企業オーナーは、数十億円、数百億円という巨額の資産を持っていても、必ずしも同じだけの現金を持っているわけではありません。
財産の大部分が、自分が経営する会社の株式である自社株になっていることがあるからです。
そこで問題になるのが、まとまった現金が必要になったときです。
自社株を売却すれば現金をつくることはできます。
しかし株式を売却すると、会社に対する持株比率が低下します。上場会社であれば、将来の株価上昇による利益を得られなくなる可能性もあります。
そこで考えられる資金調達方法の一つが、自社株を担保として金融機関から資金を借りる方法です。
自社株担保融資とは何か
自社株担保融資とは、企業オーナーなどが保有する自社の株式を担保として金融機関から資金を借りる仕組みです。
基本的な考え方は不動産担保融資と似ています。
不動産担保融資では土地や建物を担保にします。
自社株担保融資では株式を担保にします。
例えば企業オーナーが10億円相当の自社株を持っているとします。
個人で1億円の資金が必要になった場合、自社株の一部を売却するのではなく、自社株を担保として金融機関から1億円を借りることが考えられます。
株式そのものは保有しながら、必要な現金を調達するわけです。
なぜ株を売らずに借りるのか
最も分かりやすい理由は、株式を持ち続けたいからです。
企業オーナーにとって自社株は単なる金融資産ではありません。
会社に対する経営権や支配力にも関係する財産です。
株式を大量に売却すると持株比率が低下します。
持株比率が低下すれば、株主総会での議決権にも影響する可能性があります。
経営への影響力を維持したいオーナーにとって、自社株を簡単に売却できない場合があります。
そこで株式を保有したまま、その資産価値を利用して資金を調達するという考え方が生まれます。
株式を売却する場合とは何が違うのか
株式を売却すれば、その時点で現金を確保できます。
借金ではありませんから、元本を返済する必要もありません。
一方、一度売却した株式は自分の財産ではなくなります。
その後株価が上昇しても、売却した部分については値上がりの恩恵を受けられません。
自社株担保融資の場合、株式を売却せずに資金を調達できます。
そのため株式を保有し続けることができます。
ただし借入金ですから利息を支払い、最終的には元本を返済する必要があります。
売却と借入れには、それぞれ異なるメリットと負担があります。
株価上昇局面で利用される理由
株価が長期的に上昇すると考えている場合、株式を売却することには機会損失が生じる可能性があります。
例えば1億円相当の株式を売却した後、その株価が2倍になったとします。
売却しなければ2億円になっていた可能性があります。
そこで、株式を持ち続けながら必要な現金だけを借入れによって確保する方法が考えられます。
借入金の利息より株式の値上がりが大きければ、結果として株式を保有し続けた方が有利だったということもあり得ます。
ただし、これは株価が上昇した場合です。
株価が将来上昇する保証はありません。
株価が下落すれば、逆の結果になることもあります。
上場株式は担保価値を把握しやすい
自社株が上場株式である場合、市場で日々価格が付いています。
そのため金融機関は現在の株価をもとに担保価値を把握しやすくなります。
ただし、株式の時価と同額まで借りられるとは限りません。
株価には変動があるからです。
例えば現在10億円の価値がある株式でも、数カ月後に8億円、6億円になる可能性があります。
金融機関はこうした価格変動を考慮して担保価値を評価します。
株式の種類や流動性、価格変動の大きさ、持株比率などによって融資条件も変わります。
非上場株式では事情が異なる
企業オーナーの自社株が非上場株式である場合は、さらに複雑です。
上場株式のように毎日市場価格が付いているわけではありません。
また、金融機関が担保権を実行する必要が生じても、簡単に市場で売却できるとは限りません。
株式の譲渡に会社の承認が必要となる場合もあります。
そのため非上場株式を担保とする融資では、会社の業績、財務内容、株式の換金可能性などについて個別に判断する必要があります。
自社株であれば何でも簡単に担保として利用できるというわけではありません。
株価が下落すると何が起こるのか
自社株担保融資の大きなリスクが株価下落です。
例えば10億円の株式を担保として融資を受けた後、株価が大幅に下落し、株式価値が5億円になったとします。
金融機関から見ると担保の余力が大きく減少します。
契約内容によっては追加の担保を求められたり、借入金の一部返済を求められたりする可能性があります。
必要な追加担保を用意できなければ、担保となっている株式の処分につながる可能性もあります。
株価下落局面では、資産価値が減少すると同時に資金調達にも問題が生じる可能性があるわけです。
経営権への影響にも注意が必要になる
一般的な株式担保融資以上に、自社株担保融資で重要になるのが経営権への影響です。
担保となっているのは、自分が経営する会社の株式だからです。
借入金を返済できず、最終的に担保権が実行されれば、自社株を失う可能性があります。
保有株式が減少すれば、会社に対する支配力にも影響します。
企業オーナーにとっては単に金融資産を失う問題ではありません。
会社の経営権にまで影響する可能性があります。
この点が自社株を担保とする場合の重要な特徴です。
なぜ金融機関にとって魅力があるのか
金融機関側にもメリットがあります。
超富裕層は巨額の資産を保有していても、資産を売却せずに現金を必要とする場合があります。
そこに融資需要が生まれます。
さらに融資をきっかけとして顧客との関係を深めることができます。
企業オーナーであれば、その後に資産運用、M&A、事業承継、相続などさまざまな金融サービスが必要になる可能性があります。
つまり融資そのものの利息収入だけが目的ではありません。
融資を入り口として超富裕層との長期的な取引関係を構築できることが重要になります。
富裕層は資産があっても借入れを利用する
資産家がお金を借りることに違和感を持つ人もいるかもしれません。
しかし資産額と現金保有額は同じではありません。
自社株や不動産などに財産が集中していれば、巨額の資産を持っていても手元の現金は限られます。
しかも値上がりが期待される資産を売却して現金化することが、必ずしも最適とは限りません。
そこで資産を保有したまま、必要な資金だけを借りるという選択肢が生まれます。
超富裕層向け金融では、資産運用と融資が別々のサービスではなく、一体として利用される理由がここにあります。
結論
自社株担保融資とは、企業オーナーなどが保有する自社株を担保として、金融機関から資金を借りる仕組みです。
株式を売却せずに現金を調達できるため、持株比率を維持しながら資金を確保できる可能性があります。
特に株価の上昇を期待して株式を持ち続けたい場合には、売却以外の資金調達手段になります。
一方で借入れには利息と返済義務があります。
さらに株価が下落すれば担保価値も低下し、追加担保や返済を求められる可能性があります。
自社株の場合には、最終的な担保処分が会社の経営権にまで影響する可能性がある点にも注意が必要です。
巨額の資産を持つ人がお金を借りるのは、一見すると不思議に見えるかもしれません。
しかし超富裕層にとって重要なのは、単に借金をしないことではなく、保有する資産をどのような形で維持しながら必要な流動性を確保するかです。
自社株担保融資は、資産を売ることと資産を持ちながら借りることを使い分ける、富裕層ならではの資金管理を理解するうえで重要な仕組みだといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 メガ銀、「超富裕層」を争奪 三井住友は営業担当者2倍
日本経済新聞 2026年8月17日 朝刊 超富裕層 金融資産5億円以上の世帯