取引先の経営状態が悪化し、売掛金や貸付金を回収できなくなった場合、企業としては貸倒損失を計上することを検討します。
しかし、税務上は「回収できそうにない」という理由だけで自由に貸倒損失を損金算入できるわけではありません。
法人税基本通達では、金銭債権の貸倒れについて、大きく三つの類型に分けて考えることができます。
法律上の貸倒れ
事実上の貸倒れ
形式上の貸倒れ
です。
それぞれ貸倒損失を計上できる理由も、対象となる債権も、損金算入するための条件も異なります。
貸倒損失の税務を理解するためには、まずこの三つの違いを整理することが重要です。
法律上の貸倒れとは
一つ目が「法律上の貸倒れ」です。
法人税基本通達9-6-1が中心となる取扱いです。
これは、会社更生法や民事再生法などの法的手続、債権者間の協議、一定の債務免除などによって、金銭債権そのものが法律上切り捨てられた場合に、その切り捨てられた金額を貸倒損失として扱うものです。
例えば1000万円の貸付金について、法的整理によって600万円が切り捨てられ、400万円だけを返済することが確定したとします。
この場合、切り捨てられた600万円については、もはや法律上回収することができません。
そこで、その600万円を貸倒損失として処理することになります。
重要なのは、債権の全部が消滅する必要はないという点です。
債権の一部が法律上切り捨てられた場合には、その切り捨てられた部分について貸倒損失を認識することができます。
債務免除でも法律上の貸倒れになる場合がある
法律上の貸倒れには、債権者が債務者に対して債務免除を行うケースもあります。
ただし、単に債権者が「回収するのが面倒だから債権を放棄する」というだけで、当然に税務上の貸倒損失になるわけではありません。
債務者の債務超過状態が相当期間継続し、弁済を受けることができないと認められる場合などに、書面によって明らかにされた債務免除額について貸倒損失として扱われることがあります。
逆に、十分な支払能力を持つ相手に対して合理的な理由もなく債務免除をすれば、貸倒損失ではなく、相手に対する利益供与として寄附金などの問題が生じる可能性があります。
債権を放棄すれば必ず貸倒損失になるわけではない点が重要です。
事実上の貸倒れとは
二つ目が「事実上の貸倒れ」です。
法人税基本通達9-6-2が定める取扱いです。
これは法律上は債権が残っているものの、債務者の資産状況や支払能力などからみて、その金銭債権の全額を回収できないことが明らかになった場合に貸倒損失を認めるものです。
例えば取引先が深刻な経営不振に陥り、換価できる財産もなく、債権の回収が事実上不可能になったケースが考えられます。
法律上の債権は存在しています。
しかし経済的にみれば価値がなくなっている。
このような場合に、実態に合わせて貸倒損失を認識する考え方です。
事実上の貸倒れでは全額回収不能がポイント
法律上の貸倒れと事実上の貸倒れの大きな違いの一つが、「全額」という点です。
法律上の貸倒れでは、債権の一部分が法的に切り捨てられれば、その部分について貸倒損失を認識できます。
一方、法人税基本通達9-6-2による事実上の貸倒れは、金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合が対象です。
例えば1000万円の債権について、
700万円は回収できそうだが300万円は難しい
という程度では、300万円だけを9-6-2による貸倒損失として処理することはできません。
この場合には貸倒引当金など、別の制度を検討することになります。
担保や保証がある場合にはどうなるのか
事実上の貸倒れを判断するときには、債務者本人の財産だけを見るわけではありません。
担保や保証から回収できる可能性も考える必要があります。
例えば債務者自身には財産がなくても、価値のある不動産を担保として確保していれば、その担保から回収できる可能性があります。
保証人に十分な支払能力があれば、保証人から回収できる可能性もあります。
そのため、担保物がある場合には原則としてその処分後、保証債務がある場合にはその履行を踏まえて、最終的に全額回収不能かどうかを判断することになります。
事実上の貸倒れは、単に債務者が支払わないというだけではなく、債権全体として回収可能性がなくなったかを考える制度なのです。
形式上の貸倒れとは
三つ目が「形式上の貸倒れ」です。
法人税基本通達9-6-3が定める取扱いです。
これは主として売掛債権について、一定期間取引が停止しているなどの外形的な事実を基準として貸倒損失を認めるものです。
代表的なのが、継続的な取引を行っていた債務者について、その資産状況や支払能力などが悪化したため取引を停止し、一定の起算点から1年以上経過したケースです。
この場合には、売掛債権から備忘価額を控除した残額について貸倒損失として損金経理することが認められています。
形式上の貸倒れは貸付金には使えない
形式上の貸倒れで特に注意したいのが、対象となる債権です。
9-6-3の対象は、売掛金や未収請負金など、営業活動から生じる売掛債権が中心です。
貸付金その他これに準ずる債権には、この取扱いを適用できません。
例えば取引先への貸付金が1年以上返済されていなくても、
1年以上たったから形式上の貸倒れにする
という処理はできません。
貸付金については、法律上の貸倒れや事実上の貸倒れなどに該当するかを検討する必要があります。
