非上場株評価と総則6項とは何か ルール通りの株価でも国税が否認できる伝家の宝刀編

税理士
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非上場株の相続税評価では、原則として国税庁の財産評価基本通達に定められた方法に従って株価を計算します。

類似業種比準方式や純資産価額方式などを使い、会社規模や財務内容に応じて評価額を求めます。

ところが、通達に従って計算した株価であっても、国税当局がその評価額を認めない場合があります。

その根拠として使われるのが、財産評価基本通達の総則6項です。

総則6項は、通常の評価方法によることが著しく不適当と認められる場合に、国税当局が別の方法で財産を評価できる仕組みです。

強力な規定であることから、実務ではしばしば伝家の宝刀と呼ばれます。

今回は、総則6項とは何なのか、どのような場合に問題になるのか、そして今回の非上場株評価ルール見直しとどのようにつながるのかを整理します。

総則6項とは何か

財産評価基本通達は、相続税や贈与税を計算する際の財産評価方法を定めています。

土地であれば路線価方式や倍率方式があります。

上場株式であれば一定の市場価格を使います。

非上場株であれば、類似業種比準方式や純資産価額方式などを使います。

こうした評価方法を全国で共通して使うことで、納税者ごとの評価のばらつきを抑える役割があります。

しかし、すべての財産を画一的なルールだけで適切に評価できるとは限りません。

そこで設けられているのが総則6項です。

簡単にいえば、

通常の評価方法を使った結果が著しく不適当なら、国税当局が別の方法で評価できる

という例外規定です。

なぜ伝家の宝刀と呼ばれるのか

総則6項が伝家の宝刀と呼ばれるのは、通常の評価ルールを覆す力を持っているからです。

納税者が財産評価基本通達に従って相続税申告をしたとしても、国税当局がその評価額を著しく不適当と判断すれば、別の評価額で課税する可能性があります。

たとえば、通常の評価方法では1億円となった財産について、国税当局が実際の経済価値は3億円程度あると判断したとします。

総則6項が適用されれば、通常の通達評価額ではなく、別の方法による高い評価額で課税されることがあります。

納税者にとって影響が非常に大きい規定です。

そのため、日常的に簡単に使われるものではなく、特別な事情がある場合に使われる規定という意味で、伝家の宝刀と表現されてきました。

著しく不適当とは何か

総則6項で最も難しいのが、著しく不適当という言葉です。

単に、

市場価格より少し低い

別の評価方法なら金額が違う

というだけで直ちに総則6項が適用されるわけではありません。

財産評価基本通達は、もともと多数の財産を統一的かつ簡便に評価するための基準です。

そのため、個別の財産の実際の取引価格と多少の差が生じることは当然想定されています。

問題になるのは、通達評価をそのまま使うことで、他の納税者との公平を著しく害するような結果になる場合です。

特に、

評価方法を利用するために特殊な取引が行われている

実際の経済価値と通達評価額に極端な差がある

税負担を大幅に軽減することを主な目的とした取引が行われている

といった事情が重なると、総則6項が問題になりやすくなります。

非上場株で総則6項が問題になる理由

非上場株には市場価格がありません。

上場株であれば、証券市場の株価という客観的な価格があります。

しかし、非上場株は財産評価基本通達の計算式によって株価を求めます。

このため、評価方式や会社規模、利益、純資産などによって評価額が大きく変わることがあります。

たとえば、純資産価額では10億円になる会社が、類似業種比準方式では3億円になる場合があります。

通達上3億円で評価できるとしても、会社の財産や収益力などから見て経済的価値との乖離が極端であれば、国税当局が問題視する可能性があります。

非上場株では、この計算上の株価と会社の実際の経済価値との乖離が総則6項の問題につながりやすいのです。

ルール通りなら必ず認められるとは限らない

納税者からすると、

財産評価基本通達に書いてある通り計算したのだから、それでよいのではないか

と考えるのが自然です。

実際、通常の相続税申告では、財産評価基本通達に従って評価するのが基本です。

しかし、財産評価基本通達そのものに総則6項という例外規定があります。

そのため、

通常の評価方式を使える

ということと、

どのようなケースでもその評価結果が認められる

ということは同じではありません。

非上場株の節税対策を考える際には、この点を理解しておく必要があります。

総則6項は課税の公平を守るための仕組み

総則6項が存在する理由は、課税の公平を守るためです。

仮に、経済的にはほぼ同じ価値を持つ二つの財産があったとします。

一方は通常通り10億円で評価されます。

もう一方は、評価制度の仕組みを利用した結果、2億円で評価されました。

この差に合理的な理由がなければ、納税者間の税負担に大きな不公平が生じます。

相続税は財産価額を基礎として計算します。

評価額が5分の1になれば、税負担も大きく変わります。

そこで、通常の評価ルールを機械的に適用することで著しく不公平な結果となる場合に、例外的に実態に即した評価を行う仕組みが必要になります。

その役割を担うのが総則6項です。

一方で予測可能性の問題がある

総則6項には、大きな課題もあります。

納税者が事前に、

自分のケースは通常の通達評価で認められるのか

総則6項を適用される可能性があるのか

を明確に判断しにくいことです。

著しく不適当という言葉には一定の幅があります。

たとえば評価額が市場価値の何割になれば総則6項が適用される、という明確な数値基準が常に存在するわけではありません。

このため、相続や事業承継を計画している段階では問題ないと考えていた評価が、後になって税務調査で否認される可能性があります。

納税者にとっては大きな不確実性です。

非上場株では税額差が非常に大きくなる

非上場株で総則6項が問題になると、その影響は特に大きくなることがあります。

会社の評価額が数億円、数十億円になるケースがあるからです。

たとえば通達評価では5億円だった自社株が、別の方法によって10億円と評価されたとします。

