非上場株式の評価制度は、長年にわたり事業承継や相続税実務を支える重要な仕組みとして運用されてきました。
しかし近年、その制度を利用した評価額圧縮スキームが相次いで見られるようになり、国税庁は制度全体の見直しに着手しています。
2026年に開催された「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」では、現行制度の課題や具体的なスキームが示され、制度改正に向けた本格的な議論が始まりました。
今回は、非上場株式評価制度が今後どのように変わる可能性があるのか、その方向性について考えてみます。
なぜ今、制度見直しが行われるのか
非上場株式評価制度は、公平な課税を実現するために整備されてきました。
しかし、その制度が複雑になるにつれ、
会社規模区分の操作
子会社の利用
配当還元方式の活用
循環貸付
第三者を介在させた株式移転
オペレーティングリース
貸付用不動産の取得
など、多様な評価額圧縮スキームが考案されるようになりました。
制度を適正に運用するためには、こうした新しい手法にも対応していく必要があります。
これが、今回の見直しの大きな背景です。
国税庁が目指しているもの
今回の有識者会議を通じて見えてくるのは、
「評価制度をより公平で実態に即したものにしたい」
という国税庁の考え方です。
単に個別のスキームを禁止するのではなく、
制度全体として不合理な評価差が生じない仕組み
を目指しているように見えます。
つまり、「抜け道」を一つずつ塞ぐというより、制度全体の設計を見直そうという発想です。
「形式」から「実態」への転換
今回の議論で一貫しているのは、
形式ではなく実態を重視する
という考え方です。
例えば、
株主構成が変わっただけなのか
会社規模だけを変更したのか
資産の実態は変わっているのか
企業価値は本当に変化したのか
といった点が重要になります。
今後は、制度上の要件を形式的に満たすだけではなく、取引に経済合理性や事業目的があるかどうかが、より重視される可能性があります。
適正な事業承継まで制限されるわけではない
制度見直しというと、「事業承継対策ができなくなるのではないか」と心配する経営者もいるかもしれません。
しかし、有識者会議で問題視されているのは、
評価額を下げることだけを目的とした取引
であって、
事業承継そのもの
や
正当な組織再編
を否定するものではありません。
例えば、
後継者への株式集約
持株会社の活用
事業再編
資本政策の見直し
など、経営上の合理性がある取り組みは、今後も重要な経営手法であり続けるでしょう。
税理士に求められる役割も変わる
制度が複雑になるほど、税理士の役割も変化します。
これまでは、
「どうすれば評価額を下げられるか」
という相談が多くありました。
しかし今後は、
事業承継全体をどう設計するか
企業価値をどう高めるか
税務リスクをどう管理するか
という、より広い視点での助言が求められるようになるでしょう。
税務だけでなく、経営や財務も含めた総合的な支援が重要になります。
経営者が今から準備しておきたいこと
制度改正はまだ議論の途中ですが、経営者が今からできることは少なくありません。
例えば、
株主構成を把握する
自社株評価を定期的に確認する
事業承継計画を早めに作成する
組織再編の目的を整理する
資産構成を見直す
などです。
制度が変わってから慌てて対応するのではなく、企業の現状を把握し、長期的な視点で承継計画を進めることが重要です。
制度改正は企業価値を見直す機会でもある
今回の制度見直しは、単なる税制改正ではありません。
企業にとっては、
自社の資産構成
経営体制
ガバナンス
事業承継
を改めて見直す機会でもあります。
評価額を下げることだけを考えるのではなく、
「企業価値をどう高めるか」
という視点を持つことが、結果として円滑な事業承継にもつながるでしょう。
結論
非上場株式評価制度は、公平な課税と円滑な事業承継を両立させるための重要な制度です。しかし、その複雑な仕組みを利用した評価額圧縮スキームが増えたことから、国税庁では制度全体の見直しを進めています。
今後は、形式的な制度利用ではなく、事業目的や経済合理性を備えた取引であるかどうかが、これまで以上に重視される可能性があります。税理士や経営者に求められるのは、短期的な節税ではなく、企業価値の向上と持続可能な事業承継を見据えた長期的な視点です。
制度改正は制約ではなく、自社の経営や承継のあり方を見直す契機と捉えることで、より強い企業づくりにつなげることができるのではないでしょうか。
参考
税のしるべ 2026年7月13日号(1面)
取引相場のない株式の評価に関する有識者会議に現評価方法を濫用したスキーム8事例、次回8月の会合に議論の「たたき台」を提示
国税庁「財産評価基本通達」