社会保障負担率の引き下げへ動き出す全世代型社会保障改革――高齢者医療の給付抑制と現役世代の負担軽減を考える

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政府は2026年11月5日、有識者による「全世代型社会保障構築会議」を約1年4カ月ぶりに再開しました。

今回の会議で重要なテーマとなったのは、現役世代の社会保険料負担を軽減し、社会保障負担率を引き下げることです。

少子高齢化が進む日本では、医療・介護・年金などの社会保障制度を維持するための費用が大きな課題となっています。

一方で、現役世代の負担を増やし続ければ、家計の可処分所得が減少し、消費や子育て、将来への資産形成にも影響します。

今回の改革では、高齢者の医療費窓口負担の見直し、所得や資産に応じた負担、医療提供体制の効率化などが検討されます。

税理士・FPの視点から、社会保障負担率の仕組み、改革の方向性、家計や老後生活への影響を整理します。

社会保障負担率とは何か

社会保障負担率とは、国民所得に対する社会保険料負担の割合を示す指標です。

具体的には、国民年金や厚生年金、健康保険、介護保険などの社会保険料が、国民所得全体に対してどの程度の割合を占めているかを表します。

2026年度の社会保障負担率は17.6%と見込まれています。

過去の推移を見ると、2020年度には19.4%まで上昇しましたが、その後は低下傾向にあります。

ただし、2015年度の16.9%と比較すると、依然として高い水準です。

ここで注意したいのは、社会保障負担率と国民負担率は異なるという点です。

国民負担率は、税負担と社会保障負担を合わせた割合です。

社会保障負担率が低下しても、税負担が増えれば国民負担率が必ずしも低下するとは限りません。

また、社会保障負担率が低下したとしても、個々の会社員や年金受給者の保険料が同じ割合で減少するわけではありません。

制度改革の効果を判断する際には、国全体の負担率だけでなく、世代別・所得階層別の負担にも目を向ける必要があります。

2040年度に向けた社会保障改革の効果

今回の議論では、2040年度を見据えた社会保障負担率の試算が注目されています。

法政大学の小黒一正教授の試算によると、経済成長が進んでも社会保障改革が実施されない場合、2040年度の社会保障負担率は17.5%になるとされています。

一方、経済成長と社会保障改革の双方が実現した場合には、16.9%まで低下する可能性があります。

両者の差は0.6ポイントです。

一見すると小さな差に感じられますが、国民所得全体に対する割合であるため、社会全体では大きな金額になります。

試算では、医療・介護費用の伸びを年0.6%抑制する改革効果が織り込まれています。

ただし、これは一定の経済成長や改革の実現を前提とした試算であり、将来の負担率が確定したものではありません。

重要なのは、経済成長だけでも、給付抑制だけでも、持続可能な社会保障制度を実現することは難しいという点です。

経済成長によって国民所得を増やしながら、医療・介護サービスの効率化を進める必要があります。

高齢者の医療費窓口負担の見直し

社会保障改革の中心的な論点の一つが、高齢者の医療費窓口負担です。

現在の医療保険制度では、原則として次の負担割合が適用されています。

  • 70歳未満:3割
  • 70~74歳:2割
  • 75歳以上:1割

ただし、所得に応じて例外があります。

70歳以上でも現役並み所得がある人は原則3割負担となり、75歳以上でも一定以上の所得がある人は2割負担となります。

自民党と日本維新の会は、70歳以上の窓口負担の引き上げについて、2026年内をめどに一定の結論を出す方針です。

仮に窓口負担が1割から2割に引き上げられれば、単純計算では同じ保険診療を受けた場合の窓口支払額は2倍になります。

例えば、医療費総額が10,000円の場合、1割負担では1,000円、2割負担では2,000円です。

ただし、実際には高額療養費制度などによる負担上限があるため、すべての患者の年間医療費負担が単純に2倍になるわけではありません。

特に、慢性疾患を抱える高齢者や継続的な治療が必要な人への影響については、慎重な検討が求められます。

現役世代が支える後期高齢者医療制度

75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度は、高齢者本人の保険料だけで運営されているわけではありません。

