子育て世帯の生命保険料控除は恒久化されるのか 生命保険協会の令和9年度税制改正要望を読み解く

税理士
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生命保険協会が、令和9年度税制改正に向けた要望を公表しました。

今回の重点要望として掲げられたのが、子育て世帯に対する生命保険料控除拡充の恒久化です。

現在、一定の子育て世帯については、一般生命保険料控除の所得税における適用限度額を通常より引き上げる時限措置が設けられています。生命保険協会は、この措置を一時的なものではなく恒久的な制度にするよう求めています。

さらに今回の要望には、企業年金の特別法人税や死亡保険金の相続税非課税枠など、私たちの老後や相続にも関係する重要な論点が含まれています。

そこで今回は、生命保険協会の令和9年度税制改正要望について整理します。

子育て世帯の生命保険料控除拡充とは何か

生命保険料控除は、生命保険などの保険料を支払った場合に、一定額を所得から差し引くことができる所得控除です。

現在の制度では、平成24年以後に締結した契約について、大きく次の3つの控除があります。

一般生命保険料控除

介護医療保険料控除

個人年金保険料控除

所得税では、それぞれ最高4万円、合計最高12万円が所得控除の対象となるのが基本です。

これに対して、23歳未満の扶養親族がいる場合には、一般生命保険料控除について特例が設けられています。

令和8年分と令和9年分の所得税では、一般生命保険料控除の適用限度額について、現行の4万円に2万円を上乗せする措置が講じられています。

つまり、対象となる子育て世帯については、一般生命保険料控除の限度額が最大6万円となります。

ただし、この措置は恒久的なものではありません。

現時点では令和8年分と令和9年分の所得税に適用される時限措置となっています。

生命保険協会は、ここを恒久化してほしいと要望しているわけです。

なぜ子育て世帯の控除拡充を恒久化するのか

背景にあるのは、子育て世帯の経済的負担です。

子どもがいる家庭では、日常生活費だけでなく、教育費や住宅費など長期間にわたって多くの支出が発生します。

同時に考えなければならないのが、万一の場合への備えです。

例えば、子育て中に家計を支えている親が亡くなった場合、残された家族の生活費や教育費をどのように確保するのかという問題があります。

生命保険は、こうしたリスクに備える代表的な手段です。

生命保険協会は、子育て世帯が将来に向けて安定的に保障を継続できる環境を整備するため、税制面から継続的に支援する必要があると考えています。

そのため、期間限定の税制措置ではなく、恒久的な制度への変更を求めています。

生命保険料控除が増えると税金はどれくらい減るのか

ここで注意したいのは、控除額が2万円増えたからといって、税金が2万円減るわけではないということです。

生命保険料控除は税額控除ではなく所得控除だからです。

例えば、所得税率が10%の人について、所得控除額が2万円増えたと単純化して考えると、所得税の減少額はおおむね

2万円×10%=2000円

となります。

所得税率が20%なら、おおむね4000円です。

実際の税負担への影響は所得や契約内容などによって異なります。

したがって、この制度は子育て世帯へ大きな現金給付をする仕組みというより、生命保険による保障を税制面から後押しする制度と考えると分かりやすいでしょう。

企業年金の特別法人税撤廃も要望

今回の税制改正要望では、子育て世帯だけでなく老後資産形成に関する重要な項目も盛り込まれています。

その一つが、企業年金などの積立金に係る特別法人税です。

生命保険協会は、公的年金を補完する制度として

確定給付企業年金

企業型確定拠出年金

厚生年金基金

個人型確定拠出年金

などについて、積立金に係る特別法人税を撤廃するよう求めています。

特別法人税は現在、課税停止措置が続いています。

生命保険協会は制度そのものを撤廃し、撤廃されない場合でも課税停止措置を延長することを求めています。

長期的な老後資産形成を促進する政策を進める一方で、年金積立金に課税する仕組みを残しておくことが適切なのかという問題があります。

今後の私的年金政策を考えるうえでも重要な論点です。

企業型確定拠出年金の中途引出し緩和も要望

企業型確定拠出年金については、退職時の中途引出しである脱退一時金の支給要件を緩和することも求めています。

確定拠出年金は基本的に老後資金を形成する制度であるため、自由に資金を引き出せる仕組みにはなっていません。

老後資金を確実に確保するためには合理的な仕組みですが、退職や転職などによって生活環境が大きく変化した場合には、制度の硬直性が問題となることがあります。

