投資では、「この株にはどのくらいのリターンを期待してよいのだろうか」と考える場面があります。
もちろん、将来の株価を正確に予測することはできません。
しかし、リスクが高い投資ほど高い収益を求めるという考え方に基づき、「期待できる収益率」を理論的に求めようとしたモデルがあります。
それが「CAPM(Capital Asset Pricing Model、資本資産価格モデル)」です。
CAPMは現代ファイナンス理論の代表的なモデルであり、多くの金融機関や企業が資本コストや投資判断の基礎として活用しています。
CAPMとは
CAPMとは、投資資産に期待される収益率は、市場リスクに応じて決まると考える理論です。
この理論では、「リスクを多く引き受けるほど、高い収益が期待される」という考え方を前提としています。
一方で、分散投資によって回避できる個別企業のリスクには追加のリターンは与えられず、市場全体と連動するリスクだけが評価されると考えます。
そのため、CAPMは市場リスクを重視する理論として知られています。
ベータ値が重要な役割を果たす
CAPMでは、前回紹介した「ベータ値」が重要な役割を担います。
ベータ値は、市場全体に対してどの程度値動きするかを示す指標です。
ベータ値が高い銘柄は、市場よりも大きく値動きするため、市場リスクも高いと考えられます。
その分、投資家は高い収益を期待します。
反対に、ベータ値が低い銘柄は市場リスクが小さいため、期待される収益率も比較的低くなります。
つまり、CAPMではベータ値を使って期待収益率を考えるのです。
無リスク資産という考え方
CAPMでは、「無リスク資産」という概念も重要です。
無リスク資産とは、理論上ほぼ確実に元本と利息が受け取れる資産を指します。
代表例としては、信用力の高い国が発行する短期国債などが用いられます。
投資家は、無リスク資産よりもリスクのある株式へ投資する以上、それに見合った追加の利益を求めます。
この追加部分が「リスクプレミアム」です。
CAPMは、このリスクプレミアムをベータ値に応じて配分する考え方に基づいています。
企業経営でも活用されている
CAPMは投資家だけの理論ではありません。
企業でも、新しい工場を建設するか、新規事業へ投資するかといった経営判断で活用されています。
投資に必要な利益率、つまり「資本コスト」を計算する際にCAPMが使われることが多いからです。
また、企業価値評価やM&Aの場面でも、CAPMは基本的な考え方として利用されています。
このように、CAPMは実務の世界でも広く浸透しています。
CAPMの限界
CAPMは非常に影響力の大きい理論ですが、すべての現実を説明できるわけではありません。
例えば、企業規模が小さい株式や割安株が市場平均を上回る傾向など、CAPMだけでは十分に説明できない現象が報告されています。
また、市場は常に効率的とは限らず、投資家心理や一時的な過熱感によって価格が大きく動くこともあります。
こうした課題を踏まえ、後にファーマ・フレンチの3ファクターモデルなど、CAPMを発展させた理論も提唱されています。
個人投資家はどう理解すればよいか
個人投資家がCAPMを使って期待収益率を計算する場面は多くありません。
しかし、「高い利益には高いリスクが伴う」という基本的な考え方を理解するうえでは非常に役立ちます。
「高いリターンだけを見て投資する」のではなく、「そのリターンに見合うリスクを取っているのか」という視点を持つことが重要です。
CAPMは、その考え方を体系的に示した理論といえるでしょう。
長期投資では理論を参考に活用する
CAPMは現代ファイナンスの基礎理論ですが、将来の株価を予測するための万能なモデルではありません。
市場には予想外の出来事や投資家心理など、理論だけでは説明できない要素が数多く存在します。
それでも、リスクとリターンの関係を理解するうえでは非常に有効な考え方です。
長期投資ではCAPMを絶対視するのではなく、企業分析や分散投資と組み合わせながら参考にするとよいでしょう。
結論
CAPMとは、リスクに応じて期待収益率が決まると考える現代ファイナンスの代表的な理論です。市場リスクを示すベータ値を基に、投資家が求めるリターンを考える仕組みとなっています。一方で、現実の市場を完全に説明できるわけではなく、その後の研究によって発展した理論も数多く提唱されています。長期投資では、CAPMをリスクとリターンの基本原則として理解し、他の分析手法と組み合わせて活用することが大切です。
参考
ウィリアム・F・シャープ「Capital Asset Prices: A Theory of Market Equilibrium under Conditions of Risk」(1964年)
ジョン・C・ハル著『リスク管理と金融機関』
日本経済新聞 投資・資産運用関連記事(各号)