日本で金鉱山について調べると、必ずといっていいほど登場するのが鹿児島県伊佐市の菱刈鉱山です。
菱刈鉱山は1985年に操業を開始し、現在も金を産出しています。
日本では多くの金鉱山が閉山してきましたが、菱刈鉱山は現在も操業を続ける代表的な金鉱山です。
その理由を理解するうえで重要なのが「金品位」です。
金鉱山の価値は、単純に地下にどれだけ大量の鉱石があるかだけでは決まりません。
その鉱石1トンの中に何グラムの金が含まれているのかが、採算性を大きく左右します。
菱刈鉱山は、この金品位が高いことで知られています。
金品位とは何か
金鉱山の記事では「品位」という言葉がよく使われます。
品位とは、鉱石の中に目的とする金属がどれくらい含まれているかを示すものです。
金の場合には、一般的に鉱石1トン当たり何グラムの金が含まれているかで表します。
例えば、金品位が1トン当たり5グラムなら、1トンの鉱石に平均して5グラムの金が含まれているという意味です。
同じ1トンの鉱石を採掘する場合でも、金が1グラムしか含まれていない鉱石と、20グラム含まれている鉱石では経済的な価値が大きく異なります。
金品位が高いほど、少ない鉱石から多くの金を得られます。
これが金鉱山の採算性を考える基本になります。
菱刈鉱山は金品位の高さで知られる
菱刈鉱山の大きな特徴が、鉱石に含まれる金の濃度です。
世界の金鉱山では、低い品位の鉱石を大量に採掘するタイプの鉱山も珍しくありません。
一方、菱刈鉱山は高品位の金鉱石を採掘できる鉱山として知られています。
これは経営上、大きな意味を持ちます。
同じ量の金を生産するとしても、金品位が高ければ採掘しなければならない鉱石の量を少なくできます。
採掘した鉱石を運搬し、処理する量も抑えられます。
結果として、金1グラムを生産するために必要な作業量を減らせる可能性があります。
金鉱山は大量の岩石を扱う事業
金というと、地下から金色の塊を掘り出す姿を想像するかもしれません。
実際の金鉱山は大きく異なります。
多くの場合、金は鉱石の中にごく少量含まれています。
そのため鉱山では、
鉱石を掘る
地上へ運ぶ
細かく砕く
金を含む部分を処理する
金を回収する
という工程が必要になります。
金そのものの重量と比較すると、扱わなければならない岩石の量は非常に大きくなります。
だからこそ金品位が重要になります。
金品位が高ければ、同じ量の鉱石を処理しても多くの金を得ることができます。
品位が2倍なら利益も2倍とは限らない
ただし、金品位だけで鉱山の価値を判断することはできません。
例えば高品位の鉱脈でも、非常に細く、複雑な形をしていれば採掘が難しくなることがあります。
地下深くにあれば坑道を造る費用も増えます。
地下水への対応や坑内の安全対策も必要です。
さらに鉱石から金を取り出す処理コストもかかります。
金鉱山の採算性は、
金品位
採掘量
鉱脈の形状
鉱山の深さ
採掘コスト
鉱石処理コスト
金価格
といった要素を組み合わせて考える必要があります。
したがって「金品位が2倍だから利益も2倍」と単純に考えることはできません。
それでも金品位が高いことが、鉱山にとって大きな強みであることに変わりはありません。
金価格が上がると低品位鉱石にも価値が出る
ここで前回の記事ともつながります。
採掘するかどうかの判断は、金品位だけでなく金価格にも左右されます。
金価格が低いときには、品位の低い鉱石を採掘しても採算が取れない場合があります。
しかし金価格が上昇すると状況が変わります。
以前なら処理費用の方が高くなっていた鉱石でも、そこから回収できる金の価値が高くなるため、採掘対象になる可能性があります。
つまり「鉱石」と「ただの岩石」の境界は固定されているわけではありません。
金価格や技術によって変わります。
地下にある金の量そのものが変化しなくても、経済的に採掘できる金の量は変化するのです。
高品位でも無駄なく掘ることが重要
高品位の金鉱脈を持っていても、必要のない岩石まで大量に掘ってしまえば効率は低下します。
そこで重要になるのが、鉱脈の位置や方向を正確に把握する技術です。
菱刈鉱山では、運営する住友金属鉱山が坑内のデジタルトランスフォーメーションを進めています。
2025年9月からは坑内でドローンの運用を始めました。
人が目視で鉱脈の方向を確認しにくい場所でも、ドローンに搭載したカメラなどを利用して状況を確認し、発破の方向を決めることに役立てています。
高品位の鉱脈を持っていることに加えて、その鉱脈をできるだけ正確に採掘することが重要なのです。
品位と技術の組み合わせが鉱山の競争力になる
これからの金鉱山では、地下資源の質だけでなく、それを効率的に採掘する技術も重要になります。
ドローンや各種センサー、デジタル技術を利用すれば、鉱脈の位置をより正確に把握できる可能性があります。
遠隔操作や自動化が進めば、安全性の向上や省人化にもつながります。
これは日本国内だけの話ではありません。
住友金属鉱山は菱刈鉱山で蓄積した知見を、海外で出資する鉱山にも提供する考えです。
日本の金鉱山が生み出す価値は、採掘した金そのものだけではありません。
採掘技術や鉱山運営のノウハウも、一つの資産になります。
金1グラムを見る目が変わる
金製品を見るとき、私たちは通常、その金がどれくらいの岩石から取り出されたのかを意識することはありません。
しかし鉱山側から見ると、ここが非常に重要です。
金品位が鉱石1トン当たり5グラムなら、単純計算では金1グラムに対して200キログラムの鉱石が対応します。
1トン当たり20グラムなら、金1グラムに対応する鉱石は50キログラムです。
実際には回収率なども考慮する必要があるため、これほど単純ではありません。
それでも金品位が採掘や処理の規模に大きく影響することは分かります。
金価格だけを見るのではなく、その金を得るためにどれだけの鉱石を動かす必要があるのかを見ると、金鉱山という産業の姿が見えてきます。
結論
菱刈鉱山が注目される大きな理由の一つは、高品位の金鉱石を持つことです。
金鉱山では地下に金が存在するだけでは十分ではありません。
鉱石1トンの中にどれだけの金が含まれているのかによって、採掘や運搬、処理に必要なコストが大きく変わります。
ただし、金品位だけで鉱山の価値が決まるわけでもありません。
鉱脈の形、地下の深さ、採掘技術、処理技術、そして金価格まで含めて採算性が決まります。
菱刈鉱山の強みは、恵まれた鉱床と、それを効率的に利用する採掘技術の組み合わせにあります。
金鉱山を見るときは「どれだけ金が採れるのか」だけでなく、「鉱石1トンから何グラムの金を採れるのか」という視点を持つと、鉱山の本当の価値が理解しやすくなります。
参考
日本経済新聞 2026年9月21日 朝刊 「黄金の国ジパング」再興へ