診療報酬改定で医療費はどう変わるのか ― 賃上げ・物価高時代の医療制度を考える

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医療機関を受診した際に支払う医療費は、診療報酬制度によって決まっています。この診療報酬は原則として2年ごとに改定されますが、2026年6月には物価高や医療従事者の賃上げへの対応を目的とした改定が行われます。

今回の改定では、初診時の負担増だけでなく、予約キャンセル料の徴収が可能になるなど、患者にとっても影響の大きい内容が含まれています。

本記事では、今回の診療報酬改定の内容と背景、そして今後の医療制度の方向性について考えてみます。

診療報酬とは何か

診療報酬とは、医療機関や薬局が提供した医療サービスに対して支払われる公定価格です。

医師の診察、検査、手術、投薬など、それぞれの医療行為に点数が設定されており、その合計額が医療費になります。

日本では国民皆保険制度のもとで診療報酬が全国一律に定められているため、どの地域でも基本的に同じ医療サービスを同じ価格で受けられる仕組みになっています。

一方で、医療機関の経営環境や社会情勢の変化に応じて定期的な見直しが必要になります。

初診料は実質190円引き上げ

今回の改定では、初診料そのものは2910円で据え置かれます。

しかし、初診料に付随する加算部分が引き上げられるため、患者負担は実質的に増加します。

具体的には、

・物価高対応分として20円増額

・ベースアップ評価料として170円増額

となり、合計190円の引き上げとなります。

さらに1年後には同様の引き上げが予定されており、段階的な負担増となる見込みです。

ただし、窓口で実際に支払う額は健康保険の自己負担割合によって異なります。

例えば3割負担の場合、190円の増額であれば患者負担は約57円増える計算になります。

なぜ医療費が引き上げられるのか

今回の改定の最大の理由は、医療機関における賃上げの必要性です。

近年、多くの産業で人材不足が深刻化しています。

医療分野も例外ではなく、

・看護師

・医療事務職員

・薬剤師

・歯科衛生士

などの確保が難しくなっています。

他産業で賃金上昇が進む中、医療機関だけが十分な賃上げを実施できなければ、人材流出が加速する恐れがあります。

また、電気代や医療材料費などのコストも上昇しており、医療機関の経営は厳しさを増しています。

今回の改定は、こうした経営環境の変化を反映したものといえます。

キャンセル料徴収が認められる意味

今回の改定で特に注目されるのが、予約キャンセル料の徴収が認められる点です。

対象となるのは、

患者都合による診察直前のキャンセル

に限定されています。

金額は各医療機関が自由に設定できます。

特に歯科医院では3000円から5000円程度の設定例がみられます。

これは単なる収益確保策ではありません。

医療機関にとって予約枠は重要な経営資源です。

直前キャンセルが発生すると、

・医師やスタッフの時間が無駄になる

・他の患者が診察機会を失う

・経営効率が低下する

といった問題が生じます。

飲食店や美容院ではキャンセル料が一般化していますが、医療分野でも同様の考え方が広がり始めたといえるでしょう。

保険外負担が広がる時代

今回の改定では、キャンセル料のほかにも、

・Wi-Fi利用料

・薬の郵送代

などの保険外サービスについて徴収できる範囲が広がります。

これは医療サービスと周辺サービスを切り分ける流れともいえます。

日本の医療制度は長年、「低負担で広範囲なサービス提供」を特徴としてきました。

しかし、

・少子高齢化

・医療費増大

・人材不足

・財政制約

などを背景に、治療そのもの以外の部分については利用者負担を求める方向へ少しずつ変化しています。

薬局でも負担増が進む

改定の影響は病院や診療所だけではありません。

薬局でも、

・調剤基本料の引き上げ

・物価高対応加算

・ベースアップ評価料の新設

が実施されます。

また、後発医薬品(ジェネリック医薬品)があるにもかかわらず先発医薬品を希望する場合の追加負担も引き上げられます。

これまで価格差の4分の1だった負担割合が2分の1になります。

政府は医療費抑制の観点から後発医薬品の利用を推進しており、今回の改定はその流れをさらに強めるものといえます。

医療制度は「安さ」より「持続可能性」へ

日本の医療制度は世界的にみても低い自己負担で高度な医療を受けられる仕組みとして評価されています。

しかし、その維持には多額の財源が必要です。

高齢化の進展によって医療需要は増加し続けています。

一方で、現役世代は減少しており、医療費を支える社会保険料負担は年々重くなっています。

こうした状況のなかで、

「医療費をできるだけ安く維持する」

という考え方から、

「必要な負担を分かち合いながら制度を維持する」

という考え方への転換が進んでいるように見えます。

今回の診療報酬改定も、その流れの一環として位置付けることができるでしょう。

結論

2026年6月の診療報酬改定では、物価高と医療従事者の賃上げへの対応として初診時の負担が実質190円引き上げられます。また、予約キャンセル料の徴収が可能になるなど、保険外負担の範囲も広がります。

一見すると患者負担の増加に見えますが、その背景には医療現場の人材確保や医療提供体制の維持という重要な課題があります。

今後の医療制度は、「できるだけ安い医療」から「持続可能な医療」へと軸足を移していく可能性があります。今回の改定は、その変化を象徴する出来事の一つといえるでしょう。

参考

・日本経済新聞 2026年5月29日朝刊「診療報酬、来月1日に改定 キャンセル料徴収可に」

・厚生労働省「令和8年度診療報酬改定関係資料」

・厚生労働省「ベースアップ評価料に関する資料」

・中央社会保険医療協議会(中医協)関連資料(2026年)

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