不動産投資では、利回りや物件価格とともに見落としてはいけないリスクがあります。
それが流動性リスクです。
流動性とは、資産を必要なときに適正な価格で現金化できる度合いを意味します。
上場株式であれば、市場が開いている時間に売却注文を出すことで、通常は比較的短期間で現金化できます。
しかし、不動産そのものは簡単には売却できません。さらに私募REITなどの非上場不動産ファンドでは、投資口についても上場市場がありません。
平常時には問題になりにくい流動性ですが、投資家から資金回収の動きが一斉に強まると、ファンド経営を左右する問題になります。
今回は、不動産ファンドが抱える流動性リスクについて見ていきます。
流動性とは
流動性とは、資産をどれだけ簡単に現金へ換えられるかを示す考え方です。
例えば現金は、そのまま支払いに利用できるため極めて流動性が高い資産です。
上場株式も証券取引所で日々売買されているため、一般的には比較的流動性が高い資産といえます。
一方、不動産は異なります。
売却しようと思っても、買い手を探し、価格交渉を行い、契約や決済をする必要があります。
数十億円、数百億円規模の大型不動産なら、買い手も限定されます。
そのため不動産は、代表的な低流動性資産です。
流動性リスクとは
流動性リスクとは、資産を売却したいときに売却できなかったり、売却するために大幅な値下げを迫られたりするリスクです。
重要なのは、売れないことだけが流動性リスクではないという点です。
例えば100億円程度の価値があると考えられている不動産でも、すぐに現金が必要になれば90億円や80億円で売却せざるを得ない場合があります。
時間をかければ適正な価格で売却できたかもしれません。
しかし、資金が必要な期限が迫っていれば待つことができません。
この時間と価格の問題が流動性リスクの本質です。
上場REITは市場で投資口を売却できる
上場REITの場合、投資家は証券取引所を通じて投資口を売却できます。
資金が必要になれば、市場価格で売却することで投資資金を回収できます。
このとき、基本的にREIT自身が投資家へ現金を返すわけではありません。
売却した投資家から、新しく購入する投資家へ投資口が移ります。
つまり投資家同士が市場で売買することで流動性が確保されています。
これは上場REITの大きな特徴です。
市場価格が下落するリスクはある
ただし、上場しているから流動性リスクがないわけではありません。
金融市場が大きく混乱した場合には、REIT価格が急落する可能性があります。
売ることはできても、希望する価格では売れないことがあります。
例えばNAVに対して大幅に割安な価格まで投資口価格が下落していても、現金が必要ならその価格で売却しなければならないかもしれません。
上場REITは換金しやすい一方、市場価格の変動を直接受けるという特徴があります。
私募REITには上場市場がない
私募REITでは事情が異なります。
私募REITの投資口は証券取引所に上場していません。
そのため投資家が売却したいと思っても、証券取引所で売却注文を出すことはできません。
買い手を個別に探す必要があります。
証券会社などを通じて投資口を購入してくれる別の機関投資家を探す相対取引が利用されることがあります。
買い手が見つかれば投資口を売却できます。
しかし、必ず買い手が見つかる保証はありません。
ここに私募REIT特有の流動性リスクがあります。
なぜ低流動性でも投資家が集まったのか
それでは、なぜ機関投資家は流動性の低い私募REITへ投資してきたのでしょうか。
大きな理由の一つが安定性です。
上場REITは証券取引所で価格が毎日変動します。
株式市場が急落すれば、不動産そのものの収益力が大きく変化していなくても投資口価格が下落することがあります。
一方、私募REITは市場で日々売買されないため、短期的な市場価格変動の影響を受けにくいという特徴があります。
長期間保有する機関投資家にとって、安定した分配金を得られる商品として利用されてきました。
流動性の低さと引き換えに、価格変動を抑えやすい仕組みだったともいえます。
金利上昇で状況が変わる
超低金利時代には、私募REITが提供する比較的高い利回りに魅力がありました。
国債や預金などの利回りが非常に低かったためです。
しかし金利が上昇すると状況は変わります。
国債などからも一定の利回りを得られるようになれば、投資家は流動性の低い不動産ファンドを保有する必要性を改めて検討します。
さらに金融機関自身の資金需要が高まれば、投資資産を売却して現金を確保する動きが出る可能性があります。
その結果、私募REITの投資口を売却したい投資家が増えることも考えられます。
売り手ばかり増えるとどうなるのか
