契約は守れなくても関係は壊さない 履行が困難な時代に求められる契約実務

経営

近年、世界情勢の変化や自然災害、サプライチェーンの混乱などにより、契約どおりに商品やサービスを提供できない企業が増えています。しかし、履行が困難になったからといって、すぐに契約を解除したり、一方的に履行を停止したりすれば、多額の損害賠償や長年築いてきた取引関係の悪化を招くおそれがあります。

現代の契約実務では、「契約を守ること」と同じくらい、「取引先との関係を維持すること」が重要になっています。本記事では、履行が困難になった場合に企業が知っておくべき法的な考え方と、実務上の対応ポイントについて分かりやすく解説します。

債務不履行になるとどのようなリスクがあるのか

契約どおりに履行できなければ、まず問題となるのが債務不履行責任です。

民法では、債務者が契約内容どおりの履行をしない場合、原則として損害賠償責任を負うことになります。一方で、履行不能が契約締結時には予見できなかった事情によるものであり、債務者の責任ではないと認められる場合には、損害賠償責任を免れる可能性もあります。

さらに、契約内容によっては違約金条項が設けられていることもあり、実際の損害の有無にかかわらず支払義務が発生する場合もあります。

契約解除は簡単には認められない

履行できなくなった場合でも、直ちに契約解除が認められるとは限りません。

民法では、原則として相手方が履行を催告し、それでも履行されない場合に解除できる仕組みとなっています。また、履行不能である場合には催告なしで解除できることがありますが、「履行不能」に該当するかどうかは厳格に判断されます。

例えば、単なる原材料価格の高騰や採算悪化だけでは履行不能とは認められないことが多く、供給源が完全に途絶え、代替調達も客観的に不可能であるような場合に初めて履行不能となる可能性があります。

まず確認すべきは契約書の内容

履行困難な事態に直面したとき、最初に行うべきことは契約書の確認です。

特に重要なのは次の条項です。

  • 不可抗力条項
  • 中途解約条項
  • 解除条項
  • 協議条項
  • 違約金条項

不可抗力条項では、天災や戦争、感染症などが免責事由として定められていることがあります。また、不可抗力が発生した場合に速やかな通知義務を課している契約もあるため、内容を十分確認する必要があります。

協議条項がある場合には、契約内容の見直しや条件変更について話し合う法的な根拠となるため、実務上は非常に重要な役割を果たします。

事情変更の原則は適用されるのか

契約締結後に予想できなかった重大な事情が発生し、そのまま契約を維持することが著しく不公平になる場合には、「事情変更の原則」が問題となります。

例えば、戦争や大規模災害など契約締結時に予見できなかった出来事が契約の前提を大きく変えてしまった場合には、契約内容の変更や解除が認められる余地があります。

もっとも、裁判所は事情変更の原則の適用には慎重であり、例外的な場面に限られることも理解しておく必要があります。

実務では初動対応が最も重要

法的な主張以上に重要なのが、履行困難が判明した直後の対応です。

取引先への連絡が遅れれば、相手企業の被害が拡大し、その損害について責任を問われる可能性も高まります。そのため、履行が困難になる可能性が判明した段階で、速やかに状況を共有し、誠実に協議を開始することが望ましいとされています。

また、交渉を有利に進めるためには、

  • 履行不能となった客観的な証拠
  • 供給停止通知
  • メールや議事録
  • 交渉経緯の記録

などを保存しておくことも重要です。これらは後に法的主張を裏付ける証拠となる可能性があります。

関係維持を優先した交渉が企業価値を守る

実務上は、「全面的に責任を否定する」という姿勢よりも、

  • 納期延長
  • 数量調整
  • 価格改定
  • 一部履行
  • 一部賠償

などを組み合わせた柔軟な提案の方が、取引関係を維持しやすいとされています。誌面でも、企業の負担は大きくなる傾向がある一方で、条件変更や価格改定などの協議による解決は関係維持につながりやすいことが整理されています。

企業活動は一度の契約だけでは終わりません。将来の取引まで見据えた交渉姿勢こそが、長期的な企業価値につながるのです。

結論

履行困難な事態では、「契約違反だから終わり」という発想ではなく、「法的リスクを抑えながら関係を維持する」という視点が重要になります。

そのためには、まず契約書を確認し、不可抗力条項や協議条項などの内容を正確に把握することが欠かせません。そのうえで、早期の情報共有、証拠の保存、代替案の提示、そして誠実な協議を進めることが、紛争を最小限に抑える最善策となります。

契約は企業活動の土台ですが、その先にある「信頼関係」こそが、長く企業を支える最大の資産であることを忘れてはならないでしょう。

参考

企業実務 2026年8月号

「契約は守れなくても、関係は壊さない 履行が困難な事態を乗り切るための法的論理と交渉の実務」 湊総合法律事務所 弁護士 中飯裕大 著

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