会社員の老後を支える制度として、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金などの企業年金があります。
こうした企業年金には、将来の年金や退職金を支払うため、多額の資金が長期間にわたって積み立てられています。
実は、この年金積立金に対して課税する特別法人税という制度があります。
ところが、この税金は長年にわたって課税が停止されています。
制度として存在しているのに実際には課税されていないという、少し特殊な税金です。
生命保険協会は令和9年度税制改正要望で、この特別法人税を撤廃することを求めています。撤廃されない場合でも、課税停止措置を延長するよう要望しています。
今回は、企業年金の特別法人税とはどのような税金なのか、なぜ課税停止が続いているのかを整理します。
特別法人税とは何か
特別法人税は、企業年金などに積み立てられている一定の資産に対して課税する税金です。
通常の法人税は、企業が得た所得に対して課税します。
これに対して特別法人税は、企業年金の積立金そのものを基準として課税する点に大きな特徴があります。
企業年金では、会社などが将来の年金給付に備えて資金を積み立てます。
この積立金について一定の方法で計算した額に税率を掛けて課税する仕組みです。
企業年金は数十年間という長期間にわたって資産を運用する制度です。
その積立段階で税金が発生すれば、長期的な資産形成にも影響することになります。
なぜ年金積立金に税金をかける制度があるのか
企業年金に対する税制を理解するには、拠出時、運用時、受取時という三つの段階に分けて考えると分かりやすくなります。
企業年金では、一定の要件のもとで掛金を拠出した段階では税制上の優遇があります。
さらに積み立てた資金を長期間運用し、老後に年金や一時金として受け取ります。
このように税負担を将来へ繰り延べる仕組みとの関係から、積立段階にある年金資産について一定の負担を求める考え方が特別法人税の背景にあります。
しかし、その後、老後資産形成を取り巻く環境は大きく変化しました。
少子高齢化が進み、公的年金だけではなく企業年金や個人年金などによる自助努力を促すことが重要な政策課題となっています。
その中で、積立金に課税する制度を維持することが適切なのかという議論が続いています。
特別法人税は現在課税されていない
特別法人税について最も重要なのは、現在実際に課税されているわけではないという点です。
制度そのものは残されていますが、長年にわたって課税停止措置が講じられてきました。
そのため、企業年金の運営を考える際には
制度上は特別法人税が存在する
しかし課税停止によって実際の負担は生じていない
という二つを分けて理解する必要があります。
税金が廃止されたのと、課税を一時的に停止しているのとでは意味が違います。
廃止されれば制度そのものがなくなります。
一方、課税停止の場合には制度が残っているため、将来的に課税が復活する可能性を完全には排除できません。
なぜ課税停止が続いているのか
企業年金は、会社員などの老後所得を支える重要な制度です。
公的年金を基礎としながら、その上に企業年金や個人年金を組み合わせることで、老後の所得を確保するという考え方があります。
この状況で企業年金の積立金に課税すると、積立資産の運用成果を押し下げる可能性があります。
特に企業年金は運用期間が長いため、毎年の税負担が長期間積み重なる影響を考える必要があります。
また、政府が資産形成や私的年金の拡充を促す一方で、年金積立金に課税することには政策的な整合性の問題もあります。
こうした事情などから、特別法人税について課税停止措置が繰り返されてきました。
確定給付企業年金との関係
特別法人税の対象として重要なのが、確定給付企業年金です。
確定給付企業年金は、将来受け取る給付について一定のルールをあらかじめ定める企業年金制度です。
一般にDBとも呼ばれます。
企業などは将来の年金給付に備えて掛金を拠出し、年金資産を積み立てて運用します。
確定給付企業年金では、加入者への給付を確実に行うため、長期的な資産運用が非常に重要です。
もし積立資産に対する課税が再開されれば、年金財政にも影響を及ぼす可能性があります。
運用収益だけでなく積立金を基準として負担が発生する仕組みであるため、企業年金を運営する側にとって大きな問題になります。
確定拠出年金にも関係する
特別法人税は、確定給付企業年金だけの問題ではありません。
