企業活動では、売掛金や貸付金が回収できなくなることは避けられません。しかし、不良債権の税務処理は複雑であり、「貸倒損失にできると思っていた」「税務調査で否認された」という事例も少なくありません。
その背景には、会計上の考え方と税務上の取扱いの違いや、貸倒れを判断するための客観的な証拠が不足していることがあります。
今回は、不良債権処理で実際によくある疑問をQ&A形式で整理し、実務上のポイントを分かりやすく解説します。
Q1 取引先が赤字なら貸倒損失にできますか
A 赤字だけでは貸倒損失にはなりません。
取引先が赤字であっても、事業を継続し、将来的に回収できる可能性がある限り、貸倒損失として処理することはできません。
税務上は、
・支払能力が著しく低下しているか
・資産が残っているか
・事業継続の見込みがあるか
などを総合的に判断します。
赤字と回収不能は同じ意味ではないことを理解する必要があります。
Q2 破産したらすぐ貸倒損失になりますか
A 必ずしもそうではありません。
破産手続が開始されたことは重要な判断材料ですが、それだけで全額を貸倒損失として処理できるとは限りません。
破産財団から配当を受けられる可能性がある場合には、その状況も考慮する必要があります。
どの時点で回収不能になったのかを客観的に判断することが重要です。
Q3 長年連絡が取れない取引先はどう考えますか
A 連絡が取れないだけでは貸倒損失とはいえません。
住所不明や音信不通であっても、
・会社が存続している
・財産が存在する
・事業を続けている
といった事情があれば、回収可能性が残っていることがあります。
一方で、所在不明の状態が長期間続き、回収努力を尽くしても債権回収が見込めないことが確認できれば、貸倒損失が認められる可能性があります。
Q4 少額の売掛金でも証拠は必要ですか
A 金額にかかわらず証拠は重要です。
貸倒損失の判断では、
・請求書
・督促記録
・取引履歴
・内容証明郵便
などが重要な資料になります。
金額が小さいからといって、税務上の判断基準が緩くなるわけではありません。
日頃から記録を残す習慣が大切です。
Q5 貸倒引当金と貸倒損失は同じですか
A まったく異なる制度です。
貸倒引当金は、将来発生する可能性のある貸倒れに備えて見積り計上するものです。
一方、貸倒損失は、回収不能が客観的に確認された債権について損失を計上するものです。
将来への備えと、すでに発生した損失では、税務上の取扱いも異なります。
Q6 税務調査では何を確認されますか
A 貸倒れの根拠と時期が重点的に確認されます。
税務調査では、
・いつ貸倒れと判断したのか
・回収努力を行ったか
・証拠資料はあるか
・処理した年度は適切か
などが確認されます。
「経営判断で処理した」という説明だけでは十分とはいえません。
客観的な資料に基づいて説明できることが重要です。
Q7 親会社やグループ会社への貸付金も同じですか
A 関連当事者への債権は特に慎重な判断が必要です。
グループ会社への貸付金は、通常の取引先とは異なり、経営判断による資金支援という側面を持つ場合があります。
そのため、
・貸付けの目的
・返済計画
・回収努力
などがより厳しく確認されることがあります。
関連会社だからという理由だけで貸倒損失が認められることはありません。
Q8 貸倒損失を防ぐために企業ができることは何ですか
A 回収不能になってからではなく、取引開始時から管理することが重要です。
例えば、
・与信管理を徹底する
・契約書を整備する
・定期的に取引先の経営状況を確認する
・督促の記録を残す
といった日常的な管理が、適切な税務処理にもつながります。
貸倒損失は「最後の処理」ですが、その判断を支える資料は取引開始時から積み重ねられていくものです。
結論
不良債権の税務処理では、「回収できない」という印象だけで貸倒損失が認められることはありません。回収不能となった客観的な事実や、その時期を示す証拠資料が重要になります。
また、税務調査では、回収努力の内容や処理時期、保存している資料などが詳しく確認されます。日頃から債権管理を適切に行い、記録を残しておくことが、税務リスクを抑える最も確実な方法です。
貸倒損失は、企業の経営判断だけで完結するものではなく、税務上のルールに基づいて慎重に判断すべき処理です。実務で迷ったときには基本に立ち返り、客観的な事実を積み重ねて判断する姿勢が重要といえるでしょう。
参考
税のしるべ
2026年7月20日
連載「不良債権に係る税務上の取扱いの再確認」税理士・東辻 淳次
第3回/通達で貸倒損失の計上可否が明らかに