ふるさと納税というと、寄付を受けた自治体にその金額がそのまま残り、地域の行政サービスなどに使われるイメージを持つかもしれません。
しかし、実際にはそうではありません。
自治体がふるさと納税を集めるためには、返礼品の調達費、送料、仲介サイトへの手数料、寄付金受領証明書の発行費用など、さまざまな経費が発生します。
そのため、1万円の寄付があったとしても、1万円すべてを自治体が自由に使えるわけではありません。
この仕組みを理解するうえで重要なのが「経費率」です。
ふるさと納税では、募集に要する費用を寄付額の一定割合以下に抑えるルールが設けられています。
そして、この経費規制が2026年10月から段階的に強化されることになっています。
経費率とは何か
ふるさと納税の経費率とは、自治体が受け取った寄付額に対して、寄付を集めるためにどれだけの費用を使ったかを示す割合です。
例えば、ある自治体が1年間に10億円の寄付を集め、そのために5億円の費用を使ったとします。
この場合の経費率は50%です。
つまり、寄付された10億円のうち、半分が返礼品や送料、仲介サイトなどの費用として使われ、残りの半分が自治体に残るというイメージです。
ふるさと納税では、これまで募集に要する費用を寄付額の50%以下とする、いわゆる「5割ルール」が重要な基準となってきました。
返礼品は3割でも経費全体では5割になる
ここで混同しやすいのが「3割ルール」と「5割ルール」です。
ふるさと納税では、返礼品の調達費を寄付額の30%以下とするルールがあります。
例えば1万円の寄付なら、自治体が返礼品事業者から調達する返礼品の価格は原則として3000円以下という考え方です。
しかし、自治体が負担する費用は返礼品だけではありません。
返礼品を寄付者の自宅まで届ける送料も必要です。
さらに仲介サイトを利用すれば、サイト運営事業者への手数料も発生します。
そのほか、決済手数料や寄付金受領証明書の発行、ワンストップ特例に関する事務などにも費用がかかります。
したがって、
返礼品調達費が30%
だから、
自治体に70%残る
という単純な仕組みではありません。
返礼品以外にもさまざまな経費が発生するためです。
送料も大きな負担になる
返礼品の種類によっては、送料がかなり大きな負担になります。
例えば米や飲料などは重量があります。
肉や魚介類などでは、冷蔵便や冷凍便を利用するケースも少なくありません。
北海道や九州などから全国へ発送すれば、配送距離によって送料が高くなる場合もあります。
仮に1万円の寄付に対して3000円の返礼品を用意し、送料が1000円かかれば、それだけですでに4000円です。
寄付額の40%に相当します。
そこへ仲介サイトへの手数料などが加わります。
ふるさと納税の経費問題を考えるときには、返礼品の価格だけではなく「寄付者の手元に届けるまでにいくらかかるのか」を見る必要があります。
仲介サイト手数料も経費に含まれる
多くの寄付者は、ふるさと納税の仲介サイトを利用して寄付先を探します。
自治体にとって仲介サイトは非常に便利です。
全国の寄付者に返礼品を紹介でき、寄付の受付や決済などの機能も利用できます。
一方で、当然ながら無料ではありません。
自治体は仲介サイト事業者などに一定の手数料を支払います。
今回の記事では、総務省が仲介サイト事業者に対し、現在11.5%とされる手数料率の引き下げを要請したことが紹介されています。
仮に寄付額の約1割が仲介サイト関連の費用となれば、自治体にとってかなり大きな負担です。
返礼品が約3割、さらに送料やサイト手数料などが加われば、経費率が5割近くになることも理解できます。
なぜ5割基準が設けられたのか
そもそも、なぜ国は経費率を規制しているのでしょうか。
最大の理由は、ふるさと納税が税金に関係する制度だからです。
ふるさと納税では、一定の限度内で寄付額から2000円を除いた金額について所得税や住民税の控除を受けることができます。
つまり、通常なら居住する自治体などへ納められる税金の一部が、寄付先の自治体へ移転する仕組みになっています。
ところが、移転したお金の大部分が返礼品や広告、仲介サイトなどに使われてしまえば、地域のために使える財源は少なくなります。
