農家の仕事というと、米や野菜、果物などを作って出荷する姿を思い浮かべます。
しかし、農業で収益を増やす方法は、農産物をたくさん作ることだけではありません。
収穫したイチゴをジャムに加工する。
農家自身が直売所で販売する。
果樹園を観光農園にして収穫体験を提供する。
農産物を使った料理を提供する農家レストランを運営する。
このように、生産だけではなく加工や販売、サービスまで事業を広げる考え方があります。
それが6次産業化です。
人口減少によって地域市場が縮小する中、農林漁業者が自ら付加価値を生み出し、所得を高める方法として重要な考え方になっています。
6次産業化とは何か
6次産業化とは、農林漁業などの1次産業に携わる人が、食品加工などの2次産業や、販売、飲食、観光などの3次産業にも取り組み、付加価値を高める考え方です。
数字の6は、
1次産業
2次産業
3次産業
を組み合わせることから生まれています。
一般的には、
1かける2かける3で6
という考え方で説明されます。
農産物を生産して出荷するだけではなく、加工し、自ら販売したりサービスとして提供したりすることで、これまで地域外の企業が得ていた付加価値の一部を地域内に取り込もうとするものです。
1次産業とは何か
1次産業は、自然から直接資源を得る産業です。
代表的なのが農業、林業、漁業です。
農家が米や野菜、果物を作る。
漁業者が魚を捕る。
林業者が木材を生産する。
こうした活動です。
たとえば農家がイチゴを生産し、市場や卸売業者へ出荷すれば、基本的には1次産業の段階で事業が完結します。
もちろん農産物の品質を高めたり、収穫量を増やしたりすることで収益を増やすことはできます。
しかし、農産物そのものの価格には市場の需給が大きく影響します。
豊作によって供給量が増えれば、価格が下がる場合もあります。
生産者だけでは販売価格を自由に決めにくいことがあるのです。
2次産業では加工によって価値を加える
2次産業には製造業などが含まれます。
農業との関係では、農産物を加工して別の商品にすることが代表的です。
イチゴをジャムにする。
リンゴをジュースにする。
牛乳をチーズにする。
米を菓子にする。
野菜を漬物にする。
農産物を原材料として販売するのではなく、加工品として販売します。
加工することで保存期間を延ばしたり、新しい用途を作ったりすることができます。
さらに商品名やパッケージを工夫し、地域ブランドとして販売すれば、原材料の価格とは違う価格設定ができる可能性があります。
3次産業では販売やサービスまで手掛ける
3次産業には小売業、飲食業、観光業、サービス業などがあります。
農家が自ら直売所を運営する。
インターネットで消費者へ直接販売する。
農家レストランを経営する。
観光農園を運営する。
こうした活動です。
従来であれば、農家が作った農産物は卸売業者、小売店、飲食店などを経由して消費者へ届きます。
それぞれの段階で新しい価値が加わり、それぞれの事業者が収益を得ます。
6次産業化では、その一部を農家自身や地域の事業者が担います。
その結果、最終消費者が支払う金額の中から、地域側が受け取る割合を増やせる可能性があります。
なぜ加工すると収益を増やせるのか
たとえば農家がイチゴを生産しているとします。
収穫したイチゴをそのまま出荷すれば、農家の売り上げはイチゴの販売価格で決まります。
しかし、そのイチゴを使ってジャムを作ればどうでしょうか。
消費者が購入するのは単なるイチゴではありません。
加工。
保存性。
容器。
ブランド。
使いやすさ。
こうした価値が加わります。
その結果、原材料として販売する場合とは違う価格で販売できる可能性があります。
もちろん加工設備や人件費、包装費などのコストも増えます。
そのため、加工すれば必ず利益が増えるわけではありません。
重要なのは、加工によって増える売り上げと追加コストを比較して、十分な付加価値を生み出せるかどうかです。
規格外農産物を活用できる場合もある
6次産業化には、農産物を無駄なく利用できるというメリットもあります。
農産物には、味には問題がなくても形や大きさなどの理由で通常の商品として販売しにくいものがあります。
曲がった野菜。
大きさがそろっていない果物。
表面に傷がある農産物。
こうしたものです。
生鮮品として高く販売することが難しくても、加工すれば外見の違いが問題になりにくくなります。
果物をジュースやジャムにする。
野菜をスープや加工食品にする。
すると、これまで十分な価格で販売できなかった農産物から新しい売り上げを生み出せる可能性があります。
農産物の廃棄を減らすことにもつながります。
観光農園では体験そのものを販売する
6次産業化の分かりやすい例が観光農園です。
通常の農業では、農家が収穫した農産物を販売します。
観光農園では、消費者自身が農園を訪れて収穫します。
たとえばイチゴ狩りであれば、消費者が支払っているのはイチゴの代金だけではありません。
農園を訪れる。
自分でイチゴを選ぶ。
収穫する。
その場で食べる。
家族や友人と時間を過ごす。
こうした体験全体にお金を払っています。
つまり、農産物という商品に観光や体験というサービスを加えているのです。