市場の流動性は、買い手と売り手のバランスによって成り立っています。
私募REITの投資口を売りたい機関投資家が増えても、新たに購入したい投資家が十分にいれば問題は小さくなります。
しかし金利上昇などによって私募REITの投資魅力が低下すると、買い手が減る可能性があります。
売りたい投資家は多い。
買いたい投資家は少ない。
この状態になると、投資口を円滑に売却することが難しくなります。
流動性リスクが顕在化する局面です。
ファンド側が資金を用意する場合もある
投資口の買い手が見つからない場合、ファンド側で対応する仕組みが設けられている場合があります。
しかし、REITが大量の現金を常に保有しているとは限りません。
REITの主要な資産は不動産です。
そのため資金を確保するには、保有物件を売却する必要が生じることがあります。
ここで投資口の流動性問題が、不動産そのものの売却問題へ波及します。
不動産はすぐには売れない
例えば投資家への資金返還のために100億円が必要になったとします。
ファンドが十分な現預金を持っていなければ、保有不動産を売却する必要があります。
しかし100億円規模の不動産を数日で売却することは簡単ではありません。
通常であれば複数の買い手候補を探し、最も有利な条件を提示した相手へ売却できます。
ところが資金返還の期限が迫っていれば、時間をかけられません。
その結果、本来期待できる価格より安い価格で売却する可能性があります。
これが不動産ファンドにおける流動性問題の難しさです。
売却がさらなる売却を招くこともある
不動産を安値で売却すると、その影響が他の資産へ波及する可能性があります。
例えば近隣の類似物件が低い価格で売却されれば、不動産鑑定評価にも影響することがあります。
ファンドの資産価値が低下すれば、投資家がさらに資金を引き揚げようと考える可能性があります。
その資金を確保するため、さらに物件を売却します。
物件売却
資産価値低下
投資家の資金回収
さらなる物件売却
という悪循環が発生する可能性があります。
これは流動性危機で警戒される典型的な構造です。
米国でも問題になった
米国では急速な利上げの後、私募型の不動産投資商品から資金を引き揚げようとする動きが強まりました。
解約請求が急増したことで、一部のファンドでは資金流出への対応が重要な課題になりました。
不動産は短期間で大量に売却することが難しいため、投資家からの解約請求に一定の制限を設けることもあります。
こうした経験は、日本の私募REIT市場を考えるうえでも参考になります。
流動性管理が重要になる
不動産ファンドでは、こうした事態に備えて流動性を管理する必要があります。
現預金を一定程度確保する。
借入余力を残しておく。
借入金の満期を分散する。
物件売却の候補をあらかじめ検討する。
投資家の資金回収ルールを適切に設計する。
こうした対策を組み合わせることが重要です。
現金を大量に持てば安全性は高まりますが、その現金から不動産賃料は生まれません。
収益性と流動性のバランスをどのように取るかが、アセットマネージャーの重要な仕事になります。
流動性は平常時より危機時に見る
流動性リスクには特徴があります。
市場が安定しているときには、ほとんど問題に見えないことです。
買い手が多く、金融機関も積極的に融資しているときには、不動産も比較的容易に売却できます。
ところが金融市場が混乱すると、多くの投資家が同時に現金を求めます。
その瞬間に流動性が急速に低下することがあります。
そのためファンドの安全性を見る際には、現在売却できるかではなく、市場環境が悪化しても資金を確保できるかという視点が重要です。
結論
不動産ファンドの流動性リスクとは、投資口や保有不動産を必要なときに適正な価格で現金化できないリスクです。
上場REITでは投資家同士が証券取引所で投資口を売買できる一方、私募REITには上場市場がないため、投資口の買い手を個別に探す必要があります。
買い手が見つからず、ファンド側で資金を用意する必要が生じれば、保有不動産の売却につながる場合があります。
問題は、資金が必要なときほど市場環境が悪化している可能性が高いことです。
その結果、安値での物件売却がさらなる資産価値低下を招くことも考えられます。
金利上昇によって私募REIT市場が転換期を迎えるなか、利回りやLTVだけでなく、投資家が資金を引き揚げた場合にどのように対応できるのかという流動性管理も、ファンドの健全性を判断する重要な視点になるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月7日 朝刊
私募REIT曲がり角 国内初の解散、調達コスト増 金利上昇が再編促す