空き家問題では、所有者が住宅を売却すれば解決するように見えます。
しかし現実には、売りたいと思ってもなかなか買い手が見つからない住宅があります。
全国には約900万戸の空き家があり、そのうち賃貸用や売却用などを除く「その他空き家」は約386万戸あります。大阪府寝屋川市が空き家税によって住宅の流通を促そうとしている背景にも、市場に出てこない住宅をどう動かすかという課題があります。
一方、住宅を市場に出せば必ず売れるわけではありません。
中古住宅の売却には、立地、築年数、建物の状態、修繕費、解体費など多くの要素が関係します。
住宅は価格を下げれば必ず売れるわけではない
一般の商品であれば、価格を下げることで買い手が見つかりやすくなります。
住宅にも同じ面がありますが、不動産には大きな特徴があります。
場所を動かすことができないことです。
駅から遠い。
公共交通機関が少ない。
買い物や医療などの生活利便性が低い。
人口が減少している地域にある。
こうした条件は、価格を下げても簡単には変えられません。
住宅の売りやすさは、建物そのものだけでなく土地の需要にも大きく左右されます。
築年数が古いほど修繕費が問題になる
中古住宅を購入する人は、購入価格だけを見ているわけではありません。
購入後にどの程度の費用が必要になるのかも考えます。
築年数の古い住宅では、屋根や外壁、水回り、給湯設備などの修繕が必要になる場合があります。
例えば住宅価格が500万円でも、購入後に500万円の改修費が必要なら、買い手から見た実質的な負担は1,000万円になります。
売り手が考える住宅価格と、買い手が考える総費用には差が生じることがあります。
建物に価値があるとは限らない
所有者にとって実家は大切な財産です。
長年家族が暮らしてきた住宅には思い入れもあります。
しかし市場で評価される価値と、所有者が感じる価値は同じではありません。
建物が古くなれば、中古住宅として利用するよりも、取り壊して新しい住宅を建てたいと考える買い手もいます。
その場合、建物は資産ではなく解体費用を伴う存在として評価される可能性があります。
土地の価格から解体費用などを差し引いて購入価格を考える買い手もいるわけです。
解体費が売却価格に影響する
老朽化した住宅では、誰が解体費を負担するのかが重要になります。
売り手が建物を解体して更地にしてから売却する方法があります。
一方、建物を残したまま売却し、買い手が購入後に解体する方法もあります。
後者の場合、買い手は将来負担する解体費を考慮して購入価格を判断します。
そのため所有者が土地には一定の価値があると考えていても、実際の売却価格は想定より低くなることがあります。
接道条件など土地そのものの問題もある
住宅の価値は土地の面積だけでは決まりません。
道路との接し方や土地の形状なども重要です。
現在の建築基準では、建物を建て替える際に一定の接道条件を満たす必要があります。
古くから存在する住宅の中には、現在のルールでは同じように建て替えることが難しい土地もあります。
買い手が新しい住宅を建てたいと考えても、それが難しければ土地の利用価値は下がります。
中古住宅を売却するときには、建物だけでなく土地の法的な条件も確認する必要があります。
所有者の希望価格が高すぎる場合もある
売れない理由が住宅そのものにあるとは限りません。
所有者の希望価格と市場価格が離れている場合もあります。
親が購入したときの価格。
近隣の新築住宅の価格。
自分が相続時に想定した資産価値。
こうした数字を基準に売却価格を考えると、市場とのずれが生じることがあります。
重要なのは過去にいくらで購入したかではなく、現在その住宅をいくらなら買いたい人がいるのかです。
売却前の費用が負担になることもある
住宅を売るためには、一定の準備が必要になる場合があります。
家財道具を処分する。
建物の状態を確認する。
境界を確認する。
必要に応じて修繕する。
こうした作業には費用も時間もかかります。
特に遠方にある実家を相続した場合には、所有者自身が何度も現地へ行かなければならないケースもあります。
売却したいと思っていても、その前段階の負担が大きく、手続きが進まないことがあります。
空き家税だけでは解決できない理由
空き家税によって所有者が売却を決断したとしても、それだけで住宅が流通するとは限りません。
買い手がいなければ売却できないからです。
そのため空き家政策では、所有者に行動を促すだけでなく、売却や賃貸を実際に進められる仕組みも重要になります。
寝屋川市が2020年に不動産や法律などの専門家団体と空き家流通推進プラットフォームを設立したのも、そのためです。
相続や不動産売却などの問題について専門家の支援を受けられる環境を整えることで、住宅を市場へ動かしやすくしています。
中古住宅として使える価値を高めることも重要
空き家を流通させる方法は、単純な値下げだけではありません。
建物の状態を確認し、必要な修繕を行うことで中古住宅として利用しやすくなる場合があります。
買い手が住宅の状態を把握できれば、購入後の修繕リスクも判断しやすくなります。
人口減少時代には、新しい住宅を建て続けるだけでなく、すでにある住宅をどのように再利用するかという視点がますます重要になります。
結論
空き家を売りたいと思っても、必ず売却できるわけではありません。
住宅の売りやすさは、立地、築年数、建物の状態、修繕費、解体費、土地の条件など多くの要素によって決まります。
さらに所有者が考える資産価値と、買い手が考える市場価値が一致しないこともあります。
空き家税によって所有者に売却を促すだけでは、空き家問題を完全には解決できません。
売却や賃貸を支援する仕組みを整え、買い手が利用しやすい住宅として市場へ戻すことも必要です。
空き家問題は、所有者に「売ってください」と求めるだけではなく、その住宅を誰がどのように次に使うのかまで考える中古住宅流通の問題でもあるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 直言 眠る空き家、若者に回せ