患者の窓口負担を除いた医療給付費について、公費、現役世代からの支援金、高齢者本人の保険料などで財源を確保しています。

このうち、現役世代の保険料から拠出される支援金が約4割を占めています。

つまり、現役世代が負担する健康保険料の一部は、高齢者医療を支えるために使われています。

少子高齢化によって現役世代の人数が減少し、高齢者の医療費が増加すれば、現役世代1人当たりの負担が重くなる可能性があります。

今回の改革では、この世代間の負担構造を見直すことが大きな課題となっています。

もっとも、高齢者の医療給付を削減すれば、それだけで社会全体の負担が軽くなるとは限りません。

必要な受診を控えた結果、病状が悪化し、将来的に医療費が増加する可能性もあります。

医療費の抑制と必要な医療へのアクセス確保を両立させることが重要です。

所得に応じた負担を求める応能負担の考え方

今回の社会保障改革では、「応能負担」という考え方が重視されています。

応能負担とは、年齢だけで一律に負担を決めるのではなく、所得や経済的な負担能力に応じて負担を求める仕組みです。

例えば、同じ75歳でも、公的年金だけで生活している人と、給与収入や多額の金融所得がある人では、経済的な状況が異なります。

そのため、年齢だけを基準として医療費の負担割合を決める制度には、見直しの余地があると考えられています。

ただし、所得が高いことと、自由に使える資金が十分にあることは必ずしも一致しません。

不動産所得があっても修繕費や借入金返済が多い場合や、金融所得が一時的に発生した場合など、個別の事情があります。

税理士・FPの立場からは、課税所得、社会保険料の算定所得、実際のキャッシュフローを区別して考える必要があります。

また、応能負担を強化する場合には、低所得者への配慮とともに、負担能力をどのように把握するかという制度設計が重要になります。

金融所得と高齢者医療の負担の関係

高齢者医療では、金融所得の取り扱いも重要な論点になっています。

現在、上場株式の配当所得や譲渡所得については、確定申告をするかどうかによって、社会保険料や医療費の窓口負担判定に影響が生じる場合があります。

源泉徴収ありの特定口座で申告不要を選択した金融所得は、原則として所得判定に反映されません。

一方、確定申告をした金融所得は、保険料や負担割合の判定に影響する場合があります。

こうした違いを是正するため、後期高齢者医療制度では、一定の金融所得を保険料算定や窓口負担割合の判定に反映させる仕組みの整備が進められています。

2026年10月に厚生労働省が示した案では、2029年1月の制度施行、同年8月からの反映が想定されています。

なお、NISA口座内の非課税所得は対象外とする方向です。

今後は、老後の資産運用について、所得税・住民税だけでなく、医療保険料や医療費の自己負担への影響も考慮する必要があります。

特に、退職後に株式や投資信託を売却する場合には、税負担と社会保障負担を一体として検討することが重要です。

医療提供体制の効率化と給付抑制

社会保障費の増加を抑える方法は、高齢者の自己負担を引き上げることだけではありません。

医療提供体制の効率化も重要です。

例えば、急性期医療を担う病院の機能を集約し、医療人材や設備を効率的に配置することが考えられます。

また、入院期間の適正化、在宅医療の充実、医療と介護の連携強化なども課題です。

ただし、病床数を減らすだけでは、地域によって必要な医療を受けにくくなる可能性があります。

人口減少が進む地域では、病院へのアクセスや救急医療体制の確保も欠かせません。

医療費の抑制は、単純な支出削減ではなく、限られた医療資源を有効に活用する改革として進める必要があります。

公費投入の拡大と税負担の問題

後期高齢者医療制度では、公費負担の仕組みにも課題があります。

現在、1割・2割負担の対象者については、医療給付費のおよそ半分を公費で賄う仕組みとなっています。

一方、現役並み所得者に係る医療給付費については、原則として同様の公費負担が行われません。

