粉飾決算が見抜きにくいのはなぜか 数字がつじつまを合わせて作られると監査も難しくなる理由編

会計
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企業が毎年監査法人の監査を受けているにもかかわらず、何年も続いていた粉飾決算が後になって発覚することがあります。

そのようなニュースを見ると、「決算書を専門家が監査しているのに、なぜ分からなかったのか」と疑問に感じるかもしれません。

しかし、粉飾決算と単純な会計ミスには大きな違いがあります。

会計ミスは基本的に意図せず発生します。

一方、粉飾決算は発見されないよう意図的に数字や証拠を操作します。

場合によっては複数の社員や取引先が協力し、帳簿だけでなく契約書や請求書などまで整えられることがあります。

だからこそ、粉飾決算を見抜くことは難しいのです。

粉飾決算とは何か

粉飾決算とは、企業が意図的に決算内容を実態より良く見せることです。

例えば実際には存在しない売上を計上すれば、売上高と利益を増やすことができます。

本来計上すべき費用を将来へ繰り延べれば、その期の利益を大きく見せられます。

固定資産の減損を不適切に回避する方法も考えられます。

こうした会計処理によって、本来より高い利益や資産を決算書に表示することができます。

問題は、単純に一つの数字を書き換えるだけとは限らないことです。

数字のつじつまを合わせることができる

会計には複式簿記という仕組みがあります。

そのため売上高だけを勝手に増やせば、それに対応する別の勘定にも影響が出ます。

例えば1000万円の架空売上を計上すると、売上高だけでなく売掛金も1000万円増えることがあります。

売上高だけ見れば不自然ではなくても、売掛金が増えることになります。

そこで不正を続けるためには、売掛金が残り続ける問題にも対応しなければなりません。

別の取引を使って回収したように見せるなど、不正が次の不正につながることがあります。

一つの数字だけではなく、決算書全体のつじつまを合わせる方向へ不正が複雑化していく可能性があるのです。

証拠そのものが偽造されることもある

監査人は、企業の説明だけを聞いて監査を終えるわけではありません。

契約書、注文書、納品書、請求書、銀行の入出金記録など、さまざまな監査証拠を確認します。

ところが不正では、その証拠自体が偽造される可能性があります。

架空の取引を実際の取引に見せるため、請求書や納品書などを作成することが考えられます。

書類が存在するだけでは、その取引が本当に経済的実態を伴っているとは限りません。

そのため監査人は、証拠が存在するかだけではなく、その証拠がどこから入手されたものなのか、ほかの証拠と整合しているのかまで検討する必要があります。

外部から得る証拠が重要になる

企業内部で作成された書類だけでは、不正を完全に見抜けない可能性があります。

そこで監査では、企業の外部から得られる証拠が重要になります。

例えば売掛金について、取引先に直接確認を依頼する方法があります。

会社の帳簿に「A社に1億円の売掛金がある」と記録されている場合、A社から直接回答を得ることで取引の存在などを確認します。

銀行預金についても、金融機関から直接情報を得る方法があります。

一般的には、会社内部だけで作られた証拠より独立した外部から直接得た証拠の方が信頼性は高くなります。

ただし、取引先まで不正に協力していれば話はさらに複雑になります。

複数の社員が共謀すると見抜きにくくなる

内部統制では、一人の社員にすべての権限を与えないことが基本です。

例えば取引を承認する人、商品を出荷する人、売上を入力する人、入金を確認する人を分けます。

一人が不正をしようとしても、別の担当者のチェックによって発見できる可能性が高くなるからです。

しかし、複数の担当者が共謀すると、この仕組みを突破できる可能性があります。

営業担当者と経理担当者が協力すれば、本来なら互いにチェックするはずの内部統制が機能しなくなることがあります。

不正に参加する人が増えるほど隠し続けることは難しくなる一方、監査や内部統制をすり抜けるための仕組みは複雑になる可能性があります。

取引先まで関与するとさらに難しくなる

