会社の短期的な支払能力を見る代表的な経営指標に、流動比率があります。
一般的には流動比率が高いほど、短期的な支払能力には余裕があると考えられます。
しかし、流動比率は数字だけを見ればよいわけではありません。
流動資産の中に長期間返済されない貸付金が含まれていると、表面上の流動比率と会社の実際の支払能力に大きな差が生じることがあります。
参考記事では、まさにその違いを具体的な数字で示しています。
流動比率とは何か
流動比率は、企業の短期的な支払能力を見るための経営指標です。
流動資産を流動負債で割り、百分率で表します。
流動資産とは、現預金など1年以内に現金化される資産です。
一方、流動負債とは、1年以内に支払期限が到来する負債です。
短期間で現金化できる資産が、短期間で支払わなければならない負債に対してどの程度あるのかを見るわけです。
参考記事では、流動比率について最低でも100%を超え、余裕を持って150%程度は必要だと説明しています。
100%を超えることにはどんな意味があるのか
たとえば、流動資産が1,500万円、流動負債が1,000万円だったとします。
流動比率は150%です。
1年以内に支払う必要のある負債1,000万円に対して、短期間で現金化される資産が1,500万円あることになります。
反対に流動資産が900万円、流動負債が1,000万円なら、流動比率は90%です。
短期間で現金化できる資産よりも、1年以内に支払わなければならない負債のほうが多い状態です。
このため、流動比率が100%を割っている場合には、短期的な支払能力について注意が必要になります。
貸付金が流動資産に入っているとどうなるのか
ここで問題になるのが貸付金です。
貸付金も決算書では資産として計上されます。
しかし、貸付金が長期間返済されないのであれば、現預金と同じように支払いへ使うことはできません。
参考記事でも、返済が進まない貸付金が流動資産に計上されている場合、表面上は支払能力があるように見えても、実態の流動比率は低く、短期の支払能力が低いと判断されると説明しています。
つまり、流動比率を見るときには流動資産の金額だけではなく、その中身を確認する必要があります。
表面上の流動比率は176%
参考記事の2ページ目には、具体的な会社の例が掲載されています。
この会社の流動資産合計は6,350万円です。
流動負債合計は3,600万円です。
この数字を使って流動比率を計算すると、約176%になります。
176%であれば、100%を大きく上回っています。
数字だけを見ると、短期的な支払能力にはかなり余裕があるように見えます。
銀行や経営者が流動比率だけを見れば、資金繰りについて大きな問題はないように感じるかもしれません。
ところが、この会社には重要な問題があります。
3,000万円の貸付金が含まれている
6,350万円の流動資産の中には、3,000万円の貸付金が含まれています。
しかも参考記事では、この3,000万円について1年以内に返済される見込みがないため、資産価値を0として評価しています。
3,000万円という金額は、流動資産6,350万円のかなり大きな部分を占めています。
帳簿上は資産です。
しかし、1年以内に返済されないのであれば、買掛金や短期借入金などの支払いに使える資金とは考えにくくなります。
そこで、この貸付金を除いて実態の流動比率を考えます。
実態の流動比率は93%になる
流動資産6,350万円から、返済見込みのない貸付金3,000万円を差し引きます。
実態として評価する流動資産は3,350万円になります。
流動負債は3,600万円です。
この数字で計算すると、実態の流動比率は約93%になります。
表面上は176%。
実態では93%です。
176%だけを見れば短期的な支払能力はあるように見えます。
ところが、実態では100%を下回っています。
参考記事の図表でも、この会社について、実際には100%を割り、短期の支払能力は低いと示しています。
同じ決算書でも、資産の中身を確認するかどうかで評価が大きく変わるわけです。
貸付金以外の資産にも注意する
この考え方は貸付金だけに当てはまるものではありません。
参考記事では、ほかにも資産価値のないものがあれば控除して計算すると説明しています。
その例として挙げられているのが、回収不能の売掛金や適正価格で販売できない商品などです。
売掛金が1,000万円計上されていても、その取引先が経営破綻して回収できないのであれば、1,000万円の現金が入ってくるとは考えられません。
商品についても同じです。
帳簿上は1,000万円の商品でも、古くなって売れず、適正価格で販売できないのであれば、帳簿上の金額をそのまま支払能力として評価することには注意が必要です。
決算書には数字が並んでいますが、その数字がそのまま実際の価値を示しているとは限らないのです。
実態を見る経営分析が重要になる
流動比率は計算自体は難しい指標ではありません。
流動資産と流動負債が分かれば計算できます。
しかし、本当に難しいのは計算した後です。
流動資産の中身を確認し、本当に短期間で現金化できるのかを考える必要があります。
特に貸付金については、誰に貸しているのか、返済期限はいつなのか、実際に返済されているのかを確認することが重要です。
何年間も残高が変わらない貸付金であれば、短期的な支払能力を見るときには慎重に考える必要があります。
単に流動比率を計算するだけではなく、資産の実態まで確認して初めて経営分析になるのです。
経営者は表面上の数字だけで安心しない
決算書を経営に活用する場合、経営者自身も表面上の数字だけで安心しないことが重要です。
流動比率が150%を超えているから大丈夫だと考えていても、その流動資産の多くが回収困難な貸付金や売掛金であれば、実際の資金繰りは厳しい可能性があります。
支払いに必要なのは帳簿上の資産ではなく、最終的には現金です。
だからこそ、貸借対照表を見るときには資産の金額と同時に、その資産がいつ現金になるのかを見る必要があります。
流動比率は、その入り口となる指標なのです。
結論
流動比率は企業の短期的な支払能力を見る代表的な経営指標です。
しかし、計算された数字だけで会社の安全性を判断することはできません。
参考記事の事例では、流動資産6,350万円、流動負債3,600万円から計算した表面上の流動比率は176%でした。
ところが、流動資産には1年以内に返済される見込みのない貸付金3,000万円が含まれていました。
これを除いて計算すると、実態の流動比率は93%まで低下します。
176%と93%では、会社に対する印象はまったく違います。
決算書を読むときに重要なのは、数字を計算することだけではありません。
その数字を構成している資産に、本当にその金額だけの価値があるのかを見ることです。
貸付金を含めて資産の中身を確認することで、初めて会社の本当の短期支払能力が見えてきます。
参考
企業実務 2026年9月号 貸付金の発生に注意を