高配当株を選ぶとき、多くの人が現在の配当利回りに注目します。
株価に対して年間で何%の配当を受け取れるのかが一目で分かるため、非常に分かりやすい指標です。
しかし、長期間株式を保有する場合には、現在いくら配当を受け取れるのかだけでなく、その配当が将来どの程度増えていくのかも重要になります。
その成長の速さを見るのが配当成長率です。
現在の配当利回りがそれほど高くない企業でも、利益の成長に合わせて配当を継続的に増やすことができれば、10年後、20年後に受け取る配当額は大きく変わります。
上場企業の配当総額が23兆円へ拡大し、多くの企業が増配を計画する現在、配当を見る視点も現在の利回りから将来の成長へ広げる必要があります。
配当成長率とは何か
配当成長率とは、企業の1株当たり配当金が一定期間にどの程度増加したのかを示すものです。
例えば前年の年間配当が50円で、今年が55円だったとします。
配当は5円増えています。
この場合の1年間の配当成長率は、
55円から50円を引いた金額を50円で割る
ことで求められます。
結果は10%です。
つまり、この企業は1年間で配当を10%増やしたことになります。
配当額そのものだけではなく、どの程度の速度で増えているのかを見ることができます。
1年だけではなく長期間を見る
配当成長率を見る場合、1年間だけでは十分ではありません。
ある年に特別に大きな利益が出て、一度だけ大幅増配する企業もあるからです。
重要なのは、5年や10年といった期間で配当がどのように増えてきたかです。
例えば5年前の年間配当が50円で、現在が80円なら、5年間で60%増えています。
ただし、単純に60%を5で割って年12%と考えるわけではありません。
配当が複利的に増えてきたと考える場合には、年平均成長率を見る方法があります。
長期間の配当成長率を見ることで、一時的な増配なのか、継続的な増配なのかを判断しやすくなります。
配当が毎年10%増えると10年後はどうなるのか
配当成長の効果を考えるため、年間配当50円の企業が毎年10%ずつ増配すると仮定してみます。
1年後は55円です。
2年後は約61円です。
3年後は約67円になります。
5年後には約81円です。
10年後には約130円になります。
最初は50円だった配当が、10年後には約2.6倍になります。
毎年10%という数字だけを見ると、それほど大きく感じないかもしれません。
しかし成長が積み重なることで、長期間では大きな差になります。
これが配当成長を見る重要な理由です。
高配当株と増配株では結果が逆転することがある
例えばA社とB社の2社を考えてみます。
A社は株価2000円、年間配当100円です。
配当利回りは5%です。
B社は株価2000円、年間配当40円です。
配当利回りは2%です。
現在だけを見れば、A社の方が圧倒的に魅力的に見えます。
しかしA社の配当が10年間100円のままだとします。
一方、B社が毎年10%程度増配できれば、10年後の年間配当は100円を超える水準になります。
その後も成長が続けば、B社の年間配当がA社を上回る可能性があります。
現在の配当利回りが高い企業が、長期的にも最も多くの配当をもたらすとは限らないのです。
購入価格に対する利回りも変わっていく
増配株を長期保有すると、購入価格に対する配当収入が増えていきます。
株価2000円で購入し、最初の年間配当が40円なら、購入時の配当利回りは2%です。
その後、年間配当が80円になれば、当初の購入価格2000円に対して4%相当の配当を受け取ることになります。
100円になれば5%相当です。
130円なら6.5%相当です。
通常の配当利回りは現在の株価で計算しますが、長期投資家にとっては自分が投じた金額に対して配当収入がどの程度まで成長したかを見る考え方もできます。
増配を続ける企業では、この数字が年々大きくなる可能性があります。
配当成長を支えるのは利益成長
では、企業はなぜ配当を増やし続けることができるのでしょうか。
最も重要なのは利益の成長です。
例えばEPSが200円で年間配当60円なら、配当性向は30%です。
その後EPSが300円まで増え、年間配当も90円になったとします。
配当は50%増えています。
しかし配当性向は、
90円÷300円=30%
のままです。
企業が稼ぐ利益そのものが増えたため、無理なく配当を増やすことができています。
持続可能な配当成長を考えるうえでは、配当成長率とEPS成長率を一緒に見ることが重要です。
利益以上に配当が増えていないかを見る
反対に注意したいのが、利益より配当の方が速く増えている企業です。
例えばEPSが200円から220円へ10%増えたとします。
一方、配当が60円から90円へ50%増えたとします。
配当性向は30%から約41%へ上昇します。
