月次決算や四半期決算では、数字を集計して終わりではありません。
売上高が前月より増えたのはなぜか。
広告宣伝費が前年同期より大きく増えたのはなぜか。
外注費が急に減ったのはなぜか。
経理担当者は、こうした数字の変化について原因を調べ、経営者や上司へ説明する必要があります。
これが増減分析です。
従来は経理担当者がExcelや会計システムを使って明細を一つずつ確認していましたが、生成AIを組み合わせることで、この分析作業を効率化できる可能性があります。
参考記事では、過去の膨大な仕訳データをそのまま生成AIに処理させるのではなく、Power Queryで事前にデータを加工して軽くしたうえで、生成AIにピンポイントで質問する方法が紹介されています。
生成AIにすべての仕訳を渡して考えさせるのではなく、従来のツールで数字を整理し、生成AIには数字が動いた理由を考えさせるという役割分担がポイントになります。
増減分析とは何か
増減分析とは、ある期間と別の期間の数字を比較し、その差額がなぜ発生したのかを調べることです。
経理では、単に決算書を作るだけでは十分ではありません。
たとえば広告宣伝費が前月1000万円だったのに、当月1500万円になっていたとします。
500万円増えたこと自体は、数字を比較すればすぐに分かります。
しかし、本当に知りたいのはその先です。
新商品の広告を始めたのかもしれません。
広告単価が上昇したのかもしれません。
大型の広告キャンペーンを実施したのかもしれません。
あるいは、前月にはなかった一時的な費用が計上されている可能性もあります。
増減分析では、このように差額の背景まで調べます。
経営者にとって重要なのは、数字が増えたという事実だけではなく、なぜ増えたのかという理由だからです。
前月比較とは何か
増減分析の基本的な方法の一つが前月比較です。
当月の数字を前月の数字と比較します。
たとえば7月の売上高が10億円、8月の売上高が12億円であれば、前月から2億円増加しています。
そこから、どの事業の売上が増えたのか、どの取引先が増えたのか、どの商品が増えたのかというように分析対象を細かくしていきます。
費用についても同じです。
人件費。
広告宣伝費。
旅費交通費。
外注費。
支払手数料。
勘定科目ごとに前月との差額を確認すれば、どの数字が大きく動いたのかを見つけることができます。
前月比較は、直近で会社に何が起きたのかを把握するのに向いています。
前年同期比較とは何か
もう一つ重要なのが前年同期比較です。
前年同期比較では、今年の数字と前年の同じ時期の数字を比べます。
8月であれば、前年8月と今年8月を比較します。
前月比較だけでは、季節による変動を見誤る可能性があります。
たとえば毎年8月に広告宣伝費が増える会社があったとします。
7月から8月に広告宣伝費が大幅に増えていても、それが毎年発生しているのであれば、異常な増加とは限りません。
前年8月と比較することで、今年だけ特別に増えているのか、それとも季節的な変動なのかを判断しやすくなります。
経理の増減分析では、前月比較と前年同期比較を組み合わせることで、数字の変化をより正確に捉えることができます。
大量の仕訳を人間が一件ずつ調べるのは大変
問題になるのは、差額が見つかった後です。
ある勘定科目が大きく増えていることが分かったとしても、その理由を調べるためには仕訳明細まで確認する必要があります。
会社の規模が大きくなれば、一つの勘定科目だけでも大量の仕訳が存在する場合があります。
さらに前期や前々期まで比較しようとすれば、扱うデータ量は一段と増えます。
参考記事でも、前期や前々期からの増減分析を行いたくても、過去の膨大な仕訳データではデータ量が多すぎて、生成AIでそのまま処理できないという問題が取り上げられています。
そこで、すべてを生成AIに渡すのではなく、まずデータを絞り込むという考え方が重要になります。
Power Queryで分析対象を絞り込む
参考記事で提案されているのが、Power Queryによる事前加工です。
まずPower Queryを使って、科目別の前月差額や当月差額などを抽出します。
これによって、どの勘定科目が大きく変動しているのかを見つけます。
さらに、たとえば広告宣伝費が大きく増えていることが分かったら、広告宣伝費の明細について差額リストを作ります。
こうして膨大な仕訳データから、実際に確認する必要があるデータだけを取り出します。
参考記事では、このようにPower Queryで特定科目の明細差額リストを自動抽出し、軽いデータへ整形する方法が紹介されています。
