簿価純資産とは何か 新しい非上場株評価で会社の決算書が重要になる理由編

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非上場株の相続税評価が大きく変わろうとしています。

国税庁が検討している新しい評価ルール案では、現在の類似業種比準方式などを見直し、会社の直前期末の純資産と今後の収益力を基礎として株式の価値を計算する方向が示されています。

ここで重要になるのが簿価純資産です。

簿価純資産とは、簡単にいえば会社の決算書に記録されている資産から負債を差し引いた会社の帳簿上の財産です。

これまで非上場株評価では、会社規模や類似する上場会社の株価などが重要な要素となっていました。しかし、新ルールが導入されれば、自社の貸借対照表そのものがこれまで以上に株式評価に直結する可能性があります。

そこで今回は、簿価純資産とは何なのか、時価純資産とは何が違うのかを整理します。

簿価純資産とは何か

会社は決算の際に貸借対照表を作成します。

貸借対照表には、会社が保有する現金、預金、売掛金、商品、土地、建物、有価証券などの資産が記載されています。

一方、銀行借入金や買掛金などは負債として記載されます。

基本的には、

資産から負債を差し引いたもの

が純資産になります。

たとえば、会社の資産が10億円、負債が6億円であれば、差額の4億円が純資産というイメージです。

この資産や負債を決算書上の帳簿価額を基礎として把握するのが簿価純資産です。

会社が長年利益を出し、その利益を配当などで社外に流出させず会社内部に蓄積していけば、通常は純資産も積み上がっていきます。

そのため、創業から長い年月がたち、毎年安定した利益を出してきた会社では、簿価純資産がかなり大きくなっている場合があります。

貸借対照表の純資産とどのような関係があるのか

貸借対照表は大きく資産、負債、純資産の三つに分かれています。

純資産の部には、資本金や資本剰余金、利益剰余金などが記載されています。

中小企業で特に大きくなりやすいのが利益剰余金です。

会社が1000万円の利益を出したとします。

税金や配当などを考慮する必要がありますが、その利益のうち会社に残った部分は利益剰余金として蓄積されていきます。

毎年利益を積み上げれば、利益剰余金は大きくなります。

たとえば創業時の資本金が1000万円しかなかった会社でも、数十年間にわたって利益を蓄積した結果、純資産が数億円になっていることがあります。

つまり、会社の現在の規模だけを見て簿価純資産を判断することはできません。

売上高や従業員数がそれほど大きくなくても、長年利益を蓄積してきた会社では大きな純資産を持っている可能性があります。

新しい非上場株評価では、この点が非常に重要になります。

簿価とは帳簿に記録されている価格

簿価という言葉は簿記上の価額を意味します。

重要なのは、簿価と現在の市場価格は同じとは限らないことです。

たとえば、会社が30年前に土地を5000万円で購入したとします。

その後、その土地の市場価格が2億円まで上昇していたとしても、会社の帳簿上では原則として取得価額を基礎とした金額で記録されています。

土地は通常、建物のように減価償却しないため、5000万円という簿価が残っているケースがあります。

この場合、

帳簿上の価額は5000万円

現在の市場価値は2億円

という大きな差が生じます。

この差が、いわゆる含み益です。

簿価純資産を見る場合には、このような資産の含み益がそのまま反映されているとは限らない点を理解する必要があります。

時価純資産とは何か

これに対して時価純資産は、会社が持っている資産や負債を現在の価値に置き換えて計算した純資産です。

先ほどの会社を考えてみます。

貸借対照表上の土地が5000万円であっても、現在の価値が2億円であれば、時価で評価すると1億5000万円の含み益があります。

その分、時価純資産は簿価純資産より大きくなります。

反対の場合もあります。

会社が1億円で購入した有価証券の現在価値が6000万円まで下落していれば、4000万円の含み損が存在します。

つまり、

簿価純資産は帳簿上の価額を基礎とするもの

時価純資産は現在の価値を基礎とするもの

という違いがあります。

両者は会社によって大きく異なることがあります。

特に古くから土地や有価証券などを保有している会社では、その差が大きくなりやすくなります。

現在の純資産価額方式では時価評価が重要になる

ここで注意したいのは、現在の非上場株評価に使われる純資産価額方式と、単純な簿価純資産は同じものではないということです。

現在の純資産価額方式では、会社の帳簿に載っている数字をそのまま使って株価を計算するわけではありません。

会社が持つ資産を相続税評価額に置き換えるなどして評価します。

そのため、土地、有価証券などに含み益があれば、その影響が株式評価額に反映されることがあります。

さらに、帳簿上の純資産と相続税評価上の純資産との差額については、法人税額等相当額を控除する仕組みもあります。

したがって、

簿価純資産

時価純資産

現在の純資産価額方式による純資産

は、それぞれ区別して考える必要があります。

名前が似ていますが、税務上は意味が異なります。

なぜ新ルール案では簿価純資産が注目されるのか

今回の新ルール案では、会社の直前期末の純資産を評価の基礎にする方向が報じられています。

