資産を多く持つ会社はなぜ新ルールで自社株が高くなるのか 不動産と内部留保の影響編

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

新しい非上場株評価ルール案では、会社の直前期末の純資産と今後5年間で見込まれる収益力を基礎として株価を計算する方向が示されています。

この仕組みで影響を受けやすいのが、会社内部に多額の資産を持っている企業です。

特に、不動産や現預金を長年保有している会社、利益を配当せず内部留保として積み上げてきた会社では、簿価純資産が大きくなっています。

現在は類似業種比準方式によって純資産価額より低く評価される会社もありますが、新ルールでは会社自身の純資産がより直接的に評価額へ反映される可能性があります。

今回は、なぜ資産を多く持つ会社で自社株評価額が高くなりやすいのか、不動産や内部留保との関係を整理します。

簿価純資産が大きい会社は評価の出発点が高くなる

新ルール案では、会社の直前期末の純資産が重要な評価要素になります。

純資産とは、会社の資産から負債を差し引いた残りです。

たとえば、

資産10億円

負債3億円

であれば、純資産は7億円です。

一方、

資産5億円

負債4億円

であれば、純資産は1億円です。

同じような利益を出している会社でも、純資産の大きさが違えば、新ルールにおける評価の出発点も変わります。

つまり、会社に長年財産を蓄積してきた企業ほど、自社株評価額が高くなる可能性があります。

現金や預金も純資産を押し上げる

資産というと不動産をイメージしやすいですが、現金や預金も重要です。

長年黒字経営を続けている会社では、利益の一部が現預金として積み上がっていることがあります。

たとえば、会社が毎年5000万円の利益を出し、その多くを会社に残してきたとします。

10年、20年と続けば、多額の現預金や金融資産が蓄積される可能性があります。

経営上は、現預金が多いことは財務の安定につながります。

借入金の返済余力があります。

不況にも耐えやすくなります。

新規投資も行いやすくなります。

しかし相続税評価の面では、会社の純資産を大きくする要因となります。

不動産保有会社は特に資産額が大きくなりやすい

不動産を多く保有する会社では、純資産が大きくなりやすい傾向があります。

たとえば、

賃貸マンション

オフィスビル

店舗

工場用地

駐車場

などを複数保有している会社です。

不動産は一件当たりの金額が大きいため、貸借対照表上の総資産も大きくなります。

借入金によって取得していれば負債も増えますが、返済が進むにつれて純資産部分は増えていきます。

長期間保有して借入金が減っている不動産会社では、相当な純資産が蓄積されていることがあります。

借入金が減ると純資産は厚くなる

不動産会社の例を考えてみます。

会社が10億円の不動産を8億円の借入金で取得したとします。

単純化すれば、取得直後の純資産への影響は限定的です。

しかし、その後賃料収入から借入金を返済し、残高が3億円まで減ったとします。

不動産が会社に残ったまま負債だけが減れば、会社の純資産は大きくなります。

つまり、長年きちんと借入金を返済してきたことが、結果として自社株評価額を押し上げる方向に働く可能性があります。

経営としては健全でも、相続税評価では株価上昇要因になるということです。

長年蓄積した内部留保も純資産になる

高収益企業では、内部留保も重要です。

会社が利益を出すと、その利益のうち配当などで社外に出なかった部分は利益剰余金として蓄積されます。

たとえば毎年3000万円ずつ利益を会社に残し、それを20年間続けたとします。

単純計算では6億円です。

もちろん実際には税金や設備投資などがありますが、長期間にわたる利益の蓄積によって純資産が何億円にもなることは珍しくありません。

この利益剰余金が貸借対照表の純資産を大きくします。

新ルールで簿価純資産が評価の基礎になるのであれば、過去の利益の蓄積が直接的に自社株評価へ影響する可能性があります。

内部留保は現金だけではない

内部留保という言葉は、会社が現金をため込んでいる状態と誤解されることがあります。

しかし、内部留保は必ずしも現金ではありません。

会社が利益を使って工場を建てれば、現金は減りますが建物という資産に変わります。

機械を購入すれば設備になります。

土地を購入すれば不動産になります。

株式を購入すれば有価証券になります。

つまり、内部留保はさまざまな資産に姿を変えて会社内部に残っています。

そのため、預金残高だけを見ても、会社にどれだけ利益が蓄積されているかは分かりません。

貸借対照表全体を見る必要があります。

利益が少なくても評価額が上がることがある

新ルールで特に注意したいのが、現在の利益がそれほど多くなくても、純資産が大きければ評価額が上がる場合があることです。

日本経済新聞の試算では、売上高17億円の工事会社について、現行方式で9600万円だった評価額が新方式では3億円まで上昇しました。

相続税額は1100万円から9300万円へ増加しています。

この会社の利益は3000万円程度でした。

高収益企業というほどではありません。

しかし、約5億円の純資産を持っていたため、新ルールではその資産の大きさが株価を押し上げました。

この事例は、新制度を見るうえで非常に重要です。

低収益でも資産が大きければ安心できない

新ルールでは収益力も考慮されるため、

利益が少ない会社なら株価は下がる

と考えたくなるかもしれません。

しかし、必ずしもそうではありません。

たとえば年間利益が1000万円しかなくても、会社に10億円の純資産があれば、その資産価値を無視することはできません。

反対に、純資産が小さくても年間1億円の利益を出していれば、収益力が株価を押し上げる可能性があります。

つまり、新ルールでは、

純資産が大きい会社

収益力が高い会社

のどちらも評価額が高くなる可能性があります。

両方が大きい会社では、さらに影響が強くなります。