そのため、現役並み所得の高齢者が増加すると、現役世代からの支援金負担が増える要因となります。

この仕組みを見直し、公費投入を拡大することが議論されています。

ただし、公費とは税金を財源とするものです。

社会保険料の負担が減少しても、その分を税負担で補うのであれば、国民全体の負担が必ずしも軽くなるわけではありません。

社会保障改革では、保険料から税への財源移転と、医療・介護費用そのものの抑制を区別することが必要です。

高齢者の定義を見直す議論

今回の会議では、高齢者の定義そのものについても議論が行われました。

一般的に65歳以上を高齢者とする考え方が広く用いられていますが、健康状態や就業状況には大きな個人差があります。

65歳を超えても働き続ける人が増え、70歳以降も社会参加する人は珍しくありません。

一方で、同じ年齢でも健康状態や生活環境によって働くことが難しい人もいます。

そのため、年齢だけで高齢者を一律に区分することが適切なのかという問題があります。

ただし、高齢者の定義を見直すことと、年金支給開始年齢や医療制度の対象年齢を変更することは別の問題です。

定義の見直しが直ちに制度変更につながると考えるべきではありません。

健康寿命、就業率、所得、生活実態などの客観的なデータを踏まえた議論が求められます。

家計と老後資金計画への影響

社会保障改革は、現役世代と高齢世代の双方の家計に影響します。

現役世代にとっては、社会保険料の負担軽減が実現すれば、手取り収入の増加につながる可能性があります。

一方、高齢世代にとっては、医療費や介護費の自己負担が増える可能性があります。

そのため、老後資金計画では、現在の医療費負担が将来も続くと決めつけないことが重要です。

例えば、退職後の生活費を試算する際には、医療費・介護費について複数のケースを想定することが考えられます。

また、70歳以降も働く場合には、給与収入が医療費の窓口負担割合や保険料に与える影響を確認する必要があります。

金融資産を取り崩す場合も、預貯金の引き出しと、課税口座で保有する株式の売却では、所得判定への影響が異なります。

税金、社会保険料、医療費、介護費を別々に考えるのではなく、老後の家計全体として管理することが重要になります。

結論

全世代型社会保障構築会議の再開は、日本の社会保障制度が新たな改革段階に入ることを示しています。

今回の改革の中心にあるのは、現役世代の負担軽減と、高齢者の負担能力に応じた給付・負担の見直しです。

しかし、現役世代の負担を軽減するために高齢者の自己負担を増やすだけでは、世代間の対立を深める可能性があります。

必要なのは、経済成長による所得の拡大、医療・介護サービスの効率化、所得に応じた公平な負担、必要な人への給付の確保を組み合わせた改革です。

また、社会保障負担率の引き下げを評価する際には、税負担を含めた国民負担率や、世代別の実質的な負担にも目を向ける必要があります。

人生100年時代には、65歳や75歳という年齢だけで、支える側と支えられる側を区分することが難しくなっています。

働ける人が長く働き、負担能力のある人が適切に負担し、医療や介護を必要とする人が安心してサービスを受けられる制度が求められます。

税理士・FPとしても、今後の制度改正を継続的に確認しながら、税金と社会保障を一体として捉えた生活設計や老後資金計画を支援していくことが重要です。

社会保障改革は、単なる財政問題ではありません。

現役世代の生活、子育て世帯の将来、高齢者の安心、そして日本経済の持続可能性を左右する重要な課題です。

参考

日本経済新聞 2026年11月6日 朝刊「社会保障の負担率下げへ、全世代会議が再開 高齢者給付の抑制めざす」

厚生労働省「後期高齢者医療制度の概要」

内閣府「全世代型社会保障構築会議」関連資料

財務省「国民負担率の推移」

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