農業と観光を組み合わせることで、農産物だけを販売する場合とは異なる収益源を作ることができます。
農家が販売まで行う意味
農産物が生産者から消費者へ届くまでには、さまざまな事業者が関わります。
卸売業者。
物流会社。
小売店。
飲食店。
それぞれが必要な役割を担っています。
一方で、農家が消費者へ直接販売すれば、中間の流通段階を減らせる場合があります。
直売所。
自社店舗。
インターネット通販。
定期購入。
こうした方法です。
直接販売には別のメリットもあります。
消費者の反応を直接知ることができることです。
どの商品が人気なのか。
どの価格なら購入されるのか。
どのような加工品が求められているのか。
顧客の声を次の商品開発に利用できます。
生産者が消費者に近づくことで、単に農産物を作るだけの経営から市場を見ながら商品を作る経営へ変わっていきます。
地域の他の企業と組む方法もある
6次産業化は、農家がすべてを自分で行わなければならないという意味ではありません。
農家には農業の技術があります。
しかし、食品加工や商品開発、マーケティング、インターネット販売まで得意とは限りません。
そこで地域企業と連携する方法があります。
農家が農産物を生産する。
食品会社が加工する。
デザイン会社がパッケージを作る。
小売店や観光施設が販売する。
地域金融機関が資金面を支援する。
自治体が地域ブランドや観光振興を支援する。
こうした連携によって地域全体で付加価値を生み出すこともできます。
重要なのは、一人の農家がすべてを抱えることではなく、農産物から生まれる付加価値を地域にできるだけ残すことです。
設備投資が必要になる
6次産業化を進めるには、新しい設備が必要になる場合があります。
加工施設。
冷蔵設備。
包装設備。
直売所。
観光農園のハウス。
飲食施設。
こうした設備です。
そのため、新しい事業を始めようとしても初期投資が壁になることがあります。
ここで補助金や金融機関の融資などが重要になります。
ローカル10000プロジェクトのように、公的支援と民間資金を組み合わせる仕組みは、地域資源を使った新規事業との相性がよいと考えられます。
最初の設備投資を支援することで、地域の農産物から新しい付加価値を生み出す事業を始めやすくするわけです。
6次産業化すれば必ず儲かるわけではない
注意したいのは、加工や販売まで手掛ければ自動的に利益が増えるわけではないことです。
加工には設備投資が必要です。
食品を販売するための衛生管理も必要です。
商品を作れば在庫を抱える可能性があります。
自社販売を始めれば、営業やマーケティングも必要になります。
観光農園なら予約管理や接客も必要です。
つまり、農業とは違う能力が求められます。
売れない加工品を大量に作れば、農産物をそのまま販売するより損失が大きくなることもあります。
大切なのは、加工すること自体ではありません。
誰に何をいくらで売るのかを明確にし、採算の取れる事業を作ることです。
地域に付加価値を残すことが地方創生につながる
6次産業化が地方創生で注目される理由は、農家の所得を増やすことだけではありません。
加工や販売まで地域内で行えば、新しい仕事が生まれます。
加工施設で働く人が必要になります。
商品を販売する人が必要になります。
観光農園なら接客をする人も必要になります。
物流やデザインなどの仕事が地域企業へ発注される可能性もあります。
一つの農産物を起点として、地域の中に複数の仕事と所得を生み出すことができます。
農産物を地域外へ原材料として出荷するだけではなく、できるだけ地域内で付加価値を加えてから販売する。
それによって地域に残る所得を増やすことが、6次産業化の大きな意味なのです。
結論
6次産業化とは、農林漁業などの1次産業に、加工などの2次産業、販売や観光などの3次産業を組み合わせて新しい付加価値を生み出す考え方です。
農産物をそのまま出荷するだけでなく、加工品にする。
直売する。
農家レストランを運営する。
観光農園として収穫体験を販売する。
こうした取り組みによって、一つの農産物から複数の収益を生み出せる可能性があります。
さらに、地域の食品会社や小売店、観光事業者などと連携すれば、加工や販売によって生まれる仕事と所得を地域内に残すことができます。
ただし、加工や販売へ進出すれば必ず利益が増えるわけではありません。
設備投資や人件費などの新しいコストが発生し、農業とは異なる経営能力も必要になります。
重要なのは、農産物を加工することそのものではなく、顧客がお金を払いたいと思う商品や体験へ変えることです。
地域で作ったものをそのまま地域外へ送り出すのではなく、加工、販売、観光などの付加価値を地域の中で生み出す。
6次産業化は、農業を単なる生産から地域全体で稼ぐ産業へ広げるための重要な考え方なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 地元密着ビジネスが最多 総務省採択、昨年度108件
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 神奈川・小田原の交付金事業 尊徳が導く相互扶助の輪