東京都の2026年度の財政力指数は1.525となりました。
一方、東京を除く46道府県全体では0.588、最も低い高知県は0.278です。
1.525と0.278では5倍を超える開きがあります。
数字だけを見ると、東京都は非常に豊かで、高知県は非常に厳しい財政状況にあるように感じます。
しかし、財政力指数は自治体の預金残高や財政の健全性を直接示す数字ではありません。
何を表す指標なのかを理解しておくことが重要です。
財政力指数は自治体の自前の財源力を見る
財政力指数は、自治体が標準的な行政サービスに必要な財源を、自らの税収などでどの程度確保できるかを見るための代表的な指標です。
基本になるのが基準財政収入額と基準財政需要額です。
基準財政収入額は、その自治体が標準的に得られると見込まれる地方税などの収入を基礎に算定します。
基準財政需要額は、その自治体が標準的な行政サービスを行うために必要と国が算定する経費です。
基本的には、基準財政収入額を基準財政需要額で割ることで財政力を判断します。
数値が高いほど、自主的な税収によって行政サービスを賄える力が強いことになります。
1を超えるかどうかが大きな分岐点
財政力を見るうえで分かりやすい目安が1です。
仮に基準財政需要額が1,000億円で、基準財政収入額も1,000億円なら比率は1になります。
標準的な行政サービスに必要とされる財源を、自らの収入でおおむね賄える計算です。
基準財政収入額が500億円なら0.5です。
標準的な財政需要に対して、自前で確保できる財源が相対的に少ないことを示します。
反対に収入額が1,500億円なら1.5です。
標準的な財政需要を上回る収入を持っている計算になります。
東京都の1.525という数字が注目される理由はここにあります。
東京都の1.525は何を意味するのか
東京都の2026年度の数値は1.525です。
単純化すれば、国が標準的に必要と判断する行政経費を1とした場合、それに対して1.525に相当する収入があることを示しています。
つまり、基準上は必要な財政需要を52.5%上回る収入があることになります。
これが国側から見た東京都の大幅な財源超過という考え方につながっています。
東京都が普通交付税を受け取らない不交付団体であることとも深く関係します。
地方税収が少ない自治体に財源を補う地方交付税を、東京都については基本的に必要としないと判断できるからです。
高知県の0.278は何を意味するのか
対照的なのが高知県です。
2026年度の数値は0.278です。
単純化すれば、国が標準的に必要と判断する行政経費を1とした場合、自ら確保できる収入は0.278程度ということになります。
残りの部分については地方交付税などによる財政調整が重要になります。
だからといって、高知県が必要な行政サービスの27.8%しか提供できないという意味ではありません。
ここは非常に重要です。
地方交付税によって財源を補うことで、財政力の弱い自治体でも標準的な行政サービスを提供できるようにするのが日本の地方財政制度だからです。
0.278だから財政破綻寸前という意味ではない
財政力指数が低いと聞くと、自治体の財政状態が危険なのではないかと思うかもしれません。
しかし、それは必ずしも正しくありません。
財政力指数は自主財源を確保する力を見る指標であり、自治体の財政健全性そのものを示す数字ではないからです。
借金がどの程度あるのか。
毎年度の収支はどうなっているのか。
将来負担はどの程度あるのか。
基金をどの程度保有しているのか。
こうした問題は別の財政指標も組み合わせて判断する必要があります。
財政力指数が低いことと、自治体の財政が直ちに危険であることは同じではありません。
東京との差0.937が意味すること
今回注目されているもう1つの数字が0.937です。
東京都の1.525に対して、東京以外の46道府県全体は0.588です。
その差が0.937となりました。
これは2008年度の0.939以来の大きな格差です。
2008年度は地方税収の偏在是正が本格化した重要な年でした。
その後、法人事業税や法人住民税を利用して東京などに集中する税収の一部を地方へ再配分してきました。
一時は格差が縮小しましたが、再び2008年度当時に近い水準まで広がってきたことになります。
再配分制度が存在していても、東京への税源集中がそれ以上の勢いで進んでいることを示す数字として注目できます。
財政力指数が高い自治体ほど自由度も高くなる
財政力指数が高い自治体には大きな強みがあります。
自主財源を多く確保できるため、国から配られる財源への依存度が低くなります。
その結果、自治体独自の政策を実施する余地も大きくなります。
東京都が第1子の保育料無償化や夏場の水道基本料金の無償化など独自施策を打ち出せる背景には、強い財政力があります。
標準的な行政サービスを維持するだけで精いっぱいの自治体と、自主財源を使って追加の行政サービスを提供できる自治体では、住民が受けられる支援にも違いが生まれます。
財政力指数の格差が問題になる理由は、最終的には住民サービスにも影響する可能性があるからです。
財政力指数にも限界がある
ただし、財政力指数だけで自治体の豊かさを判断することにも注意が必要です。
基準財政需要額は自治体が実際に支出している金額そのものではありません。
国が一定の基準によって標準的な行政需要を計算した数字です。
そのため、地域特有の事情がすべて反映されるとは限りません。
東京都は特にこの点を問題視しています。
人口や企業が集中する東京には、大都市特有のインフラ、防災、消防、交通などの行政需要があります。
国が算定する基準財政需要額では、こうした東京特有のコストを十分に反映できていないというのが東京都側の主張です。
数字が高ければ無条件に余裕があるわけではない
東京都の1.525という数字だけを見れば、かなりの財政余力があるように見えます。
しかし実際の財政を判断する場合には、歳入だけでなく歳出も見る必要があります。
人口が多ければ学校や福祉施設も必要です。
企業が集中すれば道路や交通網、防災対策などの負担も大きくなります。
物価や人件費、土地価格なども地域によって異なります。
財政力指数は重要な指標ですが、それだけで東京都にはお金が余っていると判断することはできません。
指標を見るときは何を測っているかを考える
地方財政にはさまざまな数字が登場します。
財政力指数だけではありません。
実質収支、経常収支比率、実質公債費比率、将来負担比率など、それぞれ違う側面から自治体財政を測っています。
企業分析で売上高だけを見ても企業の健全性を判断できないのと同じです。
自治体財政でも1つの指標だけで結論を出すことはできません。
財政力指数を見るときには、自治体が標準的な行政需要を自らの税収などでどの程度賄えるのかを見る指標だと理解しておくことが大切です。
結論
東京都の2026年度の財政力を示す数値は1.525、高知県は0.278です。
この大きな差は、自治体が自ら税収などを確保する力に大きな地域差があることを示しています。
ただし、0.278だから必要な行政サービスの27.8%しか提供できないわけではありません。
地方交付税によって財源が調整されるからです。
反対に1.525だから東京都には無条件に52.5%の余剰資金があるという意味でもありません。
国が算定する標準的な行政需要と、自治体が現実に必要とする行政経費には違いがあるからです。
財政力指数は自治体財政を理解する重要な入口ですが、それだけで自治体の豊かさや財政健全性を判断することはできません。
数字そのものを見るだけではなく、その数字が何を測り、何を測っていないのかを理解する。
東京と地方の財政格差を考える際にも、この視点が重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 東京と地方の財政格差、08年度以来の大きさ 総務省が再配分拡大検討