全国で空き家問題が深刻化しています。総務省の調査では空き家は約900万戸に達し、そのうち賃貸や売却の予定がない「その他空き家」が約386万戸を占めています。
こうした状況を受けて、大阪府寝屋川市は「空き家税」の導入を進めています。空き家税は税収を増やすこと自体が目的ではなく、所有者の行動を変え、眠っている住宅を市場に流通させることを狙った制度です。
空き家を減らす政策が、若い世代の住宅確保や自治体の人口政策につながる可能性があります。
空き家税とは何か
空き家税は、自治体が独自に導入する法定外税の一つです。
寝屋川市では、市内にある約1万6,000戸の空き家のうち、売却にも賃貸にも出されていない約6,000戸を活用する必要があるとしています。
市内には新たに大規模な住宅地を開発できる土地がほとんど残っていません。
そこで新しい住宅を建設するだけではなく、すでに存在する住宅を市場へ戻すことによって、若い世代が住める住宅を確保しようとしているのです。
なぜ空き家が増えるのか
空き家が発生する大きなきっかけの一つが相続です。
親が亡くなって子どもが実家を相続しても、子ども自身は東京など別の地域に住んでいるケースがあります。
自分が住む予定がなくても、すぐに売却できるとは限りません。
家財道具の整理や相続登記、建物の修繕、売却先探しなど、多くの手間がかかるからです。
その結果、「とりあえずそのままにしておこう」という判断が続き、住宅が長期間使われない状態になることがあります。
税金で所有者の行動を変える
寝屋川市の空き家税で特徴的なのは、税収そのものを目的としていない点です。
狙いは所有者の行動変容です。
税額は固定資産税額の3割から4割程度を目安とし、一般的な住宅であれば年間数万円程度の負担増が想定されています。
何もしなければ毎年負担が発生するのであれば、売却や賃貸を検討しようと考える所有者が増える可能性があります。
一方、負担が小さすぎれば行動は変わりません。
逆に負担が大きすぎれば所有者の理解を得ることが難しくなります。
そのバランスが制度設計の重要なポイントになります。
すべての空き家に課税するわけではない
空き家になっているという理由だけで、一律に課税する制度ではありません。
例えば転勤によって一時的に住宅を離れており、将来戻る予定がある場合などは対象から外すことが想定されています。
重要なのは、利用する合理的な事情がないにもかかわらず、市場にも出されず長期間眠っている住宅です。
売却や賃貸によって活用できる住宅について、所有者に判断を促す仕組みと考えることができます。
空き家をどうやって見つけるのか
制度を運営するうえで難しいのが、本当に空き家なのかを判断することです。
寝屋川市では、水道の契約状況や使用量、住民票など、行政が保有する複数のデータを組み合わせて実態を把握する考えです。
データだけでは判断できないケースについては、最終的に現地確認や所有者への聞き取りなども行います。
空き家税は税率を決めれば終わる制度ではありません。
課税対象となる住宅を正確に把握する行政実務が非常に重要になります。
固定資産税の仕組みも空き家問題に関係する
空き家が残り続ける背景には固定資産税の仕組みもあります。
住宅が建っている土地には、固定資産税の負担を軽減する住宅用地の特例があります。
そのため利用していない住宅でも、建物を取り壊して更地にすると土地の税負担が増える場合があります。
所有者から見ると、使わない住宅でも建物を残しておく方が有利になるケースがあるわけです。
国も倒壊などの危険がある特定空き家などについて住宅用地特例を外す仕組みを設けていますが、すべての空き家が対象になるわけではありません。
空き家税と支援策を組み合わせる
寝屋川市は課税だけで空き家問題を解決しようとしているわけではありません。
2020年には不動産や法律などの専門家団体と空き家流通推進プラットフォームを設立しています。
相続や売却などについて所有者が専門家の支援を受けられる仕組みです。
さらに空き家税による税収は約1億4,000万円を見込み、建物の除却への補助などに活用する考えが示されています。
つまり所有者に対して、まず支援策を用意し、それでも動かない場合には税負担を求め、そこから得た税収を再び空き家対策へ使う構造です。
空き家対策が若者政策になる理由
寝屋川市が空き家税を導入する背景には人口政策があります。
寝屋川市は高度経済成長期に急速に人口が増えた住宅都市です。
1960年に約5万人だった人口は1975年には約25万人まで増加しました。
しかし当時の若い世代が高齢化し、人口構成も大きく変化しています。
街を持続させるためには、若い世代を呼び込み、世代構成をリバランスする必要があります。
その受け皿になるのが既存住宅です。
空き家対策は単なる建物管理の問題ではなく、住宅政策、子育て政策、人口政策までつながっているのです。
自治体が独自政策を競う時代へ
寝屋川市の取り組みでもう一つ興味深いのは、自治体政策を競争力という視点から考えていることです。
少子高齢化によって人口そのものが減少すれば、自治体は住民を待っているだけでは地域を維持できません。
住宅、教育、子育て、働き方などを通じて、住む場所として選ばれる必要があります。
寝屋川市では空き家対策だけでなく、教育や子育て支援、いじめ対策などにも独自施策を導入しています。
人口減少時代には自治体にも、それぞれの地域事情に合わせた政策をつくる力が求められるようになっています。
結論
空き家税は、単に空き家から税金を取る制度ではありません。
最大の目的は、売却にも賃貸にも出されず眠っている住宅について、所有者の行動変容を促すことです。
全国には約900万戸の空き家があり、そのうち「その他空き家」は約386万戸に達しています。
一方で、若い世代が住宅を必要としている地域もあります。
眠っている住宅を市場へ戻すことができれば、空き家問題と住宅不足を同時に改善できる可能性があります。
空き家税が実際にどの程度の住宅を市場へ動かすのか。そして若い世代の移住や定住につながるのか。
寝屋川市の取り組みは、人口減少時代の住宅政策と自治体経営を考えるうえで重要な事例になりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 直言 眠る空き家、若者に回せ