税制改正要望とは何か 各省庁が毎年税金の新設や延長を財務省へ求める仕組み編

税理士
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

税金の制度は、一度決めたら永久に同じというわけではありません。

毎年のように、新しい税制優遇が作られたり、既存の制度が延長されたり、反対に廃止されたりします。

その出発点の一つとなるのが「税制改正要望」です。

経済産業省や国土交通省、こども家庭庁などの各省庁が、自分たちが担当する政策を進めるため、税制をどのように変えてほしいかを政府内で要望します。

参考記事で、日本版DOGEによる見直し結果が2027年度税制改正要望にどの程度反映されたのかが注目されたのも、この要望がその後の税制改正につながる重要な手続きだからです。

税制改正要望とは何か

税制改正要望とは、各省庁などが次年度の税制について、新設、拡充、延長、縮減、廃止などを求めるものです。

例えば経済産業省が、

企業の設備投資を増やしたい

と考えたとします。

補助金を用意する方法もありますが、一定の設備を導入した企業の法人税を軽くする方法も考えられます。

後者を実現するには税制を変更する必要があります。

そこで税制改正要望として、新しい優遇制度などを求めます。

つまり各省庁が政策を実現するための手段として、税制の変更を提案する仕組みです。

新しい税制を作る要望だけではない

税制改正要望という言葉からは、新しい減税制度を作ることを想像しやすいかもしれません。

しかし、要望の内容は新設だけではありません。

既存制度の適用期限が近づいている場合には、

制度を延長してほしい

という要望が出されます。

政策環境が変われば、

対象企業を広げたい

優遇内容を変更したい

要件を厳しくしたい

といった要望も考えられます。

反対に政策の必要性が低下した制度については、廃止を求める場合もあります。

したがって税制改正要望を見ると、各省庁がどの税制を残し、どの税制を変えようとしているのかが見えてきます。

なぜ各省庁が要望するのか

法人税や所得税などの税制そのものを所管する役所と、個別の政策分野を担当する役所は必ずしも同じではありません。

例えば企業の産業政策については経済産業省が詳しいでしょう。

住宅政策については国土交通省が担当します。

子育て政策についてはこども家庭庁などが関係します。

それぞれの省庁は、

自分たちの政策目的を達成するにはどのような税制が必要なのか

を考えます。

その結果を税制改正要望として示します。

各政策分野を担当する省庁から税制上のニーズを集める仕組みと考えると分かりやすくなります。

補助金の要求とは何が違うのか

企業を支援する場合、各省庁は補助金を使うこともできます。

補助金であれば、国の予算として支出します。

例えば100億円の補助金を作れば、原則として100億円の歳出が予算に計上されます。

一方、税制優遇は企業の税負担を軽くします。

政府から直接100億円を支給するのではなく、本来得られる税収を減らすことで企業を支援します。

したがって政策を実現するためには、

予算としてお金を出すのか

税金を安くするのか

という二つの方法があります。

税制改正要望は後者を実現するための重要な手続きです。

財務省との調整が必要になる

各省庁が税制改正を要望したからといって、そのまま実現するわけではありません。

税制優遇を新しく作ったり拡充したりすれば、国の税収が減る可能性があります。

そのため財政全体との調整が必要です。

例えばある省庁が、

この減税によって設備投資が増えます

と主張したとします。

それに対して、

どれくらいの税収減になるのか

本当に企業行動を変えるのか

既存制度では対応できないのか

対象が広すぎないか

といった点が検討されます。

税制優遇には政策上のメリットがある一方、財政コストもあるためです。

延長要望では政策効果が問われる

特に重要なのが、適用期限を迎える租税特別措置です。

ある制度を数年間実施したのであれば、延長を求める前に、

実際にどれだけ利用されたのか

政策目標は達成されたのか

税収減はいくらだったのか

制度がなければ企業はどう行動していたのか

などを検証することが重要です。

本来なら、

以前からある制度だから延長する

ではなく、

政策効果が確認できたから延長する

