税制頼みの商品は長続きするのか 制度改正で消える市場と残る市場

税理士
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税制上のメリットをきっかけに、短期間で大きな市場が生まれることがあります。

相続税や贈与税の節税手段として広がった不動産小口化商品は、その典型例といえるでしょう。

市場規模はこの5年ほどで急拡大し、年間約3,000億円に達するとみられています。

ところが、2027年1月から相続税や贈与税の評価方法が見直される方向となり、状況は一変しました。

販売額が半減する企業や、事業そのものから撤退する企業も出ています。

今回の事例は、税制によって成長した市場が抱える大きなリスクを示しています。

税制は新しい需要を生み出す

税制には、人や企業の行動を変える力があります。

税負担が軽くなる制度があれば、その制度を利用するために資金が動きます。

企業も、その需要に応える商品やサービスを開発します。

不動産小口化商品も、本来は高額な不動産へ比較的少額から投資できる仕組みです。

しかし、市場拡大を強く後押ししたのが相続税や贈与税の評価圧縮効果でした。

現金を不動産小口化商品へ変えることで、税務上の評価額を大幅に下げられるケースがあったからです。

節税という経済的メリットが新しい需要を生み出したわけです。

3,000万円が484万円になるインパクト

国税庁が示した事例では、3,000万円で購入した不動産小口化商品が贈与税では484万円と評価されました。

購入価格の約16%です。

現金のまま3,000万円を贈与した場合と比較すると、贈与税は438万円少ない5万円に抑えられました。

これほど大きな差が生じれば、商品に対する需要が増えるのは当然でしょう。

投資家にとっては、不動産から得られる賃料収入だけが利益ではありません。

税負担が減ること自体が大きな経済的メリットになります。

その結果、節税効果を前提とした市場が形成されていきました。

税制によって生まれた需要には弱点がある

しかし、税制によって生まれた需要には大きな弱点があります。

制度が変われば需要も変わることです。

通常の商品であれば、顧客が商品そのものに価値を感じている限り需要は残ります。

一方、税制上のメリットが購入理由の中心になっている商品では、そのメリットがなくなった瞬間に購入理由もなくなります。

不動産小口化商品では、この問題が一気に表面化しました。

ボルテックスでは、顧客の約7割が節税目的だったとされています。

この数字からも、制度変更の影響が極めて大きいことが分かります。

企業業績はすでに大きく変わっている

制度改正は2027年1月からの予定ですが、関連企業の業績にはすでに影響が出ています。

FPGは2026年9月期、小口化商品を中心とする国内不動産ファンド事業の販売額を前期比47%減の505億円と見込んでいます。

ADワークスグループは2026年12月期の小口化商品売上高を前期比78%減の50億円と見込んでいます。

ボルテックスも2027年3月期に小口化商品の売上高が半減する見通しです。

フェイスネットワークは小口化商品の販売自体を取りやめました。

制度が正式に変わる前から市場が縮小している点が重要です。

顧客も企業も将来の制度変更を先取りして行動するからです。

制度変更リスクは突然表面化する

税制に依存するビジネスの難しさは、現在の業績だけを見てもリスクが分かりにくいことです。

節税需要が拡大している間は、売上高も利益も伸びます。

市場規模も大きくなります。

新しい事業者も参入します。

この時期だけを見れば、非常に成長性の高い市場に見えるでしょう。

しかし、その需要の源泉が税制にある場合、制度変更によって成長の前提が一気に崩れる可能性があります。

昨日まで成長市場だった分野が、制度改正の発表だけで縮小市場へ変わることもあります。

なぜ制度は改正されるのか

税制上のメリットが存在するからといって、必ず規制されるわけではありません。

政策目的を実現するため、政府が意図的に税制優遇を設けることもあります。

問題になるのは、制度の本来の趣旨を超えて利用が拡大した場合です。

特に実際の経済価値と税務上の評価額との間に極端な差が生じ、それによって大きな税負担の差が生まれれば、課税の公平性が問題になります。

