相続というと、多くの人は「親から子へ財産が受け継がれること」を思い浮かべます。
しかし現在の日本では、そのイメージと現実の間に大きなズレが生じています。
かつては親が60代や70代で亡くなり、子どもが30代や40代で財産を受け継ぐことも珍しくありませんでした。
ところが超高齢社会となった現在では、
・親が90歳前後
・子が60代から70代
という状況が増えています。
つまり、相続は「高齢者から高齢者への資産移転」になりつつあるのです。
今回は、この現象がなぜ起きているのか、そして今後の資産承継にどのような影響を与えるのかを考えてみます。
寿命の延伸がもたらした変化
最大の要因は平均寿命の延伸です。
戦後間もない頃の平均寿命は男性60歳前後、女性65歳前後でした。
しかし現在では、
・男性は80歳を超え
・女性は87歳前後
まで延びています。
さらに医療の進歩や生活環境の改善により、90歳を超えて生活する人も珍しくなくなりました。
寿命が延びること自体は喜ばしいことですが、その結果として相続が発生する時期も大幅に後ろへずれ込んでいるのです。
子どもも高齢化している
親の寿命が延びる一方で、子どもも年齢を重ねています。
例えば、
・親95歳
・子68歳
・孫40歳
という家族構成は十分にあり得ます。
この場合、相続財産を受け取る子ども自身が年金受給世代です。
住宅ローンや教育費の負担が最も重い時期はすでに終わっていることが多く、相続財産が人生の転機で活用される機会は少なくなります。
結果として、多額の資産が高齢者の間で移転するだけになってしまうのです。
資産が社会に循環しにくくなる問題
相続の高齢化は経済全体にも影響を与えます。
若い世代は、
・住宅購入
・子育て
・教育投資
・起業
などで資金を必要としています。
一方、高齢者は生活が安定している場合が多く、消費や投資の機会も限られます。
そのため、資産が高齢者層に集中すると、お金が社会の中で動きにくくなります。
日本で生前贈与や教育資金贈与などの制度が整備されている背景には、このような資産循環の問題もあると考えられます。
なぜ政府は生前贈与を促進するのか
近年の税制改正を見ると、
・教育資金贈与
・住宅取得等資金贈与
・結婚・子育て資金贈与
・相続時精算課税制度の見直し
など、生前の資産移転を後押しする制度が目立ちます。
その理由の一つは、若い世代へ早期に資産を移転することで経済活動を活性化させるためです。
親が90歳で亡くなってから財産を受け継ぐよりも、子どもが40代や50代のうちに住宅購入や教育費に活用した方が社会全体としては資産が有効活用されやすくなります。
税制は単なる課税ルールではなく、社会のあり方を反映する政策でもあるのです。
相続税と贈与税の一体化が進む理由
令和5年度税制改正では、生前贈与加算期間が3年から7年へ延長されました。
一方で、相続時精算課税制度には年間110万円の基礎控除が新設されました。
一見すると矛盾する改正のように見えます。
しかし、その背景には、
「相続と贈与を一体的に考える」
という考え方があります。
政府は単に節税目的の駆け込み贈与を防ぎながら、本当に必要な資産移転は促進したいと考えているのです。
今後もこの流れは続く可能性があります。
これからは三世代承継の時代か
今後は親子だけではなく、
・親
・子
・孫
の三世代を意識した資産承継が重要になるかもしれません。
例えば、
・孫の教育費支援
・住宅取得支援
・起業支援
などは、若い世代ほど効果が大きくなります。
資産を最後まで抱え続けるのではなく、必要な時期に必要な世代へ移転するという考え方が広がる可能性があります。
これは単なる節税対策ではなく、家族全体の資産戦略ともいえるでしょう。
人生100年時代の相続観
これまでの相続対策は、
「どうやって相続税を減らすか」
が中心でした。
しかし人生100年時代には、
「どうやって資産を活かすか」
という視点が欠かせません。
相続税を減らすことが目的ではなく、家族全体の人生設計の中で資産をどのように使うのかを考える必要があります。
財産は保有すること自体が目的ではありません。
社会や家族の中で活用されてこそ価値を生みます。
超高齢社会は、私たちに相続の考え方そのものの見直しを求めているのかもしれません。
結論
日本では平均寿命の延伸によって、相続は「高齢者から高齢者への資産移転」という性格を強めています。
その結果、財産を必要とする時期と受け取る時期のズレが拡大し、資産が社会に循環しにくくなるという課題が生じています。
近年の生前贈与制度や相続税・贈与税の見直しは、こうした社会構造の変化への対応とも考えられます。
人生100年時代の相続対策は、単なる節税ではなく、家族全体の資産承継や世代間の資産循環をどう実現するかという視点がますます重要になっていくのではないでしょうか。
参考
・内閣府「令和7年版高齢社会白書」
・厚生労働省「令和7年簡易生命表」
・国税庁「相続税及び贈与税のあらまし」
・財務省「令和5年度税制改正の解説(資産課税関係)」
・税のしるべ 2026年6月1日号「7年分贈与税の確定申告状況、相続時精算課税の適用は微減の7万7000人」