スマートフォンなら、深夜でも休日でも銀行振込の操作ができます。
それなら、お金もその瞬間に世界中へ移動していると思うかもしれません。
しかし、振込の操作を24時間できることと、銀行同士の資金決済が24時間365日完了することは同じではありません。
特に国際送金では、複数の銀行や決済システムが関係するため、夜間や休日を挟むと処理に時間がかかる場合があります。
インターネットが24時間動いていても、銀行のお金が同じように24時間動いてきたわけではないのです。
銀行の決済システムとは何か
銀行振込では、利用者の画面に表示される数字を変更するだけでは処理は終わりません。
同じ銀行の口座同士であれば、銀行内部の帳簿を書き換えることで処理できる場合があります。
しかし、別の銀行へ送金する場合には銀行同士の資金のやり取りが必要になります。
例えば、A銀行の顧客がB銀行の顧客へ100万円を送ったとします。
A銀行の顧客の預金を100万円減らし、B銀行の顧客の預金を100万円増やすだけでは、銀行間の処理は完結しません。
最終的にはA銀行からB銀行へ100万円分の価値を移す必要があります。
この銀行同士のお金の受け渡しが決済です。
営業日という考え方
従来の金融システムでは、取引を処理する営業日という考え方が重要でした。
銀行や証券市場、中央銀行の決済システムなどは、決められた営業日や時間帯を中心に動いてきました。
これは金融取引に確認や照合、資金決済などの処理が必要だからです。
現在では多くの処理がコンピューター化されていますが、金融インフラ全体が一度に24時間365日化したわけではありません。
個人がスマートフォンから振込を指示できても、その先にある複数のシステムのすべてが同じ時間帯に稼働しているとは限らないのです。
国内送金と国際送金では事情が違う
国内の銀行振込では、即時に相手口座へ反映される場面がかなり増えています。
同じ国の金融機関が共通の決済インフラを利用し、制度や通貨も共通しているためです。
一方、国際送金では事情が複雑になります。
国が違えば通貨も違います。
銀行制度や決済システム、営業時間、休日も違います。
さらに送金元の銀行と受取銀行が直接つながっていなければ、中継銀行が入ることもあります。
関係する金融機関が増えるほど、すべてを同時に動かすことが難しくなります。
夜間や休日には何が起こるのか
例えば、日本企業が土曜日に海外企業への支払いを指示したとします。
送金情報そのものは銀行へ送ることができても、必要な銀行間決済がすべてその場で完了するとは限りません。
関係する決済システムが休日であれば、次の営業日まで処理を待つことがあります。
さらに日本が営業日でも、送金先の国が祝日というケースがあります。
世界には時差もあるため、一方の国では昼間でも別の国では深夜です。
国際送金では複数の国の金融インフラをまたぐため、営業時間という制約がより大きくなります。
情報とお金では動き方が違う
ここで重要なのは、送金情報と実際の資金決済を分けて考えることです。
電子メールなら、日本から米国へ送った情報はほぼ瞬時に届きます。
国際送金でも、Swiftなどを通じて送金に必要な情報を素早く伝えることはできます。
しかし、お金の場合には銀行の帳簿を書き換え、銀行同士の債権債務を整理し、最終的な決済まで完了させなければなりません。
さらに本人確認やマネーロンダリング対策、経済制裁への対応なども必要です。
情報を送ることと、お金の受け渡しを確定させることは同じではありません。
これが、インターネット時代でも国際送金に時間がかかってきた大きな理由です。
ブロックチェーンで何が変わるのか
ブロックチェーンなどの分散型台帳を利用すると、複数の参加者が共通の取引記録を共有できます。
これを銀行預金に応用したものがトークン化預金です。
銀行預金をトークンとしてデジタル基盤上で移転できれば、従来のように複数のシステムを順番に通して処理する部分を減らせる可能性があります。
さらにコンピューター同士で自動的に処理できれば、人間の営業時間に合わせる必要も小さくなります。
そのため、夜間や週末、祝日を含めた24時間365日の価値移転が現実味を帯びてきます。
24時間化には銀行同士の接続が必要
ただし、1つの銀行だけが24時間動いても十分ではありません。
A銀行がトークン化預金を24時間送れるようになっても、B銀行が受け取れなければ銀行間送金は成立しません。
特に国際送金では、多数の銀行をつなぐ共通の仕組みが必要です。
そこでSwiftが進めているのが、異なる銀行のトークン化預金を接続するSwift Digital Ledgerです。
個々の銀行をデジタル化するだけではなく、銀行同士をつなぐ金融インフラ全体を24時間化することが重要になります。
銀行営業時間がなくなるわけではない
24時間365日の送金が実現しても、銀行の店舗が24時間営業になるわけではありません。
銀行員が深夜まで働き続けるという意味でもありません。
重要なのは、人が働く時間とコンピューターが決済を処理する時間を切り離すことです。
一定の条件を満たした取引であれば、システムが自動的に確認し、資金移転を完了させます。
金融サービスは、人間の営業時間に合わせて動く仕組みから、デジタルシステムが常時稼働する仕組みへ変わろうとしているのです。
結論
銀行が24時間365日送金できなかったのは、インターネットの技術がなかったからではありません。
銀行間でお金を移動するためには、複数の金融機関や決済システムを通じて取引を確認し、最終的な資金決済まで完了させる必要があるからです。
特に国際送金では、国ごとの営業時間や休日、時差、中継銀行などが関係するため、処理が複雑になります。
トークン化預金とブロックチェーンは、この金融インフラそのものを24時間動かせる仕組みに変える可能性があります。
私たちがスマートフォンからいつでも送金操作をできる時代から、お金そのものがいつでも動く時代へ。
24時間365日の国際送金とは、その大きな転換を意味しているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 トークン化預金、国際送金即時に