5億円もの評価差が生じます。

相続税は累進税率のため、他の財産や法定相続人の状況にもよりますが、追加の税負担が億円単位になる可能性もあります。

さらに、申告後に否認されれば、本税だけではなく加算税や延滞税の問題も生じる可能性があります。

事業承継後の後継者にとって、資金繰りに重大な影響を与えることがあります。

総則6項を使うだけでは根本的な解決にならない

ここで制度上の重要な問題が出てきます。

もし通常の評価制度そのものに、極端に低い株価を算定しやすい構造があるとすれば、その都度総則6項で否認する方法は根本的な解決ではありません。

通常のルールでは低い株価が出る。

しかし、低すぎる場合には国税当局が総則6項で修正する。

このような制度では、納税者はどの株価が最終的に認められるのか判断しにくくなります。

また、同じような取引でも総則6項が適用されるケースとされないケースがあれば、課税の公平性という別の問題も生じます。

そこで、

例外規定によって個別に修正するのではなく、通常の評価方法そのものを適正化したほうがよいのではないか

という議論が出てきます。

有識者会議でも予測可能性が論点になっている

今回の非上場株評価制度の見直しでも、この予測可能性は重要な論点です。

国税庁の有識者会議では、評価通達の通常の計算方法を利用した過度な評価額圧縮への対応が議論されています。

その一方で、問題となる案件に総則6項を個別適用するだけでは、納税者が課税結果を予測しにくいという問題があります。

そこで、通常の非上場株評価ルール自体を見直すことで、

どの会社でも同じ基本的な考え方で評価できる

極端な評価額の乖離が生じにくい

納税者が事前に株価を予測しやすい

仕組みにする方向が検討されています。

新ルール案では評価制度そのものを見直す

国税庁が検討している新ルール案では、現在の類似業種比準方式などを見直し、会社の直前期末の純資産と今後5年間で見込まれる収益力を基礎として株価を算定する方向が示されています。

これは、総則6項との関係でも重要です。

現在の制度では、

会社規模によって評価方式が違う

類似業種比準価額と純資産価額に大きな差がある

評価方式を利用した株価圧縮が可能になる

という問題があります。

新制度では評価方式を一本化することで、このような極端な評価差そのものを小さくしようとしています。

通常の評価ルールが企業の経済実態に近づけば、総則6項で個別に修正しなければならない場面も減る可能性があります。

新ルールになれば総則6項がなくなるわけではない

ただし、新しい非上場株評価制度が導入されても、総則6項そのものが不要になるとは限りません。

どれだけ精密な評価制度を作っても、すべての特殊な取引や企業形態を事前に想定することは困難です。

新制度の計算式を形式的に利用し、経済実態とかけ離れた評価額を作り出す新しい手法が登場する可能性もあります。

そのため、例外的なケースに対応する規定として総則6項が残る意味はあります。

重要なのは、

総則6項を使わなければ公平な課税ができないケースを減らす

ことです。

通常の評価ルールそのものの精度を高めることが、今回の改革の目的の一つと考えられます。

経営者はルール通りかだけで判断しないことが重要

非上場株の事業承継では、

この方法は財産評価基本通達に書いてあるから問題ない

という判断だけでは十分でない場合があります。

重要なのは、

取引に経営上の合理性があるのか

会社の実態はどのように変化しているのか

評価額と経済価値の乖離が極端ではないか

税負担軽減だけを目的とした形式的な取引になっていないか

といった点です。

特に大規模な組織再編や資産移動などによって自社株評価額が急激に低下する場合には、評価額だけではなく取引全体の合理性を確認する必要があります。

総則6項の問題は株価評価だけではない

総則6項を理解するうえでは、これは単なる非上場株の計算問題ではないことも重要です。

本質的な問題は、

画一的な評価ルール

個別財産の実際の経済価値

をどう両立させるかということです。

すべての財産を完全な時価で個別評価すれば、相続税実務は非常に複雑になります。

一方、簡単なルールだけで評価すれば、経済価値との大きな乖離が生じる場合があります。

財産評価基本通達は、この二つを両立させるための実務上の仕組みです。

総則6項は、その画一的な仕組みでは対応できない例外を処理する安全弁と考えることもできます。

結論

財産評価基本通達の総則6項とは、通常の評価方法によって財産を評価することが著しく不適当と認められる場合に、国税当局が別の方法によって評価できる例外規定です。

非上場株では市場価格がなく、類似業種比準方式や純資産価額方式などの計算式で株価を求めるため、実際の経済価値と税務上の評価額に大きな差が生じることがあります。

その差が極端で、通常の評価方法を認めると他の納税者との公平を著しく害するような場合に、総則6項が問題になります。

一方、総則6項には納税者が事前に適用の有無を判断しにくいという予測可能性の問題があります。

通達通りに計算した株価が後から否認される可能性があれば、事業承継計画を立てることも難しくなります。

そこで今回の非上場株評価制度の見直しでは、個別案件を総則6項で修正するだけではなく、通常の評価ルールそのものを見直し、会社の純資産と収益力を中心とする共通の評価方式へ移行する方向が示されています。

今回の改革は、過度な節税を防ぐだけではありません。

納税者にとっても、どのような株価で課税されるのかを事前に予測しやすい制度へ変えるという意味を持っています。

参考

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の評価、新ルール案 中小・零細で相続税減

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の相続税、大規模・高収益なら負担増 国税庁案

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の算定方法 企業規模に応じ3方式

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