券などと比較した場合、インフレを差し引いた日本国債の実質利回りが十分魅力的なのかも問われます。

巨大な国内投資家が国債市場を支えるという構図がどこまで持続できるのかは、今後の重要な論点になります。

世界景気後退では日本国債が買われる可能性もある

もっとも、日本国債が一方向に売られ続けるとは限りません。

世界経済が景気後退に入れば状況は変わります。

景気が悪化すれば各国の中央銀行は金融緩和に動きやすくなります。

日本でも利上げ期待が後退し、場合によっては金利低下が意識される可能性があります。

金利が低下すると債券価格は上昇します。

現在、日本国債の金利が以前より高くなったからこそ、将来金利が低下した場合には債券価格の上昇余地も生まれています。

デフレ時代にはほとんど存在しなかった日本国債の値上がり余地が、金利上昇によって逆に生まれているともいえます。

日本市場は政策相場になっている

海外運用会社3社の見方に共通しているのは、現在の日本市場を単純な経済指標だけでは判断しにくいという点です。

日銀の利上げ。

政府の積極財政。

消費税減税。

為替介入。

GPIFの資産配分。

中東情勢とエネルギー価格。

米国の金融政策。

これらが円と国債の価格に同時に影響しています。

特に政府や中央銀行の政策によって相場が大きく動く政策相場の色彩が強まっています。

そのため円が割安だから買う、日本国債の金利が上がったから買う、といった単純な判断が難しくなっています。

結論

海外大手運用会社の見方から浮かび上がるのは、日本がデフレと超低金利を前提とした金融市場から、本格的に離れ始めているという姿です。

賃金上昇とインフレが定着し、政府は積極財政を進め、日銀は国債購入を減らしています。

こうした環境では、これまで日本では考えにくかった3パーセントを超える長期金利も、理論上は説明可能な水準になります。

一方、円は購買力からみれば割安でも、日米金利差や日本への資金流入が変わらなければ、本格的な円高にはつながりにくい状況です。

協調為替介入は重要ですが、それだけで円相場の構造を変えることは難しいでしょう。

これから注目すべきなのは、為替介入そのものよりも、日銀がどこまで利上げを進めるのか、積極財政によって成長率とインフレ率がどう変わるのか、そして国債の最大の買い手だった日銀に代わって誰が日本国債を保有するのかです。

円安と国債安は別々の問題に見えます。

しかしその根底には、日本がデフレ時代からインフレ時代へ移行するなかで、金融政策と財政政策の新しい均衡点を市場が探しているという共通の構造があります。

日本の金利と円相場の大きな転換は、まだ途中にあると考えておく必要がありそうです。

参考

日本経済新聞 2026年8月14日 朝刊 円・国債「なお下落余地」 海外大手運用3社に聞く

日本経済新聞 2026年8月14日 朝刊 長期金利3.3%が適正 仏カルミニャック債券運用共同代表 ギヨーム・リジャード氏

日本経済新聞 2026年8月14日 朝刊 世界景気後退時に買い 英フィデリティ・インターナショナル ポートフォリオ・マネージャー ジョージ・エフスタソポウロス氏

日本経済新聞 2026年8月14日 朝刊 政策主導、変動リスク 独アリアンツ・グローバル・インベスターズ シニア・ポートフォリオ・マネージャー シュテファン・リットナー氏

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