不動産小口化商品の評価見直しも、この観点から考えると理解しやすくなります。

制度上認められている仕組みでも、利用が急拡大すれば制度そのものが見直される可能性があります。

企業は税制以外の価値を持てるか

税制改正後に生き残る企業と苦戦する企業を分けるのは、税制以外の競争力です。

不動産小口化商品であれば、本来の商品価値は不動産そのものにあります。

優良な不動産を取得できる。

安定した賃料を確保できる。

建物を適切に管理できる。

投資家へ十分な情報を提供できる。

適切な価格で売却できる。

こうした能力があれば、節税効果が縮小しても顧客を獲得できる可能性があります。

反対に「税金が減ります」ということだけが商品の魅力であれば、制度改正後に顧客を引き留めることは難しくなります。

投資家も企業の売上高の中身を見る必要がある

この問題は、企業へ投資する株主にとっても重要です。

売上高が急成長している企業を見ると、その成長率に目が向きます。

しかし、重要なのは「なぜ売上高が伸びているのか」です。

顧客が商品そのものを評価しているのか。

税制優遇によって需要が生まれているのか。

補助金によって需要が増えているのか。

規制によって競争相手が少ないのか。

同じ100億円の売上高でも、その背景によって持続可能性は大きく異なります。

制度に依存した売上高には、制度変更リスクが含まれています。

顧客も制度変更を考えて商品を選ぶ

これは商品を購入する側にも当てはまります。

「今なら税金が減ります」

「現在の制度なら有利です」

こうした説明だけで数千万円の商品を購入することには注意が必要です。

税制は将来変わる可能性があります。

そこで重要になるのが、税制上のメリットがなくなった場合を想定することです。

節税できなくても購入したい商品なのか。

税制が変わっても保有を続けたい資産なのか。

第三者に適正な価格で売却できるのか。

この視点を持てば、制度だけに依存した商品を見分けやすくなります。

制度が変わっても残る市場は強い

税制改正によって需要が減ったとしても、不動産小口化市場そのものが消えるとは限りません。

少額から大型不動産へ投資したいという需要は残ります。

不動産管理を事業者へ任せたい人もいるでしょう。

複数の不動産へ資産を分散したい人もいます。

こうした需要は税制が生み出したものではありません。

投資家が本来持っている需要です。

その需要に応えられる商品であれば、市場規模が縮小した後も生き残る可能性があります。

むしろ節税需要が消えた後に残る市場こそ、その商品の本当の市場規模なのかもしれません。

制度に乗ることと制度に依存することは違う

企業にとって、税制や政策を事業機会として活用すること自体は問題ではありません。

制度変更によって生まれた新しい需要を取り込むことは、重要な経営戦略です。

ただし、制度を利用することと、制度だけに依存することは違います。

制度がある間に顧客を増やし、その顧客へ別の価値を提供できる事業へ発展させる。

税制優遇がなくなっても購入される商品へ改善する。

こうした転換ができる企業は、制度変更にも対応できます。

今回の不動産小口化市場では、まさにその企業力が試されています。

結論

不動産小口化商品市場の急拡大と急減速は、税制に依存するビジネスの特徴を分かりやすく示しています。

税制は巨大な需要を生み出すことがあります。

しかし、その需要は制度変更によって急速に消えることもあります。

重要なのは、制度によって顧客を集めた後に、制度とは関係のない価値を提供できるかどうかです。

不動産小口化商品なら、節税効果ではなく不動産そのものの収益力が問われます。

企業を見る場合も、商品を選ぶ場合も、「今どれだけ売れているか」だけを見るのでは十分ではありません。

なぜ売れているのか。

制度が変わっても売れるのか。

この2つの問いを加えるだけで、ビジネスの見え方は大きく変わります。

税制によって生まれる市場はあります。

しかし、税制が変わっても残る市場こそ、本当に強い市場なのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 相続節税の不動産小口化、ルール改正で需要消失 FPGなど戦略転換

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