株式を売買できる場所は、東京証券取引所だけではありません。PTSやダークプールなど複数の取引場所が存在するため、同じ銘柄でも市場によって価格や注文数量が異なることがあります。
そこで活用されるのが「SOR」です。SORは複数の市場を瞬時に比較し、より有利な条件で取引できる市場へ注文を振り分ける仕組みです。
PTSの売買シェアが拡大するなか、SORは市場間競争のメリットを個人投資家に届ける重要なインフラになっています。
SORとは何か
SORとは「Smart Order Routing」の略で、日本語ではスマートオーダールーティングと呼ばれます。
証券会社が顧客から株式の注文を受けたとき、複数の市場の価格や注文状況を比較し、より有利と判断した市場へ自動的に注文を送る仕組みです。
例えば、ある株式について、
東証では1000円
PTSでは999円80銭
別のPTSでは999円50銭
で売り注文が出ているとします。
投資家が買い注文を出した場合、SORはこれらを比較して、より安い市場へ注文を送ることができます。
なぜSORが必要なのか
株式市場が一つしかなければ、注文先を選ぶ必要はありません。
しかし現在は、同じ株式を複数の市場で売買できます。
そのため、証券会社が東証だけに注文を送っていると、PTSなどに存在するより有利な価格を逃す可能性があります。
SORはこうした価格差を自動的に探し、投資家にとってより良い取引条件を見つける役割を担います。
人間が複数市場の板情報を一つずつ確認して判断するのではなく、コンピューターが瞬時に比較する点が特徴です。
SORは価格だけを見ているわけではない
SORというと、最も安く買える市場や最も高く売れる市場を単純に選ぶ仕組みと思われがちです。
しかし実際には、価格だけでなくさまざまな条件を考慮します。
代表的なものは、
価格
注文数量
流動性
約定可能性
取引コスト
注文成立までの速さ
などです。
例えば、最も安い価格が提示されている市場でも、売り注文が100株しかなければ、1000株の買い注文をすべて成立させることはできません。
その場合、SORは複数市場へ注文を分けることがあります。
注文を複数市場に分割する仕組み
SORの重要な特徴の一つが、注文を分割できることです。
例えば1000株を買いたいとします。
市場Aには999円で300株
市場Bには999円50銭で400株
市場Cには1000円で1000株
の売り注文があるとします。
この場合、SORはまず市場Aで300株、市場Bで400株を買い、残り300株を市場Cへ送るといった処理を行うことがあります。
こうすることで、1000株すべてを1000円で購入するより、平均購入価格を下げられる可能性があります。
最良執行方針との関係
SORと密接に関係するのが最良執行方針です。
最良執行方針は、証券会社が顧客の注文をできるだけ有利な条件で成立させるための基本的な考え方です。
一方、SORはその考え方を実際の注文処理に反映するシステムです。
つまり、
最良執行方針はルール
SORは実行する仕組み
と整理すると分かりやすいでしょう。
証券会社がどの市場を比較対象とするか、どの要素を重視するかによってSORの動きも変わります。
PTSとの関係
SORが注目される大きな理由が、PTSの成長です。
日本株の売買が東証にほぼ集中していた時代には、複数市場を比較する必要性は現在ほど高くありませんでした。
しかしPTSの売買シェアが拡大すると、東証より有利な価格がPTSに存在する場面も増えてきます。
証券会社がPTSをSORの比較対象に組み込めば、投資家は自分で市場を比較しなくても、有利な価格で約定できる可能性があります。
PTSの成長とSORの普及は、いわば表裏一体の関係にあります。
ダークプールとの関係
SORの比較対象には、PTSだけでなくダークプールが含まれる場合もあります。
ダークプールとは、注文情報を公開せずに投資家同士の注文をマッチングする仕組みです。
証券会社によっては、
東証
PTS
ダークプール
などを比較し、最も有利な場所を探します。
ただしダークプールは注文情報が公開されないため、公開市場とは異なる特徴があります。
そのため、どの市場をどの順番で探索するかというSORの設計も重要になります。
SOR利用で投資家にどんなメリットがあるのか
SORの最大のメリットは、価格改善の可能性です。
例えば東証より1円安い価格で100株購入できれば、100円分有利になります。
一回の取引では小さな差でも、取引回数や株数が増えれば影響は大きくなります。
また複数市場を利用することで、約定可能性が高まる場合もあります。
一つの市場だけでは注文数量が不足していても、複数市場の注文を組み合わせることで取引を成立させられる可能性があります。
価格改善とは何か
SORを理解するうえで重要なのが「価格改善」です。
価格改善とは、投資家が当初想定していた価格より有利な価格で取引が成立することです。
例えば東証の最良売り気配が1000円だったとします。
SORがPTSを探した結果、999円50銭で買えれば、1株あたり50銭の価格改善になります。
1000株なら500円です。
こうした小さな改善を積み重ねることが、取引コストを抑えることにつながります。
SORにも注意点がある
SORを利用すれば必ず有利になるわけではありません。
株価や注文状況は極めて短時間で変化します。
SORがある市場に注文を送った瞬間には、すでにその価格の注文がなくなっていることもあります。
また、証券会社によって比較する市場や判断基準が異なります。
そのため、SORという名称が同じでも、すべての証券会社で同じ結果になるとは限りません。
投資家にとっては、利用する証券会社がどの市場を比較し、どのようなルールで注文を振り分けているかを確認することも重要です。
市場間競争を支える仕組み
SORは単に投資家の注文を便利にするシステムではありません。
市場間競争を機能させるうえでも重要です。
仮にPTSが東証より有利な価格を提示しても、証券会社が注文を東証にしか送らなければ、PTSの価格競争力は十分に生かされません。
SORによって有利な市場へ自動的に注文が流れるようになれば、各市場は注文を獲得するために競争するようになります。
その結果、
価格改善
手数料引き下げ
システム高速化
取引サービス向上
などにつながる可能性があります。
PTS制度見直しとの関係
金融庁がPTS制度の見直しを検討する背景には、PTSの売買シェア拡大があります。
今後、市場シェアの上限や取引所への移行ルールが見直されれば、日本株を売買できる市場の競争環境がさらに変わる可能性があります。
市場が増えれば、SORの役割はより重要になります。
一方で、市場が細かく分かれるほど、価格情報や流動性を正確に把握して注文を振り分ける仕組みも複雑になります。
PTS制度改革は、SORのあり方とも密接に関係してくるでしょう。
結論
SORとは、東京証券取引所やPTSなど複数の市場を比較し、より有利な条件で取引できる市場へ株式注文を自動的に振り分ける仕組みです。
価格だけでなく、注文数量、流動性、約定可能性、取引コストなどを考慮し、場合によっては一つの注文を複数市場へ分割します。
PTSの売買シェアが拡大するほど、投資家が市場間競争のメリットを享受するためにはSORの役割が重要になります。
そしてSORが市場を比較するとき、価格差を生み出す重要な要素の一つが株価の刻み幅です。
この株価の刻み幅を「呼び値」といいます。
参考
日本経済新聞 2026年8月7日 朝刊
私設取引「PTS」、制度見直し検討 金融庁 シェア10%上限引き上げ議論 売買活況で対応急ぐ