違憲審査はなぜ税法で認められにくいのか 租税法律主義と憲法のはざま

税理士
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税金は法律で決まります。

そのため、税務署は法律に従って課税し、納税者も法律に従って納税することが原則です。しかし、もしその法律自体が憲法に反しているとしたらどうなるのでしょうか。

日本国憲法は最高法規であり、法律であっても憲法に反する場合には無効となります。これは税法でも例外ではありません。

ところが、実際の税務訴訟では「税法が違憲である」という主張が認められるケースは極めて少ないのが現実です。

今回は、税法における違憲審査の仕組みと、裁判所がなぜ慎重な姿勢を取るのかについて考えてみます。

違憲審査とは何か

違憲審査とは、法律や行政処分が憲法に適合しているかどうかを裁判所が判断する制度です。

日本国憲法第81条では、最高裁判所に違憲立法審査権が認められています。

つまり、

・法律が憲法に違反していないか
・行政処分が憲法に違反していないか

を最終的に判断できるのは裁判所ということになります。

税法も法律ですから、その内容が憲法に反すると判断されれば、その法律に基づく課税処分は無効となる可能性があります。

22億円の土地が9億円になった相続税事件

税法における代表的な違憲審査事件として知られているのが、いわゆる「相続開始前3年以内取得財産事件」です。

当時の租税特別措置法には、相続開始前3年以内に取得した土地については、相続時の時価ではなく取得価額で評価するという特例がありました。

この制度は、地価高騰期における相続税対策を防止するために導入されたものでした。

ところが、ある納税者は約22億円で取得した土地を保有していましたが、その後の地価下落により相続開始時には約9億円程度の価値になっていました。

しかし税法上は22億円で評価されることとなり、その結果として約12億円もの相続税が課税されることになったのです。

納税者側は、

「この課税は財産権を保障する憲法29条に反する」

と主張しました。

裁判所は法律自体を違憲とはしなかった

この事件で裁判所は興味深い判断を示しました。

裁判所は、

「制度そのものには合理的な立法目的がある」

として法律自体の違憲性は否定しました。

つまり、

・相続税回避防止という目的は正当
・そのための制度設計にも一定の合理性がある

と判断したのです。

しかし同時に、

「今回のような極端な地価下落まで想定した制度ではなかった」

として、個別の課税処分については違法と判断しました。

つまり、

法律そのものは合憲

しかし

具体的な適用結果は違法

という極めて特殊な結論になったのです。

遡及課税をめぐる争い

もう一つ有名なのが、平成16年度税制改正を巡る訴訟です。

この改正では、不動産譲渡損失を他の所得と損益通算できない制度が導入されました。

問題となったのは施行時期でした。

法律は3月末に成立したにもかかわらず、施行日は同年1月1日にさかのぼる形となっていたのです。

つまり、

「1月から3月までに行った取引」

についても、新しい不利なルールが適用されることになりました。

納税者側は、

「これは事実上の遡及課税であり租税法律主義に反する」

と主張しました。

一部の地裁判決では違憲性が指摘されましたが、最終的に最高裁は合憲と判断しました。

なぜ裁判所は税法の違憲判断に慎重なのか

税法に関する違憲判決が少ない理由は、裁判所の基本姿勢にあります。

税制は国家財政の根幹であり、

・税率をどうするか
・誰にどの程度負担を求めるか
・どのような政策目的を実現するか

といった問題は、本来、国会が決定すべき政策判断と考えられています。

そのため裁判所は、

「立法府の判断を尊重する」

という立場を取る傾向があります。

よほど明白に不合理でない限り、税法を違憲とは判断しないのです。

これは「立法裁量の尊重」と呼ばれる考え方です。

租税法律主義と憲法はどちらが優先するのか

租税法律主義は、

「税金は法律によらなければ課すことができない」

という原則です。

一方で、憲法はすべての法律の上位に位置します。

そのため理論上は、

憲法 > 税法

という関係になります。

しかし現実には、裁判所は税法の違憲判断に慎重であるため、納税者が違憲主張によって勝訴することは容易ではありません。

租税法律主義による法律の安定性と、憲法による権利保護とのバランスをどこで取るかは、現在も続く重要な課題といえます。

結論

税法は法律によって定められますが、その法律も憲法の枠内で運用されなければなりません。

もっとも、日本の裁判所は税法に対する違憲審査に極めて慎重であり、法律そのものを違憲と判断する例は非常に少ないのが実情です。

その背景には、税制が国家財政や経済政策と深く結び付いており、国会の政策判断を尊重するという考え方があります。

一方で、今回紹介した相続税事件のように、法律自体は合憲でも、その適用結果が違法と判断されるケースも存在します。

税務訴訟を理解するうえでは、単に税法の条文を読むだけでなく、憲法との関係や裁判所の判断枠組みを理解することが重要です。そして、その積み重ねが租税法律主義の本質を理解することにもつながるのではないでしょうか。

参考

・税のしるべ 2026年5月25日号 連載「続・傍流の正論~税相を斬る」第91回/最判にも疑義⑧、違憲審査Ⅰ 品川芳宣

・最高裁判所判決 平成11年6月11日 相続開始前3年以内取得財産に係る相続税評価事件

・最高裁判所判決 平成23年9月30日 不動産譲渡損失損益通算制限事件

・日本国憲法第81条(違憲立法審査権)

・日本国憲法第84条(租税法律主義)

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