短期間なら問題ありません。
企業がこれまで低かった配当性向を引き上げ、株主還元を強化している可能性があります。
しかし毎年、利益成長率を大幅に上回る増配を続けることはできません。
最終的には配当性向が100%へ近づくからです。
長期的な配当成長率は、企業の利益成長率から大きく離れ続けることは難しいのです。
配当性向が低い企業には増配余力がある
現在の配当性向も将来の配当成長を考える材料になります。
利益が安定している企業で配当性向が20%なら、株主還元方針の変更によって配当性向を30%や40%へ引き上げる余地があります。
一方、すでに配当性向が90%なら、利益が増えない限り大幅な増配余力は限られます。
したがって配当成長を見るときには、
利益成長による増配余力
配当性向引き上げによる増配余力
の二つを分けて考えると分かりやすくなります。
長期的には前者の方が持続しやすい増配です。
キャッシュフローも増配を支える
配当は現金で支払われます。
そのため利益だけでなく、企業がどれだけ現金を生み出しているかも重要です。
本業から生み出す営業キャッシュフローが増えている。
設備投資を差し引いた後にも十分な現金が残っている。
借入金返済にも余裕がある。
このような企業であれば、増配を続けやすくなります。
逆に会計上の利益は増えていても、現金がほとんど増えていない企業では、配当成長を長期間維持することが難しくなる場合があります。
10年間増配した実績をどう見るのか
10年連続増配という実績は魅力的に見えます。
しかし、増配年数だけを見るのでは不十分です。
例えば毎年1円だけ増配する企業と、利益成長に合わせて毎年5%から10%程度増配する企業では、10年間で受け取る配当額に大きな差が生じます。
したがって、
何年増配したか
だけではなく、
どの程度の割合で増配したか
を見る必要があります。
ここで配当成長率が重要になります。
連続増配年数が増配の継続性を見る指標なら、配当成長率は増配の速度を見る指標と考えることができます。
高すぎる配当成長率にも注意する
配当成長率は高ければ高いほどよいとは限りません。
年間配当が50円から100円へ増えれば、配当成長率は100%です。
非常に魅力的に見えます。
しかし、その増配が毎年続くとは考えにくいでしょう。
政策保有株式の売却などによる一時的な資金余力から大幅増配した可能性もあります。
あるいは配当政策を変更して、一度だけ配当性向を大幅に引き上げたのかもしれません。
重要なのは、一時的な増配率の高さではなく、企業の利益成長に支えられた持続可能な配当成長かどうかです。
長期投資では複数の数字を見る
配当成長株を見るときには、配当成長率だけで判断するのではなく、複数の数字を組み合わせる必要があります。
現在の配当利回り。
過去の配当成長率。
EPSの成長率。
配当性向。
営業キャッシュフロー。
DOE。
累進配当の有無。
こうした数字を見ることで、その企業の増配が持続可能なのかを判断しやすくなります。
現在の利回りと将来の成長を両方見ることが重要です。
配当再投資と組み合わせると効果が大きくなる
配当成長の効果は、受け取った配当を再投資するとさらに大きくなる可能性があります。
企業が増配することで1株から受け取る配当が増えます。
その配当を使ってさらに株式を購入すれば、保有株数も増えます。
すると、
1株当たり配当が増える
保有株数も増える
という二つの効果が同時に働きます。
長期投資では、この積み重ねが資産形成に大きな違いを生む可能性があります。
結論
配当成長率とは、企業の1株当たり配当金が一定期間にどの程度増加したのかを見る指標です。
現在の配当利回りが高い企業でも、配当がまったく増えなければ長期的な配当収入は大きく変わりません。
一方、現在の配当利回りが低くても、利益成長に合わせて5年、10年と増配を続ける企業では、投資家が受け取る配当額が大きく成長する可能性があります。
ただし、配当成長率が高ければよいわけではありません。
利益が増えていないのに配当性向だけを引き上げて増配しているのであれば、いずれ限界が来ます。
持続可能な増配を支えるのは、企業の利益成長とキャッシュフローです。
高配当株を見るときには現在の配当利回りを確認する。
増配株を見るときには配当成長率を確認する。
そして長期投資では、現在受け取れる配当と将来増えていく配当の両方を見ることが重要です。
配当は受け取った瞬間に新しい利益が生まれるようにも見えます。
しかし実際の株式市場では、配当を受け取る権利がなくなった日に株価が下落する仕組みがあります。
それが配当落ちです。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日 朝刊 上場企業、配当総額23兆円