貸付金という勘定科目を見ると、通常は会社が誰かにお金を貸していると考えます。
しかし、参考記事では、実際には貸付けをしていないにもかかわらず、貸付金が計上されるケースについても取り上げています。
その目的として挙げられているのが、利益を実際より多く見せることです。
本来は費用として処理すべき支出を貸付金という資産に振り替えれば、その分だけ費用が少なくなり、利益が多く見えることになります。
参考記事では、これを粉飾決算の1つとして説明しています。
費用と資産では利益への影響が違う
まず理解しておきたいのが、費用と資産の違いです。
会社が支出したお金を費用として処理すれば、その費用は利益を減らす方向に働きます。
たとえば、売上が5,000万円あり、費用が4,500万円であれば、単純化すると利益は500万円です。
これに対して、本来4,500万円ある費用のうち500万円を費用として処理せず、貸付金という資産に振り替えたとします。
帳簿上の費用は4,000万円になります。
すると、単純化した利益は1,000万円になります。
実際の経営内容が良くなったわけではありません。
費用として処理すべき金額を資産に移したことで、利益が500万円増えて見えるだけです。
貸付金は貸借対照表に残る
費用は損益計算書に計上され、会社の利益に影響します。
これに対して貸付金は貸借対照表の資産に計上されます。
参考記事では、本来費用として処理すべきものを貸付金に振り替えることで、費用を減らして利益を増やす粉飾が行われる場合があると説明しています。
貸付金に振り替えれば、その金額が消えるわけではありません。
損益計算書の費用から外れ、貸借対照表の資産へ移ることになります。
その結果、損益計算書では利益が大きく見え、貸借対照表では貸付金という資産が増えることになります。
実際にお金を貸していないことが問題になる
通常の貸付金であれば、会社から誰かへ実際にお金を貸している事実があります。
相手が存在し、貸付金額があり、返済を受けることが前提になります。
しかし、参考記事が取り上げている粉飾のケースでは、本来費用であるものを貸付金へ振り替えています。
実際の貸付けによって発生した貸付金とは性質が異なります。
帳簿上は資産として表示されていても、本当に回収できる貸付債権が存在しているわけではないのであれば、その資産価値にも大きな問題があります。
利益だけでなく、資産についても実態より良く見える可能性があるのです。
利益が増えると会社が良く見える
会社の利益は、銀行が融資を判断するときにも重要な情報になります。
赤字が続いている会社と、安定して利益を出している会社では、一般的に返済能力に対する見方も変わります。
そのため、利益を実際より多く見せたいという動機が生じることがあります。
しかし、本来の費用を貸付金に振り替えて利益を増やしても、会社の収益力そのものが改善したわけではありません。
現金が増えるわけでもありません。
事業から生み出される利益が本当に増えたわけでもありません。
帳簿上の表示を変えているだけです。
貸付金が増え続ける決算書には注意する
参考記事では、貸付金の発生原因として、経営者への貸付け、取引先への貸付け、関連企業への貸付け、ずさんな経理処理、そして粉飾決算を挙げています。
したがって、決算書に貸付金があるからといって、すべてが粉飾ということではありません。
重要なのは、その貸付金がなぜ発生したのかを確認することです。
誰に貸したのか。
いつ貸したのか。
何のために貸したのか。
返済条件はどうなっているのか。
実際に返済されているのか。
こうした内容を確認することで、貸付金の実態が見えてきます。
資産としての価値にも疑問が生じる
参考記事では、貸付金について実際の資産価値を見ることの重要性も説明しています。
たとえば、1年以内に返済される見込みのない3,000万円の貸付金について、資産価値を0として流動比率を計算する事例が紹介されています。
表面上の流動比率は176%です。
しかし、この貸付金3,000万円を除いて計算すると約93%になります。
本来の費用を貸付金として計上しているのであれば、さらに深刻です。
実際に回収できる債権としての実態がなければ、貸借対照表に資産として載っていても、その金額をそのまま会社の財産と考えることはできません。
銀行の信用を失うリスクがある
粉飾によって利益を多く見せれば、一時的には会社の業績が良く見えるかもしれません。
しかし、それによって会社の本当の返済能力が高まるわけではありません。
参考記事では、銀行は多額の貸付金がある決算書に対して厳しい見方をすると説明しています。
貸付金の内容を確認した結果、本来の費用を資産へ振り替えて利益を増やしていることが分かれば、決算書そのものに対する信用にも関わります。
銀行融資は信用によって成り立っています。
数字を良く見せるための処理は、長期的には銀行との信頼関係を大きく損なうことにつながります。
利益より実態を見ることが重要
決算書を見るときには、最終的な利益だけを見て会社の状態を判断しないことが重要です。
利益が増えていても、その理由を確認する必要があります。
売上が増えたのか。
利益率が改善したのか。
費用削減が進んだのか。
それとも、本来費用であるものが資産へ振り替えられているのか。
同じ利益1,000万円でも、そこに至る過程によって会社の実態は大きく異なります。
貸付金が大きく増えている場合には、その発生原因まで確認することが重要です。
結論
参考記事では、貸付金が発生する原因の1つとして、本来費用として処理すべきものを貸付金に振り替え、利益を増やす粉飾決算を挙げています。
費用として処理すれば利益は減ります。
これを貸付金という資産に振り替えれば、費用が減るため利益は増えて見えます。
しかし、会社の本当の収益力が高まったわけではありません。
さらに、実際の貸付けによる債権でなければ、貸借対照表に計上された貸付金の資産価値にも問題が生じます。
決算書を見るときには、利益がいくらあるのかだけを見るのではありません。
貸付金が誰に対するものなのか。
なぜ発生したのか。
本当に回収できる資産なのか。
こうした中身まで確認する必要があります。
利益を良く見せるために費用を貸付金へ振り替えても、会社の実力は変わりません。
むしろ決算書への信用を失い、銀行との信頼関係を損なう大きなリスクにつながるのです。
参考
企業実務 2026年9月号 貸付金の発生に注意を