非上場株の相続評価見直しとは何か 節税と公平性の転換点

税理士
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相続税における非上場株の評価ルールが、大きな転換点を迎えようとしています。
国税庁は評価方法の見直しに着手し、2027年度の税制改正に向けて議論が進む見通しです。

これまで非上場株は評価の余地が大きく、結果として大幅な節税が可能な領域でもありました。しかし、その仕組み自体が制度としての公平性を損ねているとの指摘が強まり、見直しの流れが加速しています。

本稿では、今回の見直しの背景と本質、そして実務への影響を整理します。


非上場株評価の基本構造

非上場株は市場価格が存在しないため、相続税では「時価」を推計して評価します。その基準となるのが財産評価基本通達です。

評価方法は大きく二つに分かれます。

  • 類似業種比準方式(上場企業との比較)
  • 純資産価額方式(会社の資産ベース)

企業規模に応じてこれらを使い分け、または併用する仕組みです。

問題は、この「使い分け」と「算定過程」によって、評価額に大きな差が生じる点にあります。


なぜ評価額に大きな差が生まれるのか

実務上、評価額は同じ会社でも数倍単位で変わることがあります。

特に類似業種比準方式は、配当・利益・資産構成などの操作によって評価額を引き下げやすい構造を持っています。結果として、

  • 純資産ベースでは高額
  • 比準方式では大幅に低額

という乖離が生じます。

実際の調査では、中央値で約4倍の差が確認されています。

この乖離こそが、今回の見直しの出発点です。


節税なのか、それとも制度の想定内か

重要なのは、これらの手法の多くが「違法ではない」という点です。

つまり、

  • ルールに従っている
  • しかし結果として税負担が極端に軽くなる

という状態が続いてきました。

この構造は偶然ではありません。もともと制度には「事業承継を円滑にする」という政策目的が組み込まれており、評価を低く抑える方向に調整されてきた歴史があります。

言い換えれば、

節税が問題なのではなく
制度そのものが節税を許容する設計だった

というのが実態です。


総則6項が示した制度の限界

こうした状況に対して、国税当局は例外規定である「総則6項」を使って対応してきました。

これは、

著しく不適当な評価については
通達に従っていても否認できる

という強力な規定です。

ただし、この規定は本来例外的に使うものです。
適用件数が増えているという事実は、裏を返せば

通常ルールでは適正評価ができていない

という制度の限界を意味しています。


見直しの方向性 評価は引き上げへ

今回の見直しでは、次のような方向が想定されます。

  • 利益や収益力をより重視
  • 比準方式の調整
  • 評価乖離の縮小

特に規模の大きい企業ほど、評価額が引き上げられる可能性が高いと考えられます。

これは実質的に、

これまでの「低く出る仕組み」の是正

を意味します。


最大の論点 事業承継とのバランス

ここで最大の問題となるのが、事業承継への影響です。

非上場企業の多くは中小企業であり、株式評価の上昇はそのまま相続税負担の増加につながります。

結果として、

  • 納税資金不足
  • 株式分散
  • 事業継続の困難化

といったリスクが現実化する可能性があります。


事業承継税制との関係

この問題に対応する制度として、事業承継税制(納税猶予制度)が存在します。

しかし現行制度には、

  • 要件が厳しい
  • 株式の継続保有が必要
  • 手続きが複雑

といった課題があり、必ずしも十分に活用されているとは言えません。

そのため今回の見直しでは、

評価ルールの厳格化と同時に
承継税制の緩和がセットで議論される

ことが重要になります。


本質は「公平性の再設計」

今回の見直しは単なる増税ではありません。

本質は、

  • 評価のばらつきを是正する
  • 税負担の公平性を確保する

という制度の再設計にあります。

これまでの制度は、

承継を優先するあまり
評価の一貫性を犠牲にしていた

とも言えます。

その歪みが、いま是正されようとしているのです。


実務への示唆 これから何を考えるべきか

今後の実務では、次の視点が重要になります。

  • 評価引き上げリスクの把握
  • 納税資金の事前準備
  • 承継スキームの再設計
  • 税制改正の動向フォロー

特にこれまで「評価を下げる」ことを前提にしていた場合、前提そのものを見直す必要があります。


結論

非上場株の評価見直しは、相続税実務における大きな転換点です。

これまでの

評価の柔軟性を活用する時代

から

評価の公平性を重視する時代

へと移行しつつあります。

ただし、その過程で事業承継が停滞してしまえば、本末転倒です。

今後の制度設計においては、

公平性と持続可能性の両立

が問われることになります。


参考

・日本経済新聞 2026年4月15日朝刊 非上場株の相続、節税抑止
・日本経済新聞 2026年4月15日朝刊 非上場株の評価額4倍差
・日本経済新聞 2026年4月15日朝刊 相続税の基礎解説

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