新しい非上場株評価で零細企業はなぜ減税になりやすいのか編

税理士
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非上場株の新しい相続税評価ルール案では、規模が大きく収益力の高い会社では評価額が上がる一方、小規模で収益力の低い会社では評価額が下がる可能性が示されています。

特に影響が注目されているのが、従業員数が少なく、売上高もそれほど大きくない零細企業です。

現在の制度では、小会社は原則として純資産価額方式を中心に評価されます。

このため、会社に現預金や不動産などが残っていれば、利益がそれほど出ていなくても自社株評価額が高くなる場合があります。

これに対して新ルール案では、会社の純資産だけでなく収益力も評価に反映します。

収益力の低い会社や赤字会社では、この仕組みが評価額を引き下げる方向に働く可能性があります。

今回は、なぜ零細企業では新ルールによって税負担が軽くなりやすいのかを整理します。

零細企業では純資産がそれほど大きくないことが多い

零細企業では、一般に大企業ほど多額の資産を保有していません。

従業員が数人程度で、売上高も数千万円から数億円規模であれば、現預金や設備などの資産も限定的であることが多くなります。

もちろん、長年事業を続けて多額の不動産や現預金を持つ会社もあります。

しかし、平均的には大規模企業ほど内部留保が厚くなく、純資産も小さい傾向があります。

新ルール案で簿価純資産が重要な評価要素になるのであれば、純資産そのものが小さい会社では評価額の基礎も大きくなりにくいと考えられます。

現行制度では小会社ほど純資産価額方式の影響が強い

現在の非上場株評価では、会社規模によって評価方式が変わります。

原則として、大会社では類似業種比準方式、小会社では純資産価額方式を利用します。

そのため、零細企業は小会社に該当しやすく、純資産価額方式による評価の影響を強く受けます。

純資産価額方式では、会社が持つ資産を相続税評価額などに置き換え、負債を差し引いて株価を計算します。

たとえ利益が少なくても、会社に土地や現預金などが残っていれば、それらの資産価値が株価に反映されます。

つまり、収益力が低い会社でも資産があるという理由で比較的高い評価額になることがあります。

新ルールでは低収益が評価に反映される

新しい評価ルール案では、会社の純資産だけでなく今後5年間で見込まれる収益力を考慮する方向が示されています。

これが零細企業にとって大きな意味を持ちます。

たとえば、会社に5000万円の純資産があるとします。

しかし、年間利益が100万円程度しかない場合、その会社は財産を持っているものの、事業として高い収益力を持つとは言いにくい状態です。

現在の純資産価額方式では、純資産そのものが株価に強く反映されます。

一方、新ルールでは低い収益力も評価に反映されるため、企業価値全体が抑えられる可能性があります。

売上高が小さい会社ほど利益も限定的になりやすい

零細企業では、事業規模そのものが小さいため、絶対額としての利益も小さくなりやすい傾向があります。

たとえば売上高4000万円の会社で、毎年300万円の利益を出しているとします。

利益率で見れば決して悪い会社とは限りません。

しかし、年間利益の絶対額は300万円です。

一方、売上高50億円の会社が利益3億円を出している場合、将来生み出す利益の規模は大きく異なります。

新ルールで収益力そのものを評価するのであれば、零細企業ではこの利益規模の小ささが評価額を抑える方向に働く可能性があります。

日経試算でも小規模会社の評価額が下がった

日本経済新聞の試算では、規模の小さい会社について新ルールによる評価額が下がる例が示されています。

従業員7人、売上高1億円の塗装業では、評価額が現行方式より約1割低下しました。

相続税額も460万円から330万円へ減少しています。

さらに、売上高4000万円、従業員1人の事務代行業では、評価額が1800万円から780万円まで下がりました。

相続税額はもともと0円で、新ルールでも0円でした。

もちろん、これらは一定の前提を置いた仮想事例です。

それでも、小規模で収益力がそれほど高くない会社では、評価額が下がる方向に働く可能性を示しています。

赤字会社では収益力がマイナスになる可能性がある

新ルール案では、収益力を計算する際にマイナスの利益も含める方向が示されています。

これは零細企業にとって重要です。

小規模企業では、経営者の高齢化や人手不足、取引先の減少などによって、数年間赤字が続いている会社もあります。

たとえば過去5年間の利益が、

300万円

100万円

マイナス100万円

マイナス300万円

マイナス500万円

だったとします。

5年間を合計するとマイナス500万円です。

平均すると年間マイナス100万円になります。

このように赤字を含めて収益力を評価すれば、会社の事業価値は低く算定される方向に働きます。

資産はあるが稼げない会社を適切に評価しやすくなる

地方の中小・零細企業では、

土地や建物は持っている

しかし利益はほとんど出ていない

という会社も少なくありません。

たとえば、昔から所有している工場や店舗があるものの、売上高が減少し、利益がほとんど残らない会社です。

現在の純資産価額方式では、こうした土地や建物の価値が株価に反映されます。

その結果、実際には事業を継続するだけで精いっぱいなのに、自社株評価額だけが高いということが起こります。

新ルールで収益力を組み合わせれば、

財産は持っているが稼ぐ力が弱い

という会社の実態を株価に反映しやすくなる可能性があります。

零細企業では後継者不足も深刻

零細企業の事業承継では、相続税だけが問題ではありません。

後継者そのものがいない会社も多くあります。

経営者の子どもが会社を継がない。

従業員にも後継者候補がいない。

第三者への売却も難しい。

こうした会社では、株式に高い相続税評価額がついても、その株式を実際に買ってくれる人がいるとは限りません。

