空き家税によって、これまで売却にも賃貸にも出されていなかった住宅が市場へ出てくれば、中古住宅は安くなるのでしょうか。
大阪府寝屋川市には約1万6,000戸の空き家があり、そのうち約6,000戸が売却にも賃貸にも出されていないとされています。
空き家税の目的は、こうした眠っている住宅について所有者の行動変容を促すことです。
市場に出る住宅が増えれば、住宅価格や家賃にも影響する可能性があります。ただし、空き家が増えた分だけ単純に住宅価格が下がるわけではありません。
住宅価格も需要と供給で決まる
住宅も基本的には需要と供給によって価格が決まります。
買いたい人が多いのに売り物件が少なければ、価格は上がりやすくなります。
反対に購入希望者に対して売り物件が増えれば、買い手は複数の住宅を比較できるようになります。
売り手同士の競争も起こりやすくなります。
そのため空き家税によって中古住宅の供給が増えれば、少なくとも住宅価格の上昇を抑える方向に働く可能性があります。
約6000戸が一度に市場へ出るわけではない
ただし寝屋川市で市場に出ていない約6,000戸の空き家が、空き家税導入後にすべて売却されるわけではありません。
所有者によって事情が違うからです。
売却する人もいれば、賃貸に出す人もいるでしょう。
家族が利用することを決める人もいるかもしれません。
建物を解体するケースも考えられます。
さらに建物の状態によっては、すぐに中古住宅として利用できない物件もあります。
実際に住宅市場へ供給される戸数を見る必要があります。
同じ市内でも住宅価格への影響は違う
住宅は一般の商品と違い、一つ一つ条件が異なります。
駅に近い住宅と駅から遠い住宅では需要が違います。
築年数や面積、建物の状態も異なります。
学校や商業施設へのアクセスなども住宅選びに影響します。
そのため市内全体で中古住宅の供給が増えたとしても、すべての地域や住宅で同じように価格が変化するわけではありません。
需要の強い地域では、供給が多少増えても価格への影響が限定的な可能性があります。
若い世代の選択肢が増える可能性がある
価格以上に重要なのが、住宅の選択肢が増えることです。
寝屋川市は新たに大規模な住宅開発をする土地がほとんど残っていないとしています。
若い世代を呼び込みたくても、希望に合う住宅が市場になければ移住してもらうことは難しくなります。
そこで既存の空き家が売却物件として市場に出れば、購入できる住宅の選択肢が増えます。
新築住宅だけでなく、比較的手頃な中古住宅を購入して改修するという選択もしやすくなる可能性があります。
賃貸住宅になれば家賃にも影響する
空き家の所有者が売却ではなく賃貸を選択すれば、賃貸住宅の供給が増えます。
賃貸住宅でも基本的には需要と供給が家賃に影響します。
入居希望者に対して物件が少なければ、家賃は上がりやすくなります。
反対に選べる物件が増えれば、貸し手は家賃だけでなく設備や住宅の状態などでも競争する必要があります。
ただし賃貸需要が強い地域では、供給が多少増えても家賃が大きく下がるとは限りません。
改修費が価格や家賃を左右する
空き家が市場に出ても、そのまま住めるとは限りません。
築年数の古い住宅では、水回りや屋根、外壁などの修繕が必要になる場合があります。
売り手が改修してから売却すれば、その費用が販売価格に反映される可能性があります。
買い手が購入後に改修するのであれば、物件価格に加えてリフォーム費用を考える必要があります。
賃貸の場合も同じです。
所有者が貸し出すために大規模な改修を行えば、その投資額を家賃で回収しようとすることがあります。
供給増だけで住宅の実質的な負担を判断することはできません。
空き家税そのものが価格を下げるわけではない
空き家税は住宅価格を引き下げるための制度ではありません。
目的は、利用されていない住宅について所有者に判断を促し、市場への流通などにつなげることです。
結果として供給が増えれば、住宅価格や家賃に影響する可能性があるという関係です。
空き家税を導入したから中古住宅価格が一定割合下がる、と考えることはできません。
重要なのは、課税によって実際に何戸の住宅が市場へ動くかです。
住宅が流通すれば地域経済にも影響する
空き家が中古住宅として売却されれば、その後にさまざまな需要が生まれる可能性があります。
リフォーム工事が行われるかもしれません。
家具や家電を購入することもあります。
新しい住民が地域の店舗やサービスを利用するようになります。
子育て世帯が移住すれば、学校や地域活動にも影響します。
空き家を1戸流通させることは、単に不動産の所有者が変わるだけではありません。
地域で再び住宅が利用されることに意味があります。
価格より住宅市場の新陳代謝が重要
空き家税の効果を見るときには、中古住宅価格が下がったかどうかだけを見ると制度の目的を見失う可能性があります。
重要なのは、利用されていなかった住宅が次の利用者へ渡ったかどうかです。
高齢者世帯が住んでいた住宅を若い世代が購入する。
相続された実家が賃貸住宅として利用される。
古い建物を解体して新しい住宅が建てられる。
こうした住宅の新陳代謝が進めば、新たな土地を開発しなくても住宅供給を増やすことができます。
結論
空き家税によって売却や賃貸に出される住宅が増えれば、中古住宅市場の供給が増えるため、価格や家賃の上昇を抑える方向に働く可能性があります。
しかし住宅価格は、立地、築年数、建物の状態、改修費、地域の住宅需要など多くの条件によって決まります。
空き家税を導入すれば中古住宅が一律に安くなるわけではありません。
むしろ注目すべきなのは、これまで市場に存在しなかった住宅が選択肢として加わることです。
人口減少時代には、新しい住宅を建て続けるだけではなく、すでにある住宅を次の世代へ回していくことが重要になります。
空き家税は住宅価格を直接下げる政策というより、止まっていた住宅の流通を動かす政策として考える必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 直言 眠る空き家、若者に回せ