老後資産形成を守るという目的と、加入者の資金需要にどこまで柔軟に対応するか。

このバランスが今後の制度設計のポイントになります。

退職所得の特別徴収票の提出方法も見直し要望

生命保険協会は税制そのものだけでなく、企業の事務負担についても改善を求めています。

その一つが退職所得の特別徴収票です。

月次で市町村長へ提出する仕組みについて、年次での提出を可能にするよう求めています。

税務行政のデジタル化が進む一方で、企業側の報告事務が増えれば、制度全体としての効率化につながらない可能性があります。

今後の税制改正では税率や控除だけでなく、こうした事務負担の軽減も重要なテーマになっていくでしょう。

死亡保険金の相続税非課税枠拡大も要望

今回の要望の中で、相続に関係する人にとって注目したいのが死亡保険金の非課税限度額です。

現在、相続人が受け取る死亡保険金については

500万円×法定相続人の数

まで相続税が非課税となります。

例えば、法定相続人が3人なら1500万円です。

生命保険協会は、この現行制度に加えて

配偶者分500万円

未成年の被扶養法定相続人数×500万円

を加算するよう求めています。

仮に実現すれば、配偶者や未成年の子どもがいる家庭では、死亡保険金の非課税枠が現在より大きくなる可能性があります。

なぜ死亡保険金には非課税枠があるのか

死亡保険金には、一般的な金融資産とは少し異なる性格があります。

家計を支えていた人が亡くなった場合、遺族にはその後も生活費や教育費などが必要です。

生命保険は、多くの契約者が保険料を負担し、万一のことが起きた人に保険金を支払う相互扶助の仕組みによって成り立っています。

死亡保険金の相続税非課税制度にも、遺族の生活保障という考え方があります。

生命保険協会は特に配偶者や未成年の子どもへの保障を厚くすることで、遺族の生活資金をより確保しやすくすることを求めています。

少子化対策や子育て支援という観点からも注目される税制改正要望といえます。

国際課税も生命保険会社にとって重要な問題

今回の要望には国際課税についても盛り込まれています。

企業活動のグローバル化に伴い、国際的な課税ルールは大きく変化しています。

生命保険会社も海外事業や海外投資を行っているため、国際課税制度の変更による影響を受けます。

生命保険協会は、国際課税ルールに従って国内法を整備、施行する際には、企業の事務負担や諸外国の税制度、運用実態などを考慮するよう求めています。

日本の生命保険会社や保険グループの事業活動が過度に阻害されない制度設計にしてほしいという要望です。

税制改正要望と実際の税制改正は別

今回の内容を見る際に、最も注意したいポイントがあります。

生命保険協会が要望したからといって、そのまま令和9年度税制改正で実現するわけではありません。

今後、政府や与党の税制調査会などで議論され、年末に向けて税制改正の方向性が固められていきます。

その過程では、税収への影響や他の子育て支援策とのバランス、税制の公平性なども検討されます。

特に生命保険料控除については、税負担能力の高い人ほど所得控除による減税額が大きくなりやすいという所得控除特有の問題もあります。

子育て支援を所得控除で行うのか、税額控除や給付によって行うのかという議論も重要です。

今回の要望は決定事項ではなく、令和9年度税制改正に向けた議論の出発点として見る必要があります。

結論

生命保険協会の令和9年度税制改正要望で特に注目されるのが、子育て世帯に対する生命保険料控除拡充の恒久化です。

現在は令和8年分と令和9年分の所得税に限って、23歳未満の扶養親族がいる場合、一般生命保険料控除の適用限度額に2万円を上乗せする措置が講じられています。

生命保険協会は、子育て世帯が安定的に保障を継続できる環境を整えるため、この制度を恒久化するよう求めています。

さらに、企業年金の特別法人税撤廃、企業型確定拠出年金の脱退一時金の要件緩和、死亡保険金の相続税非課税限度額拡大なども要望されています。

これらに共通しているのは、現役時代の保障だけでなく、老後や相続まで含めて生命保険や私的年金を活用しやすい税制をつくろうという考え方です。

もっとも、現段階ではあくまで業界団体からの税制改正要望です。

令和9年度税制改正でどこまで採用されるのか。

特に子育て世帯の生命保険料控除拡充が時限措置のまま終了するのか、それとも恒久化されるのかは、今後の税制改正議論で注目したいポイントです。

参考

税のしるべ 2026年8月3日 生保協会が9年度税制改正で要望、子育て世帯に対する生命保険料控除拡充の恒久化を

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