近年、AI(人工知能)はさまざまな分野で活用が進んでいますが、税務行政も例外ではありません。国税庁は税務調査の効率化・高度化を目的として「予測AI」を導入し、申告漏れや不正申告のリスク分析に活用しています。
もっとも、「AIが税務調査の対象を決めている」と誤解されることがありますが、実際にはAIはあくまでも分析を支援するツールであり、最終的な判断は国税職員が行っています。
今回は、予測AIとはどのような技術なのか、どのようにリスクを判定し、税務調査で活用されているのかを分かりやすく解説します。
機械学習の仕組み
予測AIの中心となる技術が「機械学習」です。
機械学習とは、コンピューターが大量のデータから規則性や特徴を学び、新しいデータについて予測や分類を行う技術をいいます。
例えば、過去の税務調査で、
- 申告漏れが見つかった事例
- 不正還付が認定された事例
- 適正申告だった事例
などをAIに学習させることで、それぞれに共通する特徴を分析します。
新たな申告データが入力されると、AIは過去に学習したパターンと比較し、「どの程度リスクが高いか」を推定します。
これは、職員が一件ずつ膨大な申告書を確認する負担を軽減し、効率的なリスク分析を可能にする仕組みです。
リスクスコアとは何か
予測AIでは、分析結果を「リスクスコア」として示すことがあります。
リスクスコアとは、不正や申告漏れの可能性を数値や段階で評価した指標です。
例えば、
- 過去と比べて利益率が大きく変化している
- 売上や経費の推移に不自然な点がある
- 類似業種と比較して異常な数値が見られる
といった要素を総合的に分析し、リスクの高低を判定します。
ただし、このスコアは「不正をしている」という証拠ではありません。
あくまで調査の優先順位を検討するための参考情報であり、実際の申告内容や各種資料と照らし合わせながら活用されます。
人による最終判断
AIの活用が進んでも、税務調査の最終判断は必ず国税職員が行います。
国税庁も公表資料の中で、AIの判定結果だけで税務調査を決定することはないと明確にしています。
実際には、
- 申告書の内容
- 添付書類
- 各種資料情報
- 過去の申告履歴
- 個別事情
などを総合的に確認したうえで、調査の必要性を判断しています。
つまり、AIは膨大なデータの中からリスクの高い案件を効率よく抽出する役割を担い、人がその結果を検証して最終判断を下すという仕組みです。
この役割分担によって、調査の公平性と効率性の両立が図られています。
AI活用によるメリットと課題
予測AIの導入には、多くのメリットがあります。
例えば、従来は見落としていたリスクを発見しやすくなるほか、限られた人員でも効率的に税務調査を実施できるようになります。
また、リスクの低い案件への調査を減らし、重点的に確認すべき案件へ調査資源を配分できる点も大きな利点です。
一方で、AIには課題もあります。
AIは学習したデータを基に判断するため、学習データに偏りがあると分析結果にも影響が及ぶ可能性があります。
また、AIの判定理由が分かりにくい「ブラックボックス問題」も指摘されています。
そのため、行政ではAIの分析結果をそのまま採用するのではなく、人による確認や説明責任を重視する姿勢が求められています。
今後の予測AIはさらに進化する
2026年9月に導入予定のKSK2では、紙で管理していた情報のデータ化が進み、AIが利用できるデータ量が大幅に増加するとされています。
データが充実すれば、AIはより多くのパターンを学習できるようになり、予測精度の向上が期待されます。
また、AI技術そのものも日々進歩しており、将来的にはより高度な分析や異常検知が可能になるでしょう。
もっとも、AIがどれほど進化しても、税務調査は個々の事情を踏まえた判断が必要です。
そのため、AIと職員がそれぞれの強みを生かしながら協力する現在の考え方は、今後も変わらないと考えられます。
結論
予測AIは、過去の税務データを機械学習によって分析し、申告漏れや不正申告のリスクを効率的に判定する技術です。リスクスコアは税務調査の優先順位を検討するための参考情報であり、それだけで調査対象が決まるわけではありません。
国税庁はAIを人に代わる存在ではなく、人の判断を支援する技術として位置付けています。今後はKSK2の導入によって分析精度の向上が期待されますが、公平性や説明責任を確保するためにも、人による最終判断が引き続き重要な役割を果たしていくでしょう。
参考
税のしるべ「国税庁におけるAIの活用を公表、9月にKSK2の導入で予測モデルの精度が向上へ」2026年8月3日
国税庁「国税庁におけるAIの活用」2026年7月27日