税制優遇を廃止すると税収は必ず増えるのか 企業行動が変われば想定どおり財源が生まれない理由編

税理士
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ある税制優遇によって、国の税収が年間1000億円減っているとします。

それなら、この税制優遇を廃止すれば1000億円の財源が生まれるように思えます。

しかし、必ずしもそうなるとは限りません。

税制が変われば企業や個人の行動も変わる可能性があるからです。

設備投資に対する優遇をなくせば、設備投資そのものが減るかもしれません。

企業利益が変化すれば法人税収にも影響します。

企業が別の税制優遇を利用するようになる可能性もあります。

税制優遇の廃止によって生まれる財源を考えるときには、現在の減収額をそのまま財源として数えるのではなく、制度廃止後の企業行動まで考える必要があります。

日本版DOGEによる租税特別措置の見直しでも、この点は重要になります。

税制優遇による減収額とは何か

税制優遇があると、本来の税制を適用した場合より政府の税収が少なくなります。

例えば、ある税額控除によって企業全体の法人税負担が年間1000億円軽くなっているとします。

単純化すれば、

この税制優遇による減収額は1000億円

と考えることができます。

そこで、

制度を廃止すれば1000億円の税収が戻ってくる

と考えたくなります。

しかし、この計算には一つ重要な前提があります。

制度を廃止しても企業の行動が何も変わらないという前提です。

静態的な税収試算とは何か

企業や個人の行動が変わらないと仮定して税収への影響を計算する方法を、静態的な試算として考えることができます。

例えば1000社がそれぞれ1億円の税額控除を利用しているとします。

単純化すると、減税総額は1000億円です。

企業の利益や設備投資などが一切変わらないと仮定すれば、制度廃止によって1000億円の税収が増えると計算できます。

計算としては分かりやすい方法です。

しかし現実の企業は、税制が変わっても同じ行動を続けるとは限りません。

そこで実際の財源効果を考えるには、もう一段深く見る必要があります。

税制が変われば企業行動も変わる

税制優遇は、企業の行動を変えることを目的として作られている場合があります。

例えば設備投資減税なら、

設備投資をすれば税負担が軽くなる

という条件を設けることで投資を促します。

それなら制度を廃止すれば、反対方向の変化が起きる可能性があります。

税負担軽減がなくなることで、予定していた設備投資を縮小する企業が出るかもしれません。

投資時期を先送りする企業もあるでしょう。

税制優遇が企業行動に本当に影響していたのであれば、廃止時にも企業行動が変化する可能性があるのです。

設備投資が減ると何が起きるのか

例えば設備投資減税を廃止した結果、企業の設備投資が減ったとします。

短期的には税額控除がなくなるため、法人税収は増える方向に働きます。

しかし設備投資が減れば、新しい機械や工場などへの支出も減ります。

その結果、生産能力や生産性の向上が小さくなる可能性があります。

将来の企業利益が減れば、将来の法人税収にも影響するかもしれません。

設備を供給する企業の売上が減れば、そこからさらに経済全体へ影響が広がる可能性もあります。

つまり税制優遇廃止による財政効果は、

税額控除がなくなることで増える税収

だけを見ればよいわけではありません。

逆に税収が想定以上に増える可能性もある

企業行動の変化は、必ず税収を減らす方向に働くとは限りません。

例えば政策効果の乏しい税制優遇を廃止したとします。

企業が減税なしでも同じ設備投資を続けるのであれば、税額控除だけがなくなります。

この場合には比較的そのまま税収増につながる可能性があります。

また税制が簡素化されることで、企業が税制上の優遇を得るためだけに行っていた非効率な行動をやめることも考えられます。

資金がより生産性の高い分野へ移れば、長期的には経済活動や税収にプラスになる可能性もあります。

制度廃止の影響は一方向とは限らないのです。

別の税制優遇へ移る可能性もある

企業は一つの税制だけを見て行動しているわけではありません。

複数の税制優遇が利用できる場合があります。

例えばある設備投資減税が廃止されたとします。

企業が別の設備投資関連の優遇制度の要件を満たしていれば、そちらを利用するかもしれません。

すると一つの租特を廃止しても、想定していたほど税収が増えない可能性があります。

税制優遇を見直す場合には、制度を一つずつ独立して見るだけでなく、似た政策目的を持つ他制度との関係も確認する必要があります。

税収増と増税額は同じではない

税制優遇を廃止すると、対象企業の税負担は増えます。

しかし、

企業の税負担増加額

政府の最終的な税収増加額

が完全に一致するとは限りません。

企業の利益や投資、雇用、賃金などが変化すれば、法人税だけでなく所得税や消費税などにも影響する可能性があるからです。

例えば企業が税負担増加に対応して投資を削減すれば、設備を販売する企業の利益にも影響する可能性があります。

一つの税制変更が経済全体を通じて複数の税目へ波及することがあります。

財源額は将来予測である

税制優遇を廃止して、

年間500億円の財源を確保する

と試算したとしても、その500億円は将来の税収についての予測です。

実際の税収は、

企業利益

景気

物価

金利

為替

企業の投資行動

など多くの要因によって変化します。

そのため税制改正前に示される財源額は、一定の前提に基づいた推計と考える必要があります。

実際に制度を廃止した後の税収が、事前の試算と完全に一致するとは限りません。

政策効果が高い制度ほど慎重な検討が必要

仮に年間1000億円の税収減を伴う税制優遇があったとします。

その制度に政策効果がほとんどなく、企業が減税なしでも同じ行動をしているのであれば、廃止によって比較的大きな財源を得られる可能性があります。

一方、その税制優遇によって企業の設備投資や研究開発が大きく増えているのであれば、廃止による企業行動への影響も大きくなる可能性があります。

つまり、

減収額が大きいから廃止すればよい

とは単純に言えません。

減収額と政策効果を同時に見る必要があります。

財源目的だけで廃止すると問題が起きる

日本版DOGEには、政策効果の乏しい減税策や補助金を見直し、財源を生み出す役割が期待されています。

ここで順番が重要です。

まず、

政策効果が乏しい制度を見つける

ことが必要です。

そのうえで、

廃止するとどれだけ税収が回復するか

を考えます。

先に必要な財源額を決め、

1000億円必要だから1000億円分の租特を廃止する

という考え方だけでは、政策効果の高い制度まで削る可能性があります。

財源確保と政策評価を切り離さないことが重要です。

廃止による影響を事後検証することも重要

税制優遇を廃止したら、それで政策評価が終わるわけではありません。

実際に、

税収はいくら増えたのか

企業の設備投資は変わったのか

研究開発や雇用に影響したのか

当初の財源見込みとどれくらい違ったのか

を確認することが重要です。

事前の予測と実際の結果を比較すれば、将来の税制改正にも役立ちます。

日本版DOGEを一度限りの制度整理ではなく継続的な改革にするのであれば、廃止後の検証まで行う必要があります。

日本版DOGEで財源を考える際の注意点

参考記事では、日本版DOGEによる点検を経て廃止要望となった3件について、金額を把握できる範囲で生まれる財源は年間約10万円とされています。

一方、法人税関係の租税特別措置による減収額は2024年度に約3.2兆円です。

この3.2兆円を見て、

すべて廃止すれば3.2兆円の財源が生まれる

と単純に考えることはできません。

制度によって政策目的も企業行動への影響も異なります。

さらに廃止後の企業行動が変われば、実際の税収への影響も変化します。

減収額と廃止によって実際に生まれる財源は、同じものではないのです。

結論

税制優遇を廃止すれば、本来軽減されていた税負担が戻るため、税収は増える方向に働きます。

しかし現在の減収額が、そのまま廃止後の財源になるとは限りません。

税制が変われば企業の設備投資や研究開発、雇用などが変化する可能性があり、それが企業利益や他の税収にも影響するからです。

そのため税制優遇廃止による財源を考えるときには、

企業行動が変わらない場合の単純な試算

企業行動の変化まで考えた実際の財政効果

を分けて考える必要があります。

日本版DOGEが大規模な租特改革へ進むのであれば、減収額の大きさだけを見て廃止対象を選ぶのではなく、政策効果と企業行動への影響を検証することが重要です。

税制優遇による現在の減収額は、廃止すれば必ず手に入る現金ではありません。

財源額とは、企業や経済がどう反応するかによって変わる将来の推計値でもあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月4日朝刊「日本版DOGE、税優遇廃止は3件どまり 財源捻出、年10万円」

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