市場性が極めて低いにもかかわらず高い税負担が生じれば、事業承継をさらに難しくする可能性があります。

このため、新しい評価制度では零細企業に過大な税負担を生じさせないことが重要になります。

事業承継を妨げないことが制度設計の重要な課題

非上場株評価制度を厳格化すれば、過度な節税を防ぎやすくなります。

しかし、厳格化しすぎれば正常な事業承継まで妨げる可能性があります。

特に地域の雇用や取引を支える中小・零細企業に多額の相続税がかかれば、後継者が株式を引き継げなくなることもあります。

会社を継続したくても納税資金がない。

そのために会社資産を売却する。

経営基盤が弱くなる。

最悪の場合には廃業する。

こうした結果になれば、相続税制度として望ましいとはいえません。

そのため、新ルールでは過度な節税を抑えながら、実際に収益力の低い小規模企業には過大な評価をしないことが求められます。

高収益会社と零細企業で結果が分かれる理由

新ルールの特徴は、会社規模だけでなく会社の経済実態を見る点にあります。

高収益会社では、

利益が大きい

内部留保が厚い

純資産も大きい

という状態になりやすいため、評価額が上がる方向に働きます。

一方、零細企業では、

純資産が小さい

利益も小さい

赤字年度がある

というケースが多くなります。

そのため、同じ計算式を使っても評価額が下がる可能性があります。

つまり、新制度は大企業には厳しく、零細企業には優しいという単純な制度ではありません。

会社自身の資産と収益力によって結果が分かれる仕組みです。

赤字なら必ず評価額が下がるわけではない

もっとも、赤字会社であれば必ず株価が大幅に下がるとは限りません。

会社に多額の純資産があれば、その資産価値が評価に影響するからです。

たとえば毎年赤字でも、会社が10億円の現預金や不動産を持っていれば、株式価値がゼロになるわけではありません。

反対に、利益は出ていても純資産がほとんどない会社もあります。

新ルールでは、

純資産

収益力

係数

などを組み合わせて評価する方向が示されています。

したがって、一つの数字だけで増税か減税かを判断することはできません。

簿価純資産が大きい零細企業には注意が必要

零細企業だからといって、必ず評価額が下がるとも限りません。

たとえば従業員数は2人しかいなくても、長年保有してきた不動産や多額の現預金があり、簿価純資産が数億円ある会社もあります。

こうした会社では、新ルールで純資産が評価の基礎になることで、むしろ評価額が高くなる可能性があります。

特に、

資産管理会社

不動産賃貸会社

長年利益を蓄積してきた家族会社

などは、従業員数や売上高だけを見て零細企業と判断することはできません。

重要なのは、会社規模より貸借対照表と利益の中身です。

会社規模ではなく経済実態を見る制度へ変わる

現行制度では、大会社、中会社、小会社という会社規模区分が評価方式を大きく左右します。

新ルール案では、会社規模に応じて全く違う方式を使うのではなく、幅広い会社について純資産と収益力を基礎に評価する方向です。

この変更が実現すれば、

小会社だからこの方式

大会社だからこの方式

という考え方は弱まります。

代わりに、

会社にどれだけ財産があるのか

どれだけ利益を生み出しているのか

が直接重要になります。

零細企業の評価額が下がりやすいのも、単に会社が小さいからではなく、資産や収益力が相対的に小さいケースが多いからです。

相続税がゼロになる会社もある

新ルールによって自社株評価額が下がったとしても、必ず相続税が減るとは限りません。

もともと相続税が発生していない場合があるからです。

相続税には基礎控除があります。

また、自社株以外の財産額や法定相続人の人数によっても税額は変わります。

日本経済新聞の試算でも、従業員1人の事務代行業では株価が大幅に下がったものの、相続税額はもともと0円で、新制度でも0円でした。

つまり、

株価が下がること

実際の相続税が減ること

は区別して考える必要があります。

結論

新しい非上場株評価で零細企業が減税になりやすいのは、会社の純資産だけでなく収益力も株価に反映される方向だからです。

現在の制度では、小規模会社は純資産価額方式を中心に評価されるため、利益が少なくても会社に一定の資産が残っていれば、自社株評価額が高くなる場合があります。

新ルール案では、過去5年間の平均利益などから将来の収益力を評価し、赤字年度も含める方向が示されています。

そのため、

純資産が小さい

利益も少ない

赤字年度がある

という零細企業では、評価額が下がる可能性があります。

日本経済新聞の試算でも、従業員7人の会社や従業員1人の会社で評価額が低下する結果が示されています。

一方で、零細企業なら必ず減税になるわけではありません。

従業員数が少なくても、多額の現預金や不動産、利益剰余金を持つ会社では評価額が高くなる可能性があります。

新しい評価制度で重要になるのは、会社の大きさではなく、会社が実際にどれだけの純資産を持ち、どれだけの利益を生み出しているかです。

今回の制度改革は、零細企業を一律に優遇する制度ではありません。

収益力の低い会社に過大な株価をつけて事業承継を妨げることを避けながら、高い経済価値を持つ会社にはその価値を適切に反映する仕組みを目指していると考えることができます。

参考

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の評価、新ルール案 中小・零細で相続税減

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の相続税、大規模・高収益なら負担増 国税庁案

日本経済新聞 2026年8月20日 朝刊 非上場株の算定方法 企業規模に応じ3方式

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