税理士は顧問先の不正リスクをどこまで見抜けるのか 職業的懐疑心編

会計

企業の会計不正が発覚するたびに、

「税理士は気付かなかったのか」

「顧問税理士は何をしていたのか」

という声が聞かれます。

確かに税理士は会社の数字を日常的に見ているため、不正の兆候を発見しやすい立場にあります。しかし一方で、税理士は警察官でも監査人でもありません。

では税理士は顧問先の不正リスクをどこまで見抜くことができるのでしょうか。

今回は会計不正を防ぐうえで重要な「職業的懐疑心」という考え方から、税理士の役割について考えてみたいと思います。

税理士は経営者を信頼して仕事をしている

税理士業務の前提は、顧問先との信頼関係です。

経営者や経理担当者から提供された資料をもとに、

・月次試算表を作成する

・税務申告を行う

・経営相談に応じる

という業務を進めています。

つまり税理士は基本的に顧問先を信頼して仕事をしています。

しかし、信頼だけでは不正を見抜くことはできません。

過去の会計不正事件を振り返ると、多くの関係者が

「まさかあの会社が」

「まさかあの社長が」

と語っています。

不正は信用のある人によって行われることも少なくないのです。

職業的懐疑心とは何か

会計監査の世界では「職業的懐疑心」という言葉があります。

簡単に言えば、

「説明をうのみにしない姿勢」

です。

疑い続けるという意味ではありません。

常に、

「本当にそうなのか」

「他の可能性はないか」

「数字に矛盾はないか」

と考える姿勢です。

税理士にもこの考え方は非常に重要です。

経営者との関係が長くなるほど、

「この社長に限って不正はない」

という思い込みが生まれやすくなります。

しかし不正の多くは、その思い込みの隙間から発生します。

不正の兆候は数字に現れる

不正は完全には隠せません。

多くの場合、数字のどこかに違和感が現れます。

例えば、

・売上だけ急増している

・利益率が業界平均とかけ離れている

・売掛金だけが増え続けている

・在庫が異常に膨らんでいる

・現金残高が説明と合わない

・役員貸付金が増加している

といったケースです。

一つひとつは偶然かもしれません。

しかし複数の異常が重なると、不正や誤りの可能性を疑う必要があります。

税理士の重要な役割は、こうした小さな違和感を見逃さないことです。

数字より経営者の言動に注目する

実は不正の兆候は決算書だけに現れるわけではありません。

経営者の言動にも表れます。

例えば、

「とにかく利益を出してほしい」

「銀行対策だから何とかならないか」

「今期だけ数字を良く見せたい」

「税金は払いたくない」

という発言が増える場合です。

こうした言葉の背景には、数字を操作したい心理が隠れていることがあります。

税理士は会計データだけでなく、経営者の考え方や価値観にも注意を払う必要があります。

不正の根本原因は数字ではなく人間だからです。

税理士には限界もある

一方で、税理士が全ての不正を発見できるわけではありません。

意図的な証拠隠滅や架空取引、共謀による不正などは発見が困難です。

税理士には捜査権も強制調査権もありません。

また、税理士業務は監査業務ではありません。

そのため、

「税理士が気付かなかったから責任がある」

という単純な話ではないのです。

大切なのは、不正を完全になくすことではなく、不正が起こりにくい環境をつくることです。

これからの税理士は経営の警告灯になる

税理士の役割は申告書作成だけではありません。

むしろ今後は、

「このままでは危険です」

「この数字は不自然です」

「内部管理を見直しましょう」

と経営者に警鐘を鳴らす存在になることが求められます。

自動車に例えれば、税理士は運転手ではありません。

しかし異常を知らせる警告灯のような役割を果たすことはできます。

事故が起きてから対応するのではなく、事故の前に気付くことが重要なのです。

経営支援型税理士の価値が高まる

今後はAIの発展によって、記帳や申告業務の多くが自動化されるでしょう。

そうなると税理士の価値は、

「計算する人」

から

「経営の異変を発見する人」

へ移っていきます。

数字の裏にある経営課題を見抜き、不正リスクや経営リスクを早期に発見する能力が重要になります。

職業的懐疑心は、税理士にとって単なる監査用語ではありません。

これからの時代を生き残るための重要な専門能力になるのです。

結論

税理士は顧問先の不正リスクを全て見抜くことはできません。

しかし数字の違和感や経営者の言動から、不正の兆候を発見することはできます。

そのために必要なのが、顧問先を信頼しながらも説明をうのみにしない「職業的懐疑心」です。

これからの税理士には、税務の専門家であるだけでなく、経営の異変を察知するリスク管理の専門家としての役割が求められるでしょう。

不正を見抜く力とは、疑う力ではありません。

数字の奥にある真実を見ようとする姿勢そのものなのです。

参考

日本経済新聞 2026年6月23日 朝刊

会計士協会会長、不正「経営者の意識問題」 制度見直し言及

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