税務調査というと、法人税や所得税の調査を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、相続税や贈与税の調査には、所得税などとは異なる特徴があります。
その違いは、国税通則法に定められた質問検査権にも表れています。
相続税調査では、亡くなった方の財産だけではなく、その家族や取引相手、金融機関など、幅広い関係者への調査が必要になることがあります。そのため、質問検査権も相続税の特性に合わせた内容となっています。
今回は、相続税における質問検査権の特徴と、税理士が知っておくべき実務上のポイントについて解説します。
相続税調査は財産全体を確認する調査
法人税調査では、会社の売上や経費、帳簿などが中心になります。
一方、相続税調査では、
預貯金
不動産
株式
生命保険
貸付金
名義預金
贈与財産
など、被相続人が保有していた財産全体を確認します。
そのため、帳簿だけでは調査が完結することはほとんどありません。
さまざまな資料や関係者への確認を通じて、財産の全体像を把握することが重要になります。
調査対象となる関係者が広い
国税通則法では、相続税の質問検査権の対象となる者が具体的に列挙されています。
例えば、
相続人
受遺者
贈与を受けた人
債権者・債務者
株式を保有している法人
財産を保管している人
など、多くの関係者が対象となります。
これは、財産が被相続人一人だけでは把握できないケースが多いためです。
相続財産は、生前の取引や家族との資金移動など、多くの人との関係の中で形成されているからです。
徴収のためにも質問検査権が認められている
相続税の質問検査権には、所得税などには見られない特徴があります。
それは、
「徴収について必要があるとき」
にも質問検査権を行使できることです。
例えば、
延納
物納
納税資力
物納財産
などを確認するために調査が必要になることがあります。
相続税は納税額が高額になる場合も多く、延納や物納が認められる制度があるため、課税だけでなく徴収の場面でも調査権限が必要になるのです。
この点は、相続税ならではの特徴といえるでしょう。
公証人への確認制度も導入された
近年の法改正では、相続税調査における質問検査権がさらに充実しました。
一定の場合には、公証人が作成した公正証書についても、必要な範囲で確認できる制度が整備されています。
例えば、
公正証書遺言
一定の契約
などについて、公証人へ内容確認を行うことができるようになりました。
これは、相続財産や権利関係をより正確に把握するための制度です。
デジタル化や相続制度の変化に合わせて、税務調査の仕組みも少しずつ進化しています。
税理士には生前からの関与が求められる
相続税調査では、申告書だけを見ても判断できないことが多くあります。
例えば、
生前贈与
資金移動
預金管理
家族間の貸借
などは、生前から経緯を把握している税理士ほど適切に説明できます。
そのため、相続税申告だけを受任するのではなく、生前対策から継続して関与することが、税理士の大きな強みになります。
近年、「伴走型税理士」が求められる理由もここにあります。
経営者にも関係の深い制度
相続税調査は資産家だけの話ではありません。
中小企業経営者の場合、
自社株
役員貸付金
会社への貸付金
事業承継
などが相続財産となるケースが多くあります。
日頃から会社と個人のお金を明確に区分し、適切な記録を残しておくことが、将来の相続税調査への備えにもなります。
経営者にとって相続対策は、会社を次世代へ引き継ぐための経営課題でもあるのです。
結論
相続税の質問検査権は、所得税や法人税とは異なり、財産全体を把握するために幅広い関係者を対象としていることが特徴です。また、課税だけでなく徴収のためにも質問検査権が認められている点や、公証人への確認制度が整備された点など、相続税特有の制度が設けられています。
税理士には、相続発生後だけではなく、生前から財産の流れを把握し、適切な記録を残す支援が求められます。経営者も、自社株や事業承継を含めた相続対策を日頃から意識することが、将来の円滑な資産承継につながるでしょう。
参考
近畿税理士会「税法実務講座 税理士目線の国税通則法 No.3」講義資料
国税通則法第74条の3(当該職員の相続税等に関する調査等に係る質問検査権)