循環取引などでは、複数の企業が取引に関係することがあります。

書類上は商品やサービスが会社間を移動し、それぞれの企業で売上や仕入れが計上されます。

銀行口座を通じて実際に資金が移動する場合もあります。

そうなると請求書も存在し、入金記録も存在するため、一見すると通常の取引に見える可能性があります。

重要なのは、形式的な取引が存在するかだけではありません。

その取引に合理的な事業目的や経済的実態があるのかを見る必要があります。

粉飾決算が高度になるほど、形式と実態を区別することが重要になります。

経営者が関与すると内部統制を突破できる

粉飾決算の発見をさらに難しくするのが、経営者自身の関与です。

経営者は会社内部で大きな権限を持っています。

通常なら複数の承認が必要な会計処理でも、経営トップからの指示で例外的な処理が行われる可能性があります。

部下が不適切だと考えても、社長や役員から強く指示されれば反対できないこともあります。

これが経営者による内部統制の無効化です。

不正を防ぐために作られた仕組みを、その仕組みを管理する立場の経営者自身が破ることができるため、監査でも特に重要なリスクとして扱われます。

会計上の見積もりはさらに判断が難しい

粉飾決算は、架空取引のように明確な虚偽だけとは限りません。

減損や引当金など、経営者の見積もりが必要な会計処理もあります。

例えば固定資産の減損では、将来どれだけの収益を生み出せるのかという予測が関係します。

将来予測には一定の不確実性があります。

経営者が過度に楽観的な事業計画を使っている場合、それが合理的な経営判断なのか、利益を大きく見せるための意図的な操作なのかを見極める必要があります。

明らかな架空取引とは異なり、判断の境界が難しい領域です。

監査にも限界がある

監査人は、すべての取引を一件ずつ確認するわけではありません。

企業の規模が大きくなれば、年間に膨大な取引が発生します。

そこで監査では、重要な虚偽表示が発生するリスクを評価し、重要な領域に重点を置いて監査手続きを行います。

監査によって得られるのは合理的な保証であり、絶対的な保証ではありません。

特に不正では、証拠の偽造、複数人の共謀、経営者による内部統制の無効化などがあるため、単純な誤りより発見が難しくなります。

監査を受けていることと、不正が絶対に存在しないことは同じではありません。

新しい監査基準は不正への対応を強化する

日本公認会計士協会が進めている監査基準報告書240号の改正では、不正リスクへの対応が強化される方向です。

不正やその疑いを把握した場合、明らかに軽微なものを除いて追加的な監査手続きを行うことなどが想定されています。

企業が実施した調査や是正措置について、その内容が適切なのかを監査人が評価することも求められます。

さらに経営者の説明を裏付ける証拠だけを見るのではなく、それと矛盾する証拠を排除しない姿勢も重要になります。

不正が巧妙化するほど、監査人の職業的懐疑心が重要になるのです。

結論

粉飾決算が見抜きにくい最大の理由は、不正を行う側が発見されないよう意図的に仕組みを作るからです。

単純に決算書の数字を書き換えるだけとは限りません。

帳簿のつじつまを合わせ、契約書や請求書などを作り、場合によっては複数の社員や取引先が協力することもあります。

さらに経営者自身が関与すれば、本来不正を防ぐはずの内部統制まで無効化される可能性があります。

だからこそ監査では、書類が存在することだけではなく、取引の経済的実態や外部証拠との整合性まで確認する必要があります。

投資家にとっても同じです。

一つの決算数字だけで企業を判断するのではなく、売上高、売掛金、利益、キャッシュフロー、KAMなどを組み合わせて見ることが重要です。

粉飾決算は数字を隠すだけではありません。

数字同士のつじつままで合わせて「普通の決算」に見せようとするからこそ、見抜くことが難しいのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 監査報告書、不正リスク記載

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