会社員として長く働いていると、一定の年齢になれば管理職を目指すのが一般的なキャリアだと考えられがちです。
担当者から主任、係長、課長、部長へと昇進していくことが、これまでの典型的な会社員のキャリアでした。
しかし、すべての人が管理職に向いているわけではありません。
人を管理することより、自分の専門分野を深く掘り下げることに力を発揮する人もいます。
生成AIが普及するこれからの時代には、こうした専門職として働き続けるキャリアが、これまで以上に重要になる可能性があります。
管理職になることだけが昇進ではない
従来の日本企業では、仕事ができる人を管理職に昇進させることが一般的でした。
経理担当者として優秀であれば経理課長になり、その後は経理部長を目指すといったキャリアです。
しかし、経理実務に詳しいことと、人や組織を管理する能力は必ずしも同じではありません。
専門的な仕事を続けたい人にとっては、管理職になることで自分が得意としてきた実務から離れてしまうこともあります。
元の記事でも、キャリアについて「スペシャリストか、マネジメントか」という考え方が取り上げられています。
生成AI時代には、この二つを明確に別のキャリアとして考えることが、より重要になっていくでしょう。
専門職というキャリアがある
専門職とは、部下を管理することではなく、自分の専門知識や技術によって組織に貢献する働き方です。
経理で考えれば、連結決算、税効果会計、企業結合、開示、国際会計基準など、特定の分野について深い知識を持つ人が考えられます。
こうした専門家は、大勢の部下を持っていなくても会社にとって重要な存在です。
難しい会計処理が発生したときに相談される。
新しい会計基準が導入されたときに社内の対応を考える。
監査法人との専門的な議論を担当する。
現場で判断できない問題について結論を出す。
こうした役割は、管理職とは異なる形で会社を支えています。
専門知識そのものを会社への貢献に変えるキャリアです。
生成AIによって定型的な仕事は減っていく
生成AIが普及すると、これまで人間が行ってきた仕事の一部を生成AIが担当するようになります。
情報を整理する。
文章のたたき台を作る。
一般的な制度について調べる。
資料を要約する。
こうした仕事は、すでに生成AIによって大幅に効率化できるようになっています。
元の記事でも、大まかな答えは生成AIでも出せるようになる一方で、最後に数字の正しさに責任を持つのは人間だという考え方が示されています。
つまり、人間の仕事がすべてなくなるというより、仕事の中身が変わっていくと考えた方がよいでしょう。
定型的な作業の割合が減り、人間には判断の難しい仕事が残ります。
複雑な問題を解決できる人の価値が高まる
実務では、教科書を調べるだけでは答えが出ない問題が数多くあります。
例えば、複雑な契約についてどのような会計処理をするのか。
新しい取引について既存の会計基準をどのように当てはめるのか。
複数の処理方法が考えられる場合にどれを選ぶのか。
こうした問題について、生成AIは参考になる情報を提示してくれるかもしれません。
しかし、最終的な判断には専門知識が必要です。
元の記事では、生成AIが提示した処理について「この会計基準の解釈はおかしい」「この結論はおかしいはずだ」と自分の頭で判断するためには、体系的な知識という土台が欠かせないと説明されています。
生成AIが高度になるほど、人間には生成AIが処理できない部分を担当する能力が求められるようになります。
その中心にあるのが専門的な判断です。
あの人に聞けば分かるという信頼が価値になる
専門職として長く働くために重要なのは、単に資格を持っていることではありません。
社内で信頼されることです。
難しい問題が発生したとき、
あの人に聞いてみよう。
あの人なら過去の事例を知っている。
あの人なら正しい判断ができる。
そう思ってもらえる存在になることです。
元の記事でも、たとえ管理職にならなくても「あの人に聞けばこの複雑な処理の正解がわかる」という信頼があれば、どんな環境でも必要とされるという考え方が示されています。
これは専門職として働くうえで非常に重要な考え方です。
役職ではなく、専門性そのものが自分の社内価値になります。
専門家には知識を更新し続ける責任がある
ただし、専門職として働く道にも厳しさがあります。
専門家を名乗る以上、その分野について常に新しい知識を身につけなければなりません。
制度は変わります。
税制も変わります。
会計基準も変わります。
そして生成AIをはじめとする技術も変化します。
数年前に身につけた知識だけで、その後ずっと専門家であり続けることは難しいでしょう。
元の記事でも、自分の知識を最新の状態にアップデートしておくために勉強を続けてきたことが述べられています。
専門職というキャリアは、昇進競争から降りるという意味ではありません。
別の競争に参加することだともいえます。
役職を上げる代わりに、専門性を高め続けるのです。
管理職と専門職は上下ではなく役割が違う
管理職と専門職を比べるときに注意したいのは、どちらが上かという考え方です。
管理職には、人を動かし、組織をまとめ、会社として意思決定する能力が必要です。
専門職には、特定分野について深い知識を持ち、難しい問題を解決する能力が必要です。
役割が違います。
生成AI時代には、この役割分担がさらに明確になる可能性があります。
管理職は生成AIや専門家から得た情報を使って組織として判断する。
専門職は生成AIも利用しながら、自分の専門分野について深い判断をする。
それぞれが異なる能力を発揮することで、組織全体の力を高めることができます。
結論
これまで会社員のキャリアでは、年齢や経験を重ねれば管理職になることが一つの成功モデルとされてきました。
しかし生成AI時代には、管理職にならず、専門職として働き続ける道の重要性も高まっていくと考えられます。
生成AIが一般的な情報を整理し、大まかな回答を提示できるようになるほど、人間には複雑な問題を判断する能力が求められるからです。
そのとき価値を持つのは、役職だけではありません。
この問題ならあの人に聞けば分かる。
そう思ってもらえる専門性です。
管理職として組織を動かす道もあります。
専門職として知識を深め続ける道もあります。
大切なのは、自分がどちらの能力で価値を提供していくのかを考えることです。
生成AI時代には、役職を上げることだけではなく、専門性を深めることもまた、長く働き続けるための有力なキャリアアップになるのではないでしょうか。
参考
企業実務 2026年9月号 松岡俊の経理キャリアお悩み相談 第5回 学び続けることがキャリア不安を解消してくれる