地下に眠っている金鉱脈は、地上から直接見ることができません。
それでは鉱山会社は、広大な土地の中からどうやって金が存在する場所を見つけるのでしょうか。
金の探鉱というと、山の中を歩いて金色の石を探すようなイメージを持つかもしれません。
実際には、地質調査、岩石や土壌の分析、物理探査、試錐などを段階的に組み合わせて、地下の様子を絞り込んでいきます。
北海道北東部の雄武町では、カナダの鉱物探査会社アービング・リソーシズとJX金属が金鉱脈の調査を続けています。
金鉱山の開発は、まず「地下のどこに金があるのか」を探すことから始まります。
最初に地質を調べる
金探しの第一歩は地質調査です。
金は地下のどこにでも均等に存在しているわけではありません。
過去の火山活動や熱水活動などによって、金が集まりやすい場所があります。
そこで地質図や過去の調査記録などを確認し、どのような岩石が分布しているのか、断層や地層がどのように形成されているのかを調べます。
過去に金や銀が採掘された鉱山の周辺も重要な手掛かりになります。
実際にアービングは、閉山した鹿児島県の山ケ野金山周辺でも探鉱を進めています。
昔の鉱山が存在する地域の地下に、まだ発見されていない別の鉱脈が存在する可能性があるからです。
地表に現れた岩石を調べる
有望な地域が見つかると、実際に現地を調査します。
山や川などに露出している岩石を観察し、鉱化作用の痕跡などを探します。
岩石の一部を採取して分析すれば、そこにどのような元素が含まれているのかを調べることができます。
ただし、地表で金が確認できたからといって、その下に巨大な金鉱床があるとは限りません。
反対に、地表で目立った金が確認できなくても、地下に鉱脈が存在する可能性もあります。
地表調査は答えそのものではなく、次にどこを詳しく調べるべきかを判断するための手掛かりなのです。
土壌や川の堆積物もヒントになる
金鉱床を探すときには岩石だけでなく、土壌なども調査対象になります。
地下の鉱床に含まれる成分が、長い時間をかけて地表付近の土壌などに影響を与えていることがあるからです。
一定の間隔で土壌を採取して成分を分析すると、特定の元素が多く検出される場所が見つかる場合があります。
こうした分析結果を地図上に並べることで、有望な地域を絞り込んでいきます。
金そのものだけを探すとは限りません。
金鉱床と一緒に存在しやすい元素なども手掛かりになります。
地下にある鉱床が残した微かなサインを地表から読み取っていくわけです。
物理探査で地下を推測する
さらに地下の状況を調べるため、物理探査が使われることがあります。
岩石は種類によって電気の流れやすさ、磁気、密度などの性質が異なります。
こうした違いを測定することで、直接地下を掘らなくても地下構造を推測できます。
もちろん、物理探査だけで「ここに何トンの金がある」と分かるわけではありません。
地質調査や岩石の分析結果などと組み合わせて、有望な場所をさらに絞り込みます。
探鉱とは、一つの調査で答えを出す作業ではありません。
複数の手掛かりを重ねながら、地下の姿を少しずつ明らかにしていく作業です。
最後は実際に地下の岩石を取り出す
地表調査などによって有望な場所が絞り込まれると、重要になるのが試錐です。
試錐はボーリングとも呼ばれます。
地表から地下へ細い穴を掘り、円柱状の岩石を取り出します。
これをボーリングコアなどと呼びます。
地下数百メートルなどの岩石を実際に取り出して分析することで、金を含む鉱脈が存在するかを確認できます。
さらに、
どの深さにあるのか
どのくらいの厚さがあるのか
どの方向へ続いているのか
金品位はどれくらいなのか
といった情報を得られます。
金鉱山の事業化を考えるうえで極めて重要な調査です。
1本の試錐だけでは鉱山にならない
ボーリングで高品位の金鉱脈に当たれば、大きな発見に見えます。
しかし、1本の試錐で高い金品位が確認されたからといって、すぐに鉱山を開発できるわけではありません。
その鉱脈が周囲にどこまで広がっているのかを確認する必要があります。
そこで位置や角度を変えながら複数の試錐を行います。
地下に点として存在するボーリングデータを増やし、それらを組み合わせることで鉱床の立体的な姿を推定していきます。
高品位でも鉱脈が非常に小さければ、商業的な鉱山として成立しない可能性があります。
反対に金品位が多少低くても、巨大な鉱床で効率的に採掘できれば事業化できる場合があります。
金の量だけでなく採れるかどうかを調べる
探鉱の目的は「金を発見すること」だけではありません。
事業として採掘できる金鉱床を発見することです。
地下に大量の金が存在していても、極端に深い場所にあれば採掘費用が大きくなる可能性があります。
鉱脈が複雑であれば効率的に掘れない場合もあります。
道路や電力などのインフラも必要です。
さらに環境対策や鉱石処理なども考えなければなりません。
そのため探鉱が進むほど、調査対象は「金があるか」から「経済的に金を採れるか」へ変わっていきます。
金鉱脈の発見はスタート地点
アービングは2026年6月、北海道雄武町の一部で高品位の鉱脈を発見できたと発表しました。
これは重要な成果ですが、鉱山開発という長い工程から見るとスタート地点の一つです。
鉱床の規模を確認し、採掘方法や事業性を検討し、鉱業権や各種許認可を取得して設備を建設する必要があります。
順調に進んでも事業化は2030年代になる可能性があります。
金鉱脈を発見することと、金鉱山を誕生させることの間には大きな距離があるのです。
探鉱は確率を少しずつ高める仕事
金探鉱には不確実性があります。
調査を進めても十分な鉱床が見つからず、開発を断念することもあります。
そのため最初から大規模な設備を建設するのではなく、比較的広い地域から有望な場所を段階的に絞り込んでいきます。
地質調査
地表調査
地球化学的な分析
物理探査
試錐
と進むにつれて、地下について得られる情報が増えていきます。
同時に調査費用も大きくなります。
可能性の低い場所を早い段階で除外し、有望な場所へ資金を集中することが重要になります。
結論
金鉱山は、偶然山を掘ったら見つかるものではありません。
まず地質を調べ、岩石や土壌などを分析し、物理探査などによって地下の構造を推測します。
そして有望な場所を絞り込んだうえで試錐を行い、地下から実際の岩石を取り出します。
さらに複数の試錐を重ね、金品位だけでなく鉱脈の厚さや広がり、深さなどを確認していきます。
つまり金探鉱とは、見えない地下の世界を少しずつ立体的に描き出していく作業です。
金価格の上昇によって日本国内の探鉱に再び注目が集まっていますが、金鉱脈の発見はゴールではありません。
そこから十分な埋蔵量があるのか、採掘コストはいくらなのか、事業として成立するのかを確かめて、初めて金鉱山への道が開けます。
「黄金の国ジパング」の再興には、地下に眠る金だけでなく、それを見つけ出す探鉱技術が欠かせないのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月21日 朝刊 「黄金の国ジパング」再興へ