企業で会計不正が発覚すると、「なぜもっと早く気付けなかったのか」という声が必ず上がります。しかし、不正は巧妙に隠されるため、決算書だけを見て見抜くことは簡単ではありません。
そこで監査人や内部監査担当者が重視するのが「レッドフラッグ(Red Flag)」です。レッドフラッグとは、不正が行われている可能性を示す危険信号のことを指します。
もちろん、レッドフラッグがあるから必ず不正とは限りません。しかし、通常とは異なる現象が現れた場合には、その背景を確認する必要があります。
レッドフラッグとは何か
レッドフラッグとは、不正や重大な誤りの可能性を示す異常な兆候のことです。
監査では、一つの異常だけで不正と判断することはありません。
複数のレッドフラッグが重なったときに、不正リスクは高いと判断されます。
そのため監査人は、「数字がおかしい」ではなく、「なぜこの数字になったのか」を徹底的に確認します。
異常な利益率は重要なサイン
最も代表的なレッドフラッグが利益率です。
例えば、
・業界平均より極端に利益率が高い
・競合他社だけ利益が下がっているのに自社だけ急上昇している
・売上が伸びないのに利益だけ増えている
このような状況では、収益認識や費用計上に問題がないか確認する必要があります。
利益率は経営努力によって改善することもありますが、改善理由を合理的に説明できなければ注意が必要です。
不自然な取引は実態を確認する
監査人は取引そのものにも注目します。
例えば、
・決算直前だけ売上が急増する
・同じ取引先との大型取引が繰り返される
・通常では考えにくい値引き条件になっている
・返品が異常に多い
こうした取引には、売上の前倒し計上や架空売上などが隠れている場合があります。
契約書や納品書だけでなく、実際に商品が動いているか、代金が回収されているかまで確認することが重要です。
売掛金の急増にも注意する
売上が増えれば売掛金も増えることがあります。
しかし、売掛金だけが急増している場合は注意が必要です。
例えば、
・売上は伸びているのに現金が増えない
・売掛金回転期間が急激に長くなる
・特定の取引先への売掛金だけが膨らむ
このようなケースでは、回収できない売上や架空売上が計上されている可能性があります。
監査では、その後に実際に入金されているかを確認する「後日入金確認」も重要な手続となります。
数字だけではなく現場を見る
監査人は決算書だけを見ているわけではありません。
例えば、
・工場は稼働しているか
・在庫は実際に存在するか
・従業員の説明に矛盾はないか
・物流量と売上は一致しているか
このような現場の情報も確認します。
数字だけでは見えない違和感が、不正発見のきっかけになることは少なくありません。
レッドフラッグは組み合わせて判断する
一つの異常だけでは、不正とは断定できません。
しかし、
・利益率が急上昇している
・売掛金も急増している
・決算月だけ売上が急増している
この三つが同時に起きていれば、監査人は慎重に調査を進めます。
レッドフラッグは、一つひとつを見るのではなく、全体として関連性を分析することが重要です。
経営者もレッドフラッグを知るべき理由
レッドフラッグは監査人だけの知識ではありません。
経営者や管理職がその考え方を理解していれば、不正を未然に防ぐことができます。
数字の異常を「好調だから」と楽観視せず、「なぜこうなったのか」と問い掛ける姿勢が、不正防止につながります。
企業価値を守るためには、異常を見逃さない文化を組織全体で育てることが重要なのです。
結論
会計不正は突然発覚するものではなく、多くの場合、その前段階でさまざまなレッドフラッグが現れています。
異常な利益率、不自然な取引、急増する売掛金などは代表的な危険信号ですが、一つだけで判断するのではなく、複数の兆候を組み合わせて分析することが重要です。
監査人だけでなく経営者や管理職もレッドフラッグの考え方を理解し、数字と現場の両面から異常を確認する姿勢を持つことが、不正のない健全な企業経営につながります。
参考
日本経済新聞 2026年8月3日 朝刊「現場をむしばむ会計不正 予防と見破りの方法は」
監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」
COSO「Internal Control – Integrated Framework」
一般社団法人日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN) 不正対策関連資料