企業で会計不正や情報漏えい、不正送金などの問題が発生すると、まず求められるのは事実関係の解明です。しかし、関係者への聞き取りだけでは真実にたどり着けないことも少なくありません。
そこで重要な役割を果たすのが「フォレンジック」です。
フォレンジックは、不正の証拠を科学的・客観的に収集・分析し、事実を明らかにする専門的な調査手法です。近年では会計不正だけでなく、サイバー攻撃や横領、贈収賄など幅広い分野で活用されています。
フォレンジックとは
フォレンジック(Forensic)は、もともと「法廷の」「司法の」という意味を持つ言葉です。
現在では、裁判や法的手続きで利用できる証拠を収集・分析する活動全般を指します。
企業においては、
・会計不正
・横領
・贈収賄
・情報漏えい
・カルテル
・インサイダー取引
などが疑われた際に実施されます。
目的は、誰が、いつ、何を、どのように行ったのかを客観的な証拠によって明らかにすることです。
フォレンジック調査の流れ
フォレンジック調査は、一般的に次のような流れで進められます。
まず、不正の疑いがある情報を収集します。
次に、メールや会計データ、パソコン、スマートフォンなどの電子データを保全します。
その後、データ分析や関係者へのヒアリングを行い、証拠同士の整合性を確認します。
最後に、調査結果を報告書としてまとめ、経営陣や第三者委員会、必要に応じて捜査機関へ提出します。
重要なのは、証拠を改ざんや消失から守りながら調査を進めることです。
デジタル証拠が重要になる理由
現在の企業活動では、多くの情報が電子データとして残っています。
例えば、
・電子メール
・チャットの履歴
・会計システムの操作履歴
・アクセスログ
・クラウドサービスの利用履歴
・スマートフォンの通信記録
こうしたデータは、不正の経緯を客観的に示す重要な証拠になります。
削除されたデータが復元できる場合もあり、表面上は消えていても証拠として利用されることがあります。
そのため、不正調査ではデジタルフォレンジックと呼ばれる専門技術が欠かせません。
会計不正ではどのような証拠を見るのか
会計不正では、多様な証拠を組み合わせて事実を確認します。
例えば、
・仕訳データ
・承認履歴
・契約書
・請求書
・銀行口座の入出金
・メールのやり取り
・社内チャット
これらを時系列で整理すると、不正がどのように行われたかが見えてきます。
一つの証拠だけで判断するのではなく、複数の証拠を照合することが重要です。
訴訟でも重要な役割を果たす
フォレンジック調査は、社内調査だけで終わるとは限りません。
株主代表訴訟や損害賠償請求、刑事事件などに発展した場合には、調査で収集した証拠が裁判でも利用されます。
そのため、
・証拠の取得方法
・保管方法
・分析手順
などは厳格なルールに従って管理されます。
証拠の信頼性が損なわれると、裁判で証拠能力が認められない可能性もあるためです。
平時からの備えが重要
フォレンジックは、不正が起きてからだけのものではありません。
日頃から、
・ログを保存する
・アクセス権限を適切に管理する
・監査証跡を残す
・内部通報制度を整備する
といった仕組みを整えておくことで、不正発生時の迅速な調査が可能になります。
また、証拠が適切に保存されていること自体が、不正の抑止効果にもつながります。
結論
フォレンジックは、不正を疑うだけでなく、客観的な証拠によって事実を解明するための専門的な調査手法です。
会計不正や情報漏えいなど企業リスクが複雑化する中で、電子データの分析や証拠保全の重要性はますます高まっています。
企業は、不正が起きてから対応するのではなく、平時から証拠を適切に管理し、迅速に調査できる体制を整えておくことが、企業価値を守るうえで欠かせない取り組みといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月3日 朝刊「現場をむしばむ会計不正 予防と見破りの方法は」
一般社団法人日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN) 不正調査関連資料
デジタル・フォレンジック研究会 デジタルフォレンジックに関する資料
監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」