企業型確定拠出年金や個人型確定拠出年金などについても関係する制度です。
確定拠出年金は、拠出された掛金とその運用成果によって将来受け取る金額が変わる仕組みです。
企業型確定拠出年金は一般に企業型DC、個人型確定拠出年金はiDeCoと呼ばれています。
こうした制度では長期間の積立と運用によって老後資金を形成します。
そのため、積立資産への課税は加入者の最終的な資産形成にも影響する可能性があります。
積立金課税は複利効果にも影響する
長期資産形成では複利効果が重要です。
運用によって得た利益を再び運用することで、利益が次の利益を生み出します。
運用期間が長くなるほど、この効果は大きくなります。
一方、積立期間中に継続的な税負担が生じれば、その分だけ運用に回せる資産が少なくなります。
企業年金は数十年単位で運用されるケースもあります。
短期的には小さく見える負担でも、長期的には年金資産に影響する可能性があります。
老後資産形成を促進する政策では、積立期間中の税制をどのように設計するかが重要になります。
なぜ撤廃要望が続くのか
生命保険協会は、企業年金制度や個人型確定拠出年金制度などの積立金に係る特別法人税について撤廃を求めています。
最大の理由は、課税停止を繰り返すのではなく、制度そのものをなくすことで将来の不確実性を解消したいという点にあります。
企業年金は長期間にわたる制度です。
会社や加入者が数十年先を見据えて老後資産を形成する中で
今は課税されないが将来復活する可能性がある
という状態が残ることは、制度設計上の不確実性になります。
特別法人税そのものを撤廃すれば、この不確実性をなくすことができます。
撤廃されなければ課税停止の延長を要望
生命保険協会は、特別法人税の撤廃だけを求めているわけではありません。
撤廃に至らない場合には、少なくとも現在の課税停止措置を延長するよう要望しています。
つまり、要望には二段階があります。
第一に、制度そのものを撤廃することです。
第二に、それが実現しないのであれば課税停止を継続することです。
企業年金の積立金に実際の税負担が生じる事態を避けたいという考え方が表れています。
公的年金を補完する私的年金の重要性
特別法人税の問題は、一つの税金を廃止するかどうかだけの問題ではありません。
背景には、日本の老後所得保障をどのように構築するのかという大きな課題があります。
少子高齢化が進む中、公的年金だけですべての老後生活費を保障するのは難しくなっています。
そのため
公的年金
企業年金
個人年金
個人の資産形成
を組み合わせることが重要になります。
政府が企業年金や確定拠出年金の普及を促すのであれば、その積立資産に対する税制も一貫したものにする必要があります。
特別法人税の撤廃要望が長く続いている背景には、こうした私的年金政策との関係があります。
課税停止と撤廃は大きく違う
現在課税されていないのであれば、撤廃しなくても同じではないかと思うかもしれません。
しかし、企業年金のような長期制度では大きな違いがあります。
課税停止は、将来的に課税が再開される可能性が制度上残っています。
撤廃は、その税金自体をなくすことです。
企業年金は数十年間の資金計画を立てて運営します。
将来の税制が不透明であれば、企業が年金制度を設計したり、加入者が老後資産を形成したりする際の不確実性になります。
その意味でも、特別法人税をどうするのかは長期的な年金政策として考える必要があります。
結論
特別法人税は、企業年金などの積立金に対して課税する制度です。
通常の法人税が企業の所得に課税するのに対して、特別法人税は一定の年金積立金を基準として課税するという特徴があります。
ただし、現在は長年にわたって課税停止措置が続いており、実際には課税されていません。
それでも制度そのものが残っている以上、将来的な課税再開の可能性を完全には排除できません。
生命保険協会は令和9年度税制改正要望で、確定給付企業年金や企業型確定拠出年金、個人型確定拠出年金などの積立金に係る特別法人税を撤廃するよう求めています。
撤廃に至らない場合でも、課税停止措置の延長を求めています。
公的年金を企業年金や個人年金で補完し、国民自身の老後資産形成を促すのであれば、その積立資産に課税する制度を残しておくべきなのか。
特別法人税の問題は、日本の老後所得保障をどのような税制で支えるのかという問題でもあります。
参考
税のしるべ 2026年8月3日 生保協会が9年度税制改正で要望、子育て世帯に対する生命保険料控除拡充の恒久化を