背景にある大きな問題の一つが、現在の非上場株評価が複雑になりすぎていることです。

現在は会社規模を判定し、大会社、中会社、小会社などに区分したうえで、類似業種比準方式や純資産価額方式を使い分けます。

さらに類似業種比準方式では、上場会社の株価や利益、配当、純資産などを利用して評価します。

会社規模や評価方式によって結果が大きく変わることもあります。

これに対し、簿価純資産は会社が通常作成している決算書から把握しやすい数字です。

そのため、評価方法をより客観的で分かりやすいものにするうえで利用しやすい指標と考えられます。

決算書が自社株評価に直接つながる

新ルールが導入された場合、経営者にとって重要になるのが、自社の貸借対照表を見る視点です。

これまでも決算書は自社株評価に重要でした。

しかし、新制度で簿価純資産が評価式の中心的な要素になれば、貸借対照表の純資産がより直接的に株価へ影響する可能性があります。

特に確認したいのが利益剰余金です。

長年にわたり利益を会社内部に蓄積してきた会社では、利益剰余金が数億円、場合によっては数十億円になっていることがあります。

経営者からすれば、これは会社の財務体質が強いことを意味します。

借金が少なく、現預金を十分に持ち、自己資本比率の高い会社は一般的には優良企業です。

ところが、相続税評価では、その強い財務体質が自社株評価額を高くする方向に働く可能性があります。

会社経営では望ましいことが、相続税では必ずしも有利とは限らないわけです。

現金を多く持つ会社にも影響する

簿価純資産が重視されるのであれば、土地だけでなく現預金を多く持っている会社にも注目する必要があります。

たとえば、

現預金5億円

その他資産2億円

負債2億円

という会社であれば、単純化すると純資産は5億円です。

現金には土地のような大きな含み益や含み損が通常ありません。

したがって、多額の利益を蓄積し、それが現預金として会社内部に残っている会社では、簿価純資産の大きさがそのまま目立ちます。

長年黒字経営を続けてきた無借金会社などは、新制度の具体的な計算方法を注意深く確認する必要があります。

簿価だけで企業価値を決めるわけではない

もっとも、新ルール案は簿価純資産だけで株価を決める仕組みではありません。

ここが非常に重要です。

報道されている新ルール案では、直前期末の純資産だけでなく、今後5年間で見込まれる収益力も考慮します。

つまり、

現在会社にどれだけの財産が蓄積されているのか

これから会社がどれだけ利益を生み出せるのか

という二つの側面から会社の価値を見る考え方です。

純資産が大きくても収益力が低い会社と、純資産は小さくても毎年大きな利益を生み出している会社では、企業としての価値は同じではありません。

そこで、ストックである純資産とフローである利益の両方を評価に取り込もうとしていると考えることができます。

新ルールを見るときは確定事項と案を分ける必要がある

今回の制度については、もう一つ重要な注意点があります。

現時点で報じられているものは、新しい評価ルールの案です。

具体的な計算式や係数、収益力の算定方法などがすべて最終決定されたわけではありません。

したがって、現段階で、

簿価純資産が何億円だから新制度の株価はいくらになる

と断定することはできません。

特に、最終的にどの純資産の数字をどのように計算式へ組み込むのかは重要です。

制度の骨格だけでなく、今後示される具体的な評価通達や計算方法まで確認する必要があります。

結論

簿価純資産とは、会社の帳簿に記録された資産と負債を基礎として把握する会社の純財産です。

貸借対照表では、資本金や利益剰余金などを含む純資産の部として表れます。

一方、時価純資産は会社が持っている資産などを現在の価値に置き換えて考えるため、簿価純資産とは大きく異なることがあります。

特に昔から保有している土地などに多額の含み益がある会社では、簿価と時価の差が大きくなります。

今回検討されている非上場株の新しい評価ルールでは、会社の直前期末の純資産と将来の収益力を組み合わせて株価を評価する方向が示されています。

この仕組みが導入されれば、会社の決算書は単なる経営成績を確認する資料ではなく、相続時の自社株評価を考えるうえでも、これまで以上に重要な資料になります。

特に長年利益を蓄積してきた会社では、利益剰余金や現預金が積み上がり、簿価純資産が大きくなっている場合があります。

会社にとって財務体質が強いことと、相続税評価が低いことは別の問題です。

これからの事業承継では、毎年の利益だけではなく、貸借対照表にどれだけ純資産が積み上がっているのかを見ることが、より重要になっていく可能性があります。

そして、もう一つ株価を左右する重要な要素が、会社が将来どれだけ利益を生み出せるかという収益力です。

参考

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の評価、新ルール案 中小・零細で相続税減

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の相続税、大規模・高収益なら負担増 国税庁案

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の算定方法 企業規模に応じ3方式

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