三つの貸倒れは何が違うのか
三つの類型を簡単に整理すると、判断の中心となるポイントが異なります。
法律上の貸倒れでは、
法律上債権が切り捨てられたか
が重要になります。
事実上の貸倒れでは、
経済的に債権の全額が回収不能になったか
が重要です。
形式上の貸倒れでは、
売掛債権について一定期間の取引停止など所定の外形的条件を満たしたか
が重要になります。
つまり、
法律
経済実態
外形的事実
という異なる視点から貸倒れを判断していると考えると分かりやすいでしょう。
損金経理の要否にも違いがある
三つの類型では、会計処理との関係にも違いがあります。
法律上の貸倒れでは、法的手続などによって債権そのものが切り捨てられています。
この場合、切り捨てられた金額は、その事実が発生した事業年度の損金として扱われることになります。
これに対して、事実上の貸倒れと形式上の貸倒れについては、法人が貸倒れとして損金経理することが重要な要件になります。
この違いは実務上かなり重要です。
同じ「貸倒れ」という言葉を使っていても、税務上の処理方法まで完全に同じではありません。
決算時には、どの通達を根拠として貸倒損失を計上するのかを明確にしておく必要があります。
破産したらどの類型になるのか
取引先が破産した場合にも、三つの類型を理解しておくことが役立ちます。
破産手続開始決定があったというだけで、直ちにすべての債権が法律上消滅するわけではありません。
破産財団から配当を受けられる可能性もあります。
したがって、
破産したから法律上の貸倒れ
破産したから事実上の貸倒れ
と機械的に判断することはできません。
法的手続によって債権がどのように処理されたのか。
配当の可能性はあるのか。
債務者の財産状況はどうなっているのか。
こうした事実を確認し、どの類型の要件を満たすのかを判断する必要があります。
貸倒損失で最初に確認するべきこと
実務で回収困難な債権が発生した場合には、いきなり貸倒損失として仕訳をするのではなく、まず事実関係を整理することが重要です。
第一に、
法律上債権が切り捨てられているか
を確認します。
該当すれば9-6-1を検討します。
次に、法律上債権が残っているのであれば、
全額回収不能であることが明らかか
を確認します。
該当すれば9-6-2を検討します。
さらに売掛債権であれば、
取引停止から1年以上経過しているなど9-6-3の条件を満たしているか
を確認します。
この順番で整理すると、どの貸倒れに該当するのかを判断しやすくなります。
貸倒れにできなければ貸倒引当金を検討する
回収可能性がかなり低下していても、三つの貸倒れのいずれにも該当しないことがあります。
例えば1000万円の債権について、全額回収不能とはいえないものの、相当部分の回収が困難になっているケースです。
このような場合、
貸倒損失にできないなら何も処理できない
とは限りません。
一定の要件を満たす金銭債権については、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定を検討する余地があります。
つまり税務上は、
すでに貸倒れが発生したのか
将来貸倒れになる可能性が高いのか
を分けて考えているのです。
この違いを理解することが、貸倒損失と貸倒引当金を正しく使い分ける第一歩になります。
税務調査では類型ごとの証拠が重要になる
貸倒損失は法人の所得を直接減少させるため、税務調査でも確認されやすい項目です。
しかも、三つの類型によって必要となる証拠も異なります。
法律上の貸倒れであれば、
再生計画や更生計画
債権者間の協議書
債務免除通知書
などが重要になります。
事実上の貸倒れであれば、
債務者の財産状況
支払能力
担保の状況
保証人の資力
回収交渉の記録
などが重要です。
形式上の貸倒れであれば、
継続取引の事実
取引停止の理由
最後の弁済期
最後の入金日
担保の有無
などを確認できる資料が重要になります。
どの類型を使ったのかが曖昧なまま貸倒処理すると、税務調査で説明することが難しくなります。
結論
税務上の貸倒損失は、大きく法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ、形式上の貸倒れという三つの類型に整理できます。
法律上の貸倒れは、法的整理や一定の債務免除などによって債権が法律上切り捨てられた場合です。
事実上の貸倒れは、法律上は債権が残っていても、債務者の資産状況や支払能力などからみて金銭債権の全額が回収不能であることが明らかになった場合です。
形式上の貸倒れは、主として売掛債権について、一定期間の取引停止など所定の条件を満たした場合に認められる取扱いです。
同じ「回収できない債権」であっても、どの類型に該当するかによって要件は大きく異なります。
そのため貸倒損失を検討するときに最も重要なのは、
この債権は回収できるか
という問いだけではありません。
なぜ税務上貸倒れといえるのか
どの通達を根拠として損金算入するのか
まで整理する必要があります。
貸倒損失の税務は、この三つの類型を正しく区別するところから始まるのです。
参考
税のしるべ 2026年8月3日 「連載『不良債権に係る税務上の取扱いの再確認』税理士・東辻 淳次 第5回/回収不能の場合の貸倒れ」
国税庁 法人税基本通達 第9章第6節 金銭債権の貸倒れ
国税庁 タックスアンサー 貸倒損失として処理できる場合