祖父母や親の世代が持つ資産を若い世代へ早く移して、結婚や子育てに使ってもらう。
そのために設けられている税制の一つが、結婚子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置です。
一定の条件を満たして直系尊属から結婚や子育てのための資金を一括して受け取った場合、一定額まで贈与税を非課税とする仕組みです。
しかし、この制度は令和8年度末までの信託などが可能な期間の終了をもって廃止する方向となっています。
こども家庭庁が、制度の利用が低迷し、今後も大幅な増加を見込みにくいとして廃止を受け入れているためです。
税制は一度つくられれば永久に続くわけではありません。
利用状況や政策効果によっては、役割を終える制度もあります。
結婚子育て資金の一括贈与とは何か
通常、個人から財産の贈与を受ければ贈与税の対象になる場合があります。
一方、若い世代には結婚や出産、子育てなどでまとまった資金が必要になる時期があります。
そこで、祖父母や親などの直系尊属が保有する資産を若い世代へ早期に移転しやすくするため、結婚子育て資金について特別な非課税制度が設けられました。
一定の金融機関との契約などを通じて資金を管理し、制度上認められた結婚や子育てに関する支出に利用する仕組みです。
単に現金を贈与すれば何に使っても非課税になる制度ではありません。
非課税限度額は1000万円
この制度では、一定の要件を満たせば受贈者一人につき1000万円までが非課税の対象となります。
ただし、そのすべてを結婚費用に使えるわけではなく、結婚に関係する費用については300万円という限度があります。
出産や育児などを含めた結婚子育て資金全体について1000万円という枠が設けられています。
まとまった資金を一括して移せる点が制度の特徴です。
通常の贈与とは別に、政策目的に沿った資金移転を税制で後押しする仕組みです。
なぜこの制度が作られたのか
日本の家計金融資産は、高齢世代が多く保有しています。
一方、住宅取得や結婚、出産、子育てなど大きな支出が発生しやすいのは若い世代です。
そこで、高齢世代が保有している資産を若い世代へ早く移転できれば、結婚や子育ての経済的負担を軽減するとともに、消費にもつながる可能性があります。
相続まで待てば、子ども自身もすでに高齢になっている場合があります。
資金を必要とする時期に世代間移転を進めることが、この種の贈与税特例の大きな目的です。
なぜ利用が広がらなかったのか
制度に税制上のメリットがあっても、実際に多くの人が利用するとは限りません。
結婚子育て資金の一括贈与非課税については、利用の低迷が問題になりました。
理由を考えるうえでは、そもそも一度に大きな金額を贈与する必要がある家庭がどの程度あるのかという点が重要です。
さらに制度を利用するには、対象となる費用や金融機関での手続きなどを理解する必要があります。
結婚や子育てに必要なお金を、その都度家族が支援する方法もあります。
税制上の優遇があっても、制度を利用する手間や家族の資金需要に合わなければ利用は広がりません。
必要な都度の支援との違いも重要
贈与税を考えるときには、扶養義務者から生活費や教育費として通常必要と認められるものを、その必要な都度贈与する場合の取り扱いも重要です。
親が子どもの生活費などを負担するたびに、すべて贈与税が課されるわけではありません。
このため、結婚や子育てを支援したい家庭が必ず一括贈与の非課税制度を利用しなければならないわけではありません。
将来必要になる資金をまとめて移転する特例と、実際に必要になった費用をその都度支援することは別の仕組みです。
この違いを理解すると、一括贈与制度がすべての家庭に必要な制度ではないことも分かります。
税制優遇には政策効果が求められる
税制上の特例を設ければ、本来得られるはずだった税収の一部を政策目的のために使うことになります。
そのため、制度を続けるのであれば、それに見合う政策効果があるのかを確認する必要があります。
どの程度利用されているのか。
結婚や子育ての経済的負担軽減につながっているのか。
若い世代への資産移転をどの程度促しているのか。
利用者が限られているのであれば、制度を延長し続ける必要があるのかという議論が出てきます。
税制特例にも費用対効果という視点が必要です。
非課税制度があるから結婚するとは限らない
結婚や出産をめぐる問題は、税制だけで解決できるものではありません。
雇用や所得、住宅費、教育費、保育サービス、働き方など、さまざまな要因が関係します。
親や祖父母からまとまった資金を受け取れる家庭にとっては、一括贈与の非課税制度が役立つ場合があります。
一方、そもそも贈与を受ける資産がない家庭には制度の恩恵が及びません。
若い世代全体を支援する政策として考えた場合、税制による資産移転だけで十分なのかという問題があります。
廃止されても過去の契約まで消えるわけではない
制度廃止を考えるときには、いつから利用できなくなるのかを区別する必要があります。
今回示されているのは、令和8年度末までとされている信託などが可能な期間について、その終了をもって制度を廃止するという方向です。
すでに制度を利用している人の契約が、制度終了と同時にすべて無かったことになるという意味ではありません。
既存契約については、それぞれの制度上の取り扱いを確認する必要があります。
税制の終了では、新規利用の終了と既存利用者への経過的な取り扱いを分けて考えることが重要です。
こども政策では別の税制要望も出ている
今回のこども家庭庁の税制改正要望を見ると、すべての子育て関連税制を縮小しようとしているわけではありません。
一方で、企業による幅広いこども、若者、子育て支援を評価する新しい認定制度を設け、その認定企業に対する税制措置を求めています。
つまり、利用が低迷している既存制度をそのまま残す一方通行の税制ではありません。
役割が小さくなった制度を見直しながら、新しい政策課題に対応する制度を検討するという入れ替えが行われます。
税制改正では新しい制度が何かだけではなく、どの制度が終了するのかを見ることも重要です。
結論
結婚子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置は、高齢世代が保有する資産を若い世代へ早期に移転し、結婚や子育てを支援する目的で設けられた制度です。
一定の要件のもとで、直系尊属から受け取る結婚子育て資金について1000万円まで非課税とする仕組みがあります。
しかし、制度の利用は低迷しており、今後も大幅な利用増加を見込みにくいとして、令和8年度末までの信託などが可能な期間の終了をもって廃止する方向となっています。
ここから分かるのは、税制優遇は設けること自体が目的ではないということです。
制度を利用する人がどれだけいるのか。
政策目的をどの程度達成しているのか。
税収を減らしてまで制度を続ける意味があるのか。
こうした検証を繰り返し、効果が小さくなった制度を見直すことも税制改正の役割です。
税制改正というと新しい減税や控除に注目しがちですが、古くなった特例を終了させることも同じくらい重要です。
令和9年度税制改正では、新設される制度だけでなく、役割を終える税制にも注目する必要があります。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 各省庁の9年度税制改正要望が出そろう、エッセンシャルサービス確保の特例に税制上の軽減措置を