マンション管理では、大規模修繕や管理会社の選定、設備更新など、多額の費用を伴う意思決定が数多く行われます。そのため、誰がどの立場で判断するのかは極めて重要です。
2026年の区分所有法改正で導入された国内管理人制度を巡っても、「利益相反」が新たな課題として注目されています。仮に国内管理人が修繕工事の受注を目指す事業者など利害関係者だった場合、管理組合全体の利益ではなく、自らの利益を優先した議決権行使が行われるおそれがあるためです。
今回は、利益相反の基本的な考え方と、マンション管理で注意すべき場面、防止策について解説します。
利益相反とは
利益相反とは、ある人や組織が複数の立場を持つことで、一方の利益を優先すると、もう一方の利益が損なわれる状態をいいます。
マンション管理では、本来、管理組合の利益を第一に考えて行動すべき人が、自分や所属する会社の利益を優先してしまう状況が典型例です。
違法行為がなくても、公正な判断が期待できない状態であれば、利益相反が生じていると考えられます。
重要なのは、「実際に不正があったか」ではなく、「公平な判断が疑われる状況にあるか」という点です。
管理会社や工事会社との関係
利益相反が問題になりやすいのは、大規模修繕工事です。
例えば、
・工事会社の関係者が議決権を行使する
・修繕コンサルタントが特定業者を強く推薦する
・管理会社が系列会社へ工事を発注するよう誘導する
といったケースでは、公平性が疑われる可能性があります。
もちろん、系列会社への発注や特定業者の推薦が直ちに問題となるわけではありません。
しかし、その判断が区分所有者全体の利益に基づくものなのか、それとも特定事業者の利益を優先したものなのかは、十分に検証する必要があります。
国内管理人制度でも新たな課題に
2026年に導入された国内管理人制度では、海外居住者に代わって議決権を行使できる仕組みが整備されました。
一方で、法律には国内管理人になれる人の範囲について細かな制限は設けられていません。
そのため、
・工事会社
・設計事務所
・管理会社
・その関連法人
などが国内管理人となる可能性も理論上は否定できません。
このような場合、自らが利益を得る工事案件などについて議決権を行使すれば、利益相反の問題が生じることになります。
利益相反は信頼を損なう
管理組合の運営は、区分所有者相互の信頼によって成り立っています。
たとえ適法な手続きであっても、「利益誘導ではないか」という疑念が生じれば、管理組合への信頼は大きく損なわれます。
その結果、
・総会が紛糾する
・理事会への不信感が高まる
・修繕計画が進まない
・管理会社との関係が悪化する
など、管理運営全体に悪影響を及ぼすことがあります。
公平性が確保されていることは、適正なマンション管理の前提条件といえるでしょう。
利益相反を防ぐ方法
利益相反を防ぐためには、あらかじめ管理規約や細則でルールを定めておくことが重要です。
例えば、
・利害関係者は国内管理人に選任しない
・議決に利害関係がある者は議決権行使を制限する
・複数の見積書を取得する
・理事会で審査経過を記録する
・第三者専門家の意見を求める
といった仕組みが考えられます。
また、大規模修繕工事では、設計・監理を担当する専門家と施工会社の独立性を確保することも、公平な意思決定につながります。
区分所有者自身の関心も重要
利益相反を防ぐためには、理事会だけに任せるのではなく、区分所有者一人ひとりが管理組合の運営に関心を持つことも大切です。
総会資料をよく読み、不明な点は質問し、重要な議案については十分な説明を求める姿勢が、不適切な利益誘導の抑止につながります。
管理組合は共同で財産を管理する組織です。区分所有者全員が主体的に関わることが、透明性の高い運営を実現する第一歩になります。
結論
利益相反とは、管理組合の利益よりも個人や企業の利益が優先されるおそれのある状態を指します。違法行為がなくても、公平な判断が疑われる状況そのものが問題となるため、マンション管理では特に慎重な対応が求められます。
国内管理人制度の導入により、利益相反への配慮はこれまで以上に重要になりました。管理規約や細則を整備し、透明性の高い意思決定を行うことが、区分所有者全員の財産を守ることにつながります。
参考
日本経済新聞朝刊(2026年8月1日)
「<ステップアップ>『議決代理』、利益誘導の恐れ マンション新制度に課題」
日本経済新聞朝刊(2026年8月1日)
「マンション管理規約のひな型」
国土交通省
「マンション標準管理規約」
建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)