自治体同士が寄付を集めるために多額の経費を投入する「経費競争」になる可能性もあります。
そこで、寄付額に対する募集経費に上限を設け、一定額以上を地域に残すことが求められてきました。
1万円寄付して自治体にはいくら残るのか
具体的に考えてみましょう。
1万円の寄付について、
返礼品調達費3000円
送料800円
仲介サイトなどへの手数料1100円
その他の事務費100円
が発生したとします。
合計経費は5000円です。
自治体に残るのは5000円となります。
もちろん実際の費用構造は自治体や返礼品によって異なりますが、ここで重要なのは「寄付額」と「自治体が政策に使える金額」は同じではないということです。
ふるさと納税が1兆円を超える巨大な制度になったからこそ、この差も無視できない規模になっています。
2026年10月から経費規制がさらに厳しくなる
ふるさと納税の経費規制は、さらに強化されます。
現在は寄付額の5割までとされている経費について、2026年10月から上限を段階的に引き下げていく方向です。
今回の記事によると、上限は2.5%ずつ引き下げられ、2029年10月には4割となります。
つまり、これまで最大50%程度まで認められていた経費を、最終的には40%程度まで抑える方向になります。
裏返せば、寄付額の少なくとも6割程度を自治体に残し、地域のために使えるようにする考え方です。
制度としては大きな転換になります。
経費率を下げる方法は限られている
問題は、自治体がどの費用を削減するのかです。
返礼品調達費を下げれば、返礼品事業者の収入が減る可能性があります。
返礼品そのものを小さくすれば、寄付者にとっての魅力が低下します。
送料を大幅に下げることにも限界があります。
自治体職員の事務負担を無制限に増やすこともできません。
そこで重要になるのが仲介サイトへの手数料です。
総務省がサイト事業者に手数料の引き下げを求めているのも、自治体だけに経費削減を求めても限界があるためです。
経費率規制は、自治体だけではなく、ふるさと納税を取り巻くビジネス全体の収益構造に影響する可能性があります。
経費を減らせば本当に制度は良くなるのか
経費率を下げれば、計算上は自治体に残るお金が増えます。
例えば100億円の寄付について経費率が50%なら、単純化すれば50億円が残ります。
経費率が40%になれば60億円が残ります。
同じ寄付額なら、自治体が地域のために使える財源は10億円増えることになります。
ただし、ここには重要な前提があります。
寄付額そのものが減らないことです。
返礼品の魅力低下などによって100億円だった寄付が80億円まで減り、経費率が40%になったとすれば、残る金額は48億円です。
経費率は改善しても、自治体に残る金額は以前の50億円より減ってしまいます。
したがって、経費率だけを見て制度の良し悪しを判断することはできません。
寄付総額と経費額、そして最終的に地域に残る金額を一体として見る必要があります。
結論
ふるさと納税の経費率とは、自治体が受け取った寄付額のうち、返礼品の調達や配送、仲介サイト、事務などにどれだけのお金を使っているかを示すものです。
返礼品には3割以下という基準がありますが、それ以外にも送料や仲介サイト手数料などが発生するため、募集経費全体ではこれまで5割以下という基準が設けられてきました。
そして2026年10月以降、この経費規制は段階的に強化され、2029年10月には4割まで引き下げられる方向です。
狙いは、寄付されたお金をできるだけ地域に残すことです。
一方、経費削減によって返礼品の魅力が低下し、寄付額そのものが減れば、自治体に残る金額まで減る可能性があります。
これからのふるさと納税を見るうえでは「いくら寄付を集めたか」だけでは十分ではありません。
そのうちいくらが経費として使われ、最終的にいくらが地域のために残ったのか。
ふるさと納税の本当の効率性を考えるには、この視点がますます重要になっていくでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月14日 朝刊 ふるさと納税26年度 市区7割が「減少」の見方