不動産の含み益と簿価の関係も重要になる

不動産を持つ会社では、もう一つ重要な問題があります。

簿価と現在の価値との差です。

たとえば会社が30年前に土地を5000万円で購入し、現在の市場価値が3億円になっていたとします。

帳簿上の簿価は5000万円程度のまま残っている場合があります。

新ルール案で簿価純資産を利用するのであれば、この土地はまず5000万円を基礎として純資産に反映されることになります。

しかし、実際には3億円の価値があります。

この含み益を新制度でどのように扱うのかは、非常に重要な論点です。

簿価を使えば不動産会社が必ず有利になるとは限らない

簿価が低い不動産を多く持っている会社では、

新制度は簿価を使うなら株価が低くなるのではないか

と思うかもしれません。

しかし、現時点でそのように断定することはできません。

新ルールの具体的な計算式や調整方法は、今後の制度設計を確認する必要があります。

また、不動産会社には土地保有割合などに応じた特別な取扱いが設けられる可能性も考えられます。

実際の経済価値とかけ離れた低い評価額になれば、今回の改革が目指す評価の公平性と矛盾するからです。

したがって、簿価という言葉だけを見て不動産保有会社が有利になると判断するのは早計です。

資産管理会社にも大きな影響が出る可能性がある

資産管理会社とは、不動産や有価証券、現預金などを保有して管理することを主な目的とする会社です。

こうした会社では、一般の事業会社とは価値の生まれ方が異なります。

製造業であれば、従業員や技術、販売力などによって利益を生み出します。

一方、資産管理会社では、保有している財産そのものが会社価値の大きな部分を占めます。

そのため、新ルールで純資産が重要になると、資産管理会社の株価への影響も大きくなる可能性があります。

特に、過去の相続対策として資産管理会社を活用している場合には、新制度の内容を確認する必要があります。

財務体質が強い会社ほど注意が必要になる

多額の純資産を持つ会社は、一般的には財務体質の強い会社です。

借入金が少ない。

自己資本比率が高い。

現預金が豊富にある。

不況にも耐えやすい。

こうした特徴は、会社経営では大きな強みです。

しかし、新しい非上場株評価では、その強みがそのまま評価額上昇につながる可能性があります。

つまり、

経営上の優良企業

相続税上の評価が低い会社

は同じではありません。

むしろ経営が健全であるほど、自社株評価が高くなる場合があります。

純資産を減らせばよいという話ではない

ここでも注意したいのは、

自社株を下げるために資産を減らせばよい

という考え方です。

会社に必要な現預金まで配当で社外に出せば、資金繰りが不安定になります。

必要な不動産や設備を売却すれば、事業そのものに影響します。

借入金を増やせば純資産は相対的に小さく見える場合がありますが、財務リスクは高まります。

相続税を減らすためだけに会社の財務基盤を弱くすることは適切ではありません。

重要なのは、会社経営に必要な資産と、事業承継時の税負担を総合的に考えることです。

会社の中にある資産と経営者個人の財産は別物

事業承継で難しいのは、会社に資産が多いからといって、後継者に現金があるわけではないことです。

たとえば会社が5億円の預金を持っていたとしても、その預金は会社のものです。

後継者個人が相続税の支払いに自由に使うことはできません。

一方、その5億円が会社の純資産を押し上げれば、自社株評価額は高くなる可能性があります。

つまり、

会社にはお金がある

自社株も高い

しかし後継者には納税資金がない

という状態が起こり得ます。

これが非上場株の事業承継に特有の難しさです。

資産の多い会社ほど早めの試算が重要になる

新ルールが導入されれば、資産を多く持つ会社では新旧評価額の比較が重要になります。

特に確認したいのが、

簿価純資産はいくらあるか

利益剰余金はいくらあるか

現預金はいくらあるか

不動産をどれだけ持っているか

借入金はいくら残っているか

過去5年間の利益はどの程度か

という点です。

これらの数字は、基本的に会社の決算書から把握できます。

事業承継を考える経営者にとって、貸借対照表と損益計算書を相続税の視点から見る重要性が高まります。

結論

資産を多く持つ会社が新しい非上場株評価で高く評価される可能性があるのは、会社の簿価純資産が評価の重要な基礎になる方向が示されているからです。

現預金、不動産、有価証券などを多く持ち、借入金などの負債が少なければ、会社の純資産は大きくなります。

さらに、長年利益を内部留保してきた会社では利益剰余金が積み上がり、純資産が大きくなっています。

その結果、現在の利益がそれほど多くなくても、資産の大きさによって自社株評価額が上昇する場合があります。

日本経済新聞の試算でも、利益は3000万円程度でありながら、約5億円の純資産を持つ会社の評価額が9600万円から3億円へ上昇するケースが示されています。

新制度で重要なのは、会社規模だけを見ることではありません。

会社の中にどれだけ財産が蓄積されているのか。

その財産がどのような形で存在しているのか。

そして、会社がどれだけ利益を生み出しているのか。

これらを一体として見る必要があります。

特に不動産や内部留保を多く持つ会社では、新ルールによって自社株評価が大きく変わる可能性があるため、制度確定後は早めに新旧ルールによる試算を行うことが重要になります。

参考

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の評価、新ルール案 中小・零細で相続税減

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の相続税、大規模・高収益なら負担増 国税庁案

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の算定方法 企業規模に応じ3方式

タイトルとURLをコピーしました