つまりPower Queryは、増減理由そのものを考えるというより、生成AIが分析しやすい状態までデータを整理する役割を担います。
生成AIには整理した差額データを渡す
Power Queryで分析対象を絞り込んだ後に、生成AIを使います。
参考記事では、整形した差額データだけを生成AIに渡し、「なぜこの科目が増加しているのか、要因を教えて」とピンポイントで質問する方法が示されています。
ここが生成AIを増減分析に利用するときの重要なポイントです。
膨大な仕訳データをすべて渡して、「分析してください」と依頼するわけではありません。
まず人間とPower Queryによって分析対象を絞り込みます。
そのうえで生成AIに理由を整理させます。
たとえば広告宣伝費が500万円増えていたとします。
差額明細を見ると、新規取引先への支払いが300万円、既存取引先への支払い増加が150万円、その他が50万円だったとします。
生成AIにこのデータを分析させれば、広告宣伝費の増加について、主要な要因を整理する補助として利用できます。
経理担当者が大量の明細を一件ずつ確認する負担を減らせる可能性があります。
生成AIに任せるのは原因の整理まで
ただし、生成AIが示した理由をそのまま正式な増減理由として使用するのは注意が必要です。
仕訳データから分かることには限界があるからです。
たとえば特定の取引先への支払いが300万円増えていることは、仕訳データから分かるかもしれません。
しかし、なぜその取引が発生したのかまでは、仕訳データだけでは分からない場合があります。
新商品の販売促進なのか。
契約内容が変更されたのか。
単価が上昇したのか。
支払い時期がずれただけなのか。
こうした事業上の事情については、担当部署への確認が必要になることがあります。
生成AIができるのは、与えられたデータから増減要因の候補を整理するところまでです。
最終的な原因の確認は人間が行う必要があります。
数字を作る仕事と数字を説明する仕事を分ける
生成AIを増減分析へ取り入れる場合、業務を段階に分けて考えると分かりやすくなります。
まず会計システムから仕訳データを取得します。
次にPower Queryなどを使ってデータを整理します。
勘定科目ごとの前月差額や前年同期差額を計算し、変動の大きな科目を抽出します。
さらに対象科目の明細まで絞り込みます。
そこから生成AIに分析させます。
そして最後に人間が生成AIの分析結果と実際の事業内容を照らし合わせ、正式な増減理由を判断します。
つまり、
データの整理は従来ツール。
原因候補の整理は生成AI。
最終判断は人間。
という役割分担になります。
参考記事でも、生成AIと従来のソフトを組み合わせることが上手な業務の進め方だとされています。
増減分析の仕事そのものが変わる
従来の増減分析では、経理担当者の時間の多くがデータを探す作業に使われていました。
大量の仕訳を開く。
前月の明細と比較する。
Excelへ転記する。
差額の大きな取引を探す。
そのうえで原因を考える。
こうした一連の作業をすべて人間が行っていました。
Power Queryや生成AIを組み合わせれば、人間が担当する範囲を変えることができます。
大量データの整理はシステムに任せる。
明細から特徴を探す仕事は生成AIに支援させる。
経理担当者は、生成AIが整理した内容を確認し、事業部門への問い合わせや最終的な原因判断に時間を使う。
単純なデータ処理から、数字の意味を説明する仕事へ経理担当者の役割を移すことができます。
結論
経理の増減分析では、単に数字の差額を見つけるだけではなく、その数字がなぜ動いたのかまで調べる必要があります。
前月比較によって直近の変化を確認し、前年同期比較によって季節的な変動なども考慮します。
しかし、会社の仕訳件数が多くなるほど、その原因を人間が一件ずつ調べる負担は大きくなります。
そこでPower Queryによって大量の仕訳データを整理し、差額の大きな勘定科目や取引を抽出します。
その絞り込まれたデータを生成AIに渡し、増減要因を整理させます。
そして最後に人間が実際の事業内容と照らし合わせ、正式な増減理由を判断します。
生成AIに大量の仕訳を丸ごと渡して答えを求めるのではありません。
従来ツールでデータを絞り込み、生成AIに考えさせ、人間が判断する。
この役割分担によって、これまで経理担当者が多くの時間を使っていた増減分析を、より効率的に進められるようになるのです。
参考
企業実務 2026年9月号 経理の生成AI活用お悩み相談 現場の実情に答えます