株式や投資信託などを大量に保有する富裕層でも、まとまった現金が必要になることがあります。
最も単純な方法は、保有している有価証券を売却することです。
しかし、今後も値上がりが期待できると考えている株式を売りたくない場合があります。長期運用を続けたい投資信託を取り崩したくない場合もあります。
そこで利用される資金調達方法の一つが証券担保ローンです。
株式や投資信託などを売却するのではなく、保有したまま担保として差し入れ、金融機関から現金を借ります。
資産運用と借入れを組み合わせる仕組みです。
証券担保ローンとは何か
証券担保ローンとは、株式や投資信託などの有価証券を担保として金融機関から資金を借りる仕組みです。
例えば1億円の上場株式を保有している人が、3000万円の現金を必要としているとします。
株式の一部を売却すれば現金を確保できます。
しかし証券担保ローンを利用すれば、一定の条件のもとで株式を担保にして資金を借りることができます。
株式を現金へ交換するのではなく、株式の資産価値を利用して現金を調達するわけです。
不動産を担保にしてお金を借りる不動産担保ローンの有価証券版と考えると分かりやすくなります。
どのような証券を担保にできるのか
代表的なのが上場株式です。
市場で価格が付いているため、金融機関が担保価値を把握しやすいからです。
そのほか、金融機関によっては投資信託や債券などが対象になることもあります。
ただし、保有している有価証券なら何でも担保にできるわけではありません。
価格変動が非常に大きい株式や売買が少ない株式などは、担保として利用できなかったり、評価が低くなったりすることがあります。
金融機関ごとに対象となる証券や条件が異なります。
時価と同じ金額を借りられるわけではない
1億円の株式を持っているからといって、1億円をそのまま借りられるわけではありません。
株式などの価格は変動するからです。
今日1億円だった株式が、将来8000万円になる可能性があります。
金融機関はこうした価格下落に備える必要があります。
そのため有価証券の時価に一定の評価率を掛けて担保価値を算定し、その範囲内で融資額を決めるのが基本的な考え方になります。
担保となる有価証券の価格変動が大きいほど、金融機関側は慎重に評価する必要があります。
住宅ローンとは何が違うのか
住宅ローンは住宅を購入するための資金を借りる仕組みです。
購入する住宅などを担保とし、通常は長期間にわたって返済します。
証券担保ローンでは、すでに保有している金融資産の価値を利用して資金を調達します。
また資金使途についても、住宅ローンとは考え方が異なります。
商品によって資金使途が定められている場合もあるため、実際に利用するときには条件を確認する必要があります。
大きな違いは担保価格の動きです。
住宅価格も変動しますが、上場株式は市場で日々価格が変化します。
そのため証券担保ローンでは、担保となる株式などの価格を継続的に管理する必要があります。
なぜ資産を売らずに借りるのか
最大の理由は、資産運用を続けられることです。
例えば長期的な成長を期待して保有している株式があるとします。
一時的に現金が必要だからといって売却すると、その後株価が上昇しても値上がりの恩恵を受けることができません。
証券担保ローンで資金を調達すれば、株式を保有したまま必要な現金を確保できます。
株式などから配当や分配金を受け取れる場合には、保有を継続することでそうした収益を得られる可能性もあります。
資産を取り崩すことと資金を調達することを分離できるのが特徴です。
売却に伴う課税を先送りできる場合もある
株式などに大きな含み益がある場合、売却すると譲渡益が実現し、課税関係が生じることがあります。
例えば5000万円で取得した株式が1億円になっていれば、売却によって利益が実現します。
一方、株式を売却せず担保として利用するだけなら、そのこと自体で株式の譲渡益が実現するわけではありません。
そのため、すぐに資産を売却する場合とは税金が発生するタイミングが異なる可能性があります。
ただし借入金には利息が発生します。
税金だけで有利不利を判断するのではなく、借入金利や将来の資産価格なども含めて考える必要があります。
富裕層ほど利用しやすい理由
証券担保ローンは、一定規模の金融資産を保有する人ほど活用の余地が大きくなります。
例えば数億円の金融資産を持っている人が、生活費やまとまった支出のために数千万円必要になったとします。
そのたびに長期保有している株式や投資信託を売却すると、資産運用の方針そのものが崩れてしまうことがあります。
そこで金融資産を保有したまま必要な流動性だけを確保します。
超富裕層向け金融では、資産運用と融資が同時に提案される理由の一つです。
担保価格が下落するとどうなるのか
証券担保ローンで最も注意すべきなのが、担保となる有価証券の価格下落です。
例えば1億円だった株式が急落して6000万円になったとします。
金融機関から見ると担保価値が大きく減少しています。
借入残高との関係で担保が不足すれば、契約内容に応じて追加の担保を求められたり、借入金の一部返済を求められたりする可能性があります。
追加の資金や担保を準備できなければ、担保となっている証券が処分される可能性もあります。
資産価格が下落しているときに売却を迫られることになれば、大きな損失が確定することも考えられます。
借り過ぎると資産価格下落に弱くなる
証券担保ローンを利用すると、保有資産を売却せずに資金を使えるため、資産規模が大きくなったように感じることがあります。
しかし実際には借入金という負債が増えています。
例えば1億円の株式を持つ人が5000万円を借りた場合、株式1億円と現金5000万円を持つことになりますが、同時に5000万円の借入金もあります。
株価が半分になれば株式は5000万円になります。
それでも借入金5000万円はそのまま残ります。
資産価格の下落によって純資産が急速に減少する可能性があります。
資産を担保に借りることは、実質的に資産価格の変動リスクを高める面があることを理解しておく必要があります。
自社株担保融資とは何が違うのか
前回取り上げた自社株担保融資も、広い意味では株式を担保として資金を調達する仕組みです。
ただし自社株には特殊な性質があります。
企業オーナーにとって自社株は財産であると同時に、会社の経営権にも関係します。
担保権の実行によって自社株を失えば、会社の支配権に影響する可能性があります。
一方、一般的な証券担保ローンでは上場株式や投資信託など幅広い運用資産を担保として利用します。
基本的には資産運用と資金調達を組み合わせることが中心になります。
銀行にとっても重要な富裕層向けサービスになる
金融機関にとって、証券担保ローンは単なる融資商品ではありません。
富裕層との取引を広げる入り口にもなります。
顧客の金融資産を把握し、資産運用を支援しながら、必要なときには融資も提供できます。
さらに相続、事業承継、不動産などの相談へ取引が広がる可能性があります。
超富裕層向けのウェルスマネジメントでは、資産をどう運用するかだけではなく、その資産を使ってどのように資金を調達するかまで含めて考えます。
資産運用と融資が一体化していくわけです。
結論
証券担保ローンとは、株式や投資信託などの有価証券を売却せず、担保として利用することで現金を調達する仕組みです。
資産を保有したまま必要な流動性を確保できるため、長期的な資産運用を続けたい富裕層にとって選択肢の一つになります。
一方、借入金である以上、利息と返済義務があります。
さらに担保となる株式などの価格が下落すれば、追加担保や返済を求められる可能性があります。
資産価格が下落しているときに担保証券を処分されれば、損失が確定することもあります。
資産を持っているなら、必要なときに売ればよいという考え方だけが資産管理ではありません。
資産を売るのか、持ち続けながら借りるのかという選択があります。
超富裕層向け金融で融資が重要になるのは、巨額の資産を運用することと、その資産を維持しながら必要な現金を確保することが、表裏一体の問題だからだといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 メガ銀、「超富裕層」を争奪 三井住友は営業担当者2倍
日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 超富裕層 金融資産5億円以上の世帯