という順番になるべきです。

税制改正要望は、期限付きの税制優遇について必要性を改めて確認する機会でもあります。

廃止要望にも意味がある

税制改正要望では、既存制度の廃止を求めることもできます。

例えば制度を作ったものの利用実績がほとんどなければ、制度を残す必要性は低いかもしれません。

政策目的そのものがなくなっている場合もあります。

参考記事では、日本版DOGEによる点検を経て、2027年度税制改正要望で廃止要望となった税制優遇は3件でした。

その一つとして、一定の中堅・中小企業の特別な事業再編にかかる登録免許税を軽減する制度が紹介されています。

2024年度に始まって以降、利用実績がありませんでした。

こうした制度について廃止要望を出すことは、税制を整理する意味があります。

なぜ3件しか廃止要望が出なかったのか

参考記事で注目されているのは、約120件の税制優遇を点検しながら、正式な廃止要望が3件にとどまったことです。

ここには税制改正要望の難しさが表れています。

税制優遇を所管する省庁は、その制度を使って政策を進める立場でもあります。

つまり、

制度を推進する立場

制度を廃止するか評価する立場

が同じになる場合があります。

政策目的が残っていると判断すれば、廃止より延長を選びやすくなる可能性があります。

自主点検だけで大規模な整理を進めることが難しい理由の一つです。

税制改正要望は最終決定ではない

ここで注意したいのは、税制改正要望は最終的な税制改正そのものではないということです。

各省庁から要望が提出された後も、政府や与党などによる調整が続きます。

要望どおり実現するものもあれば、内容が縮小されたり、見送られたりするものもあります。

その後、必要な法改正などを経て実際の制度になります。

したがって、

税制改正要望

最終的に決まった税制

は区別して見る必要があります。

新聞で税制改正要望の記事を読む場合にも、この点は重要です。

年末の税制改正につながっていく

税制改正の議論は、毎年一定の流れで進みます。

各省庁から要望が出され、それぞれの制度について必要性や財政への影響などが検討されます。

その後、年末に向けて翌年度の税制改正の内容が固まっていきます。

さらに法律改正が必要なものについては、法案として国会で審議されます。

つまり税制改正要望は、

翌年度の税制をどう変えるか

という長いプロセスの入口に位置しています。

要望段階を見ることで、次の税制改正で何が論点になりそうなのかを早い段階で知ることができます。

日本版DOGEでは要望段階が重要になる

日本版DOGEが税制優遇を見直すのであれば、実際の税制改正にその結果を反映させなければ意味がありません。

政府が点検を実施しても、各省庁が従来どおり延長要望を出し続ければ制度は残りやすくなります。

参考記事では、財務相が各省庁に対して点検結果を税制改正要望へ反映するよう求めたものの、廃止要望は3件にとどまりました。

ここから分かるのは、

点検すること

制度を実際に廃止すること

の間には大きな距離があるということです。

日本版DOGEの成果を見るには、会議や点検の件数だけでなく、その結果が税制改正要望、そして最終的な税制改正へどこまで反映されたかを見る必要があります。

結論

税制改正要望とは、各省庁などが翌年度の税制について、新設、拡充、延長、縮減、廃止などを求める仕組みです。

各省庁は、自分たちが担当する政策を進めるために必要な税制を要望します。

しかし税制優遇を作ったり延長したりすれば、政府の税収が減る可能性があります。

そのため政策上の必要性だけでなく、財政への影響や政策効果も検討する必要があります。

特に期限を迎える租税特別措置については、税制改正要望が制度を見直す重要な機会になります。

日本版DOGEで約120件を点検しても廃止要望が3件にとどまったという事実は、制度を所管する省庁自身による見直しの難しさを示しています。

税制改正要望は単なる役所の手続きではありません。

どの税制優遇を残し、どの制度を見直すのかという政府の政策判断が具体的な形になり始める重要な入口なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月4日朝刊「日本版DOGE、税優遇廃止は3件どまり 財源捻出、年10万円